クアトロで見せた、赤裸々なMIOの“模索する痛い”思い

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 静かにステージに現われたMIOが、静かに歌う"NANOSECOND"。声の震えが伝わるような儚さと、幻想的な雰囲気でライヴは始まった。そして2曲目の"灰色の太陽"で、MIOは涙を見せた。

 3/29に大阪・心斎橋クラブクアトロに続き、東京でもライヴを行なったMIO。この日の観客は男女とも半々……、やや女性が多いだろうか。二十歳前後の人が多いように思える。この、元気で体力のありそうな層が、みな一様にMIOの声にじっくり耳を傾けている。そう、あまた存在する女性シンガーの中でも、MIOのうたは、やはり、じっと聴きいってしまう。と同時に、「なにをそんなに思いつめているのだろう?」とMIO本人をじっと見つめてしまうような、「痛い」ものだと感づくのだ。常にナーヴァスな姿勢で、すべての物事に意味を持たせるために模索するような……。
 そして、その「痛み」の強さは、カヴァーを披露したときに一層、感じられることに。
 本編中盤にデズリーの"You Gotta Be"(デズリーを一躍有名にし、イギリスのグラミー賞と言われているアイヴォアー・ネヴェロ賞を受賞した曲)を、そしてアンコール1曲目にシンディー・ローパーの"true colors"('86年の2ndアルバム『トゥルー・カラーズ』に収録されている名曲)を披露したのだが、MIOはこの2曲をとても自由にのびのびと楽しく歌っていたのだ。「幼い頃、歌うことがただただ好きで、それで自分の存在を確かめていた」と本人が言うように、けれんみのない純粋なカヴァーだった。それに対して、オリジナルはMIO個人の「模索している思い」の「痛み」が常に詰まって、負の力が強く働く。"灰色の太陽"の歌詞にあり、ライヴでも言及していた「ここにいる意味を教えて」というテーマを中心に、「痛み」はメロディ、サウンドで助長される。そして、ややかすれながらも、芯のある力強い彼女の歌声が、とどめを刺している。そんなライヴ空間だった。
 生のライヴだからこそ一層強く感じてくる赤裸々なMIOの「模索する痛い」思い。ぱっと見、静かなクアトロだが、MIOの思いとそれを受け止めている観客の思いで埋まった、ある意味、熱く濃度の高い空間だった。
 ライヴ後、「大阪でノドを壊してしまい、声がうまく出なくて。それが気になって、バックとちゃんと合わせられなったのが悔しかったんです」と話してくれたMIO。それと同時に「ここにいる意味」を考えて、涙を流したのではないだろうか。
 真正面から直視する勇気もなく、追求すると壊れてしまいそうな恐怖に目をそむけてしまう、自分の存在、その「場所」と「意味」……。いつも潜んでいる根源的テーマにMIOは等身大に立ち向かう。我々の代弁者としてのMIOの歌は、とても痛く、そして優しい。
●星野まり子

《セットリスト》

ナノセカンド
灰色の太陽
a puzzle
All or Nothing
(If I were a little)Mermaid
フィルム
NUKUMORI
You Gotta Be(Des'reeのカヴァー)
ザクロ
LET…LET ME HEAR
青い鳥
赤いくつ
七つの海の地図

《encore》
true colors(Cyndi Lauperのカヴァー)
手のひらの鼓動

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