「TSUNAMI」が大ヒットした理由
デビュー22年目を順当にクリアしつつあった2000年1月26日、サザンオールスターズの44枚目のシングル「TSUNAMI」がリリースされた。サザンの基幹系楽曲とも言えるミドルバラッド、桑田佳祐の声域のほぼ全てを使った端正なメロディに、オブリガートの印象的なベースが支える、重心が低く温かいサウンド。まさに世の中のど真ん中で響かせるべきナンバーであったが、とかく世知辛い世の中である。 特にポップミュージックの世界は“老兵(ヴェテラン)は死なずただ去るのみ”を強要する風が吹き荒れている。インパクトが先行する若い楽曲に耳目が集まるのだろうか?と思っていたが、事態は全くの逆であった。 冷たい春の雨が降るある日、地下鉄の出口近くの喫茶店で人と待ち合わせをしていたときのこと、傘を差し急ぐように行き交う人々の(傘の奥に隠れた)顔が“皆、今にも泣きだしそうな顔”に思えた瞬間に一つの解答を得ることができた。そう、世の中も僕も泣きたがっていたのだ。 「TSUNAMI」のインタビュー時に桑田はこう言っている。 「TSUNAMI」を誘導路にしてさめざめと泣いた後に、何か打開策はあるのか?…とデリカシーのない人間は聞いてくることだろう。しかし、さめざめと泣くこと自体に何か処方箋の欠片が含まれているような気が僕はする。この数年、桑田佳祐と様々な雑談をしてきた僕としては(詳しくは『素敵な夢を叶えましょう』角川書店刊~を読んでほしい)、彼に共鳴し刺激を受けた言葉として“まだ見ぬ日本人に向かって”ということが上げられる。肝要なのは、まだ見ぬ“国際人”やまだ見ぬ“半人間・半機械”ではなく、日本人だという部分である。「TSUNAMI」のカップリング曲「通りゃんせ」は、その方向を示唆しているのかもしれない。 「TSUNAMI」がポップミュージック界、特に中堅~ヴェテラン勢に与えた影響は計り知れない。新陳代謝を嫌うことなく新品至上主義を相対化できたとき、ポップミュージックは少しだけ豊かになるような気がする。 |
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