11年ぶりの新作にこめられた思い

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ポップ音楽の有名人に格付け制度があり、かつ常識が通用するならば、少なくともある面において、Don Henleyが頂点に立つのは間違いない。'71年に結成されたEaglesのメンバーである。去るミレニアムイヴにロサンゼルスで再結成されたバンドは、これまでに全世界で1億枚を超えるアルバムセールスを上げている。さらに記録魔の方のために付け加えるなら、『Eagles--Their Greatest Hits 1971-1975』はアメリカだけで2600万枚を売上げ、アメリカ史上ではMichael Jacksonの『Thriller』をしのぐベストセラーなのだ。

だが、この成功物語はDon Henleyを語る上でほんの半面に過ぎない。'82年のアルバム『I Can't Stand Still』以来、ソロアーティストとしてもヒット作を出し続けているからだ。このアルバムからはスマッシュヒット「Dirty Laundry」が生まれただけでなく、ある意味でそれ以前よりも高い評価を得て、正式なソロキャリアの滑り出しは上々だった。次は'84年の『Building The Perfect Beast』。ヒット4曲に加え、グラミー賞でも多くの部門にノミネートされ、「The Boys Of Summer」で最優秀ロックヴォーカル賞を受賞。おかげで、次作『The End Of The Innocence』はさらに大きなヒットとなった。

このアルバムも評価が高く、賞を獲得したが、これ以後11年間、Henleyはソロアルバムを発表しなかった。11年といえば様々なことが起きても不思議でない。事実、彼は住まいを変え、結婚し、子供をもうけただけでなく、自らが信じる政治的意義のために莫大な資金を調達し、Walden Woodsプロジェクトを初めとする多くの環境問題に関わった。'94年の大好評だったEagles再結成ツアー(Hell Freezes Overツアーとして知られる)にも参加し、10年間、印税のみに頼って暮らしていたのではないことを見せつけた。

Don Henleyは今も多忙で、それは最新アルバム『Inside Job』からもうかがえる。彼にとって今世紀最初のこのアルバムは、極めて野心的な内容だ。プロデュースはHenley自身と元HeartbreakersのStan Lynch。ゲストにはStevie Wonder(その存在感はオープニング曲「Nobody Else In The World But You」にひしひしと感じられる)やRandy Newman、HeartbreakersのBenmont TenchとMike Campbellなどが参加。『Innocence』から11年間待ち望んでいたオーディエンスにとっては、スリル満点の出来である。

ロサンゼルスで久々のソロツアーに備えているHenleyは、LAUNCHのインタヴューに応え、『Inside Job』の制作について語ってくれた。インタヴューでは彼の誠実で暖かい人柄が感じられ、また極めて博識であることも披露。現在の心境など様々なことを思う存分語ってくれた。

■このアルバムは過去11年間の僕の日記

LAUNCH:ここ数日、ニューアルバムをじっくりと聴いてみたんですが、本当に緻密でソリッドな仕上りですね。ひとつ楽しいのは、1曲ごとに違った雰囲気で、曲と曲とのつながりが素晴らしいこと。それで最後の曲はまた最初の曲に戻る作りになってるんですね。

HENLEY:
そう言ってくれるとうれしいよ。曲順についてはずっと頭を悩ませていたんだ。実際何度も変えたくらいさ。僕はそうやって試してみるんだ。テンポやムードもよく聴いてみるけど、基本的にはストーリー性を大事にするのが僕のやり方だ。このアルバムは過去11年間の僕の日記のようなもので、曲の順番もそうなっている。

LAUNCH:興味をひかれた最後の曲「My Thanksgiving」の歌詞を読んでみます。「気がついたかい? 人はいくら怒ったって、最後には物事はなるようにしかならないと受け入れるものなんだ…」これまでのあなたの題材には、いわば「頭にきた」という感じがありましたが、物事のあり方をどの程度受け入れられるようになりましたか?

HENLEY:

まあ、僕は「頭にきた」ではなく「懸念している」つもりなんだがね。確かにこの歌詞は自分への一言なんだ。僕の知人たちにもね。ある種の問題に対して怒っているのは確かだが、それは懸念しているからなんだ。僕には2人の子供がいて、3人目があと2週間ほどで生まれる。僕は主に環境問題に関わっていて、具体的にはWalden Woodsプロジェクトだ。書物もよく読むが、怒りを感じるのは、人間は地球の将来に対してまったく注意を払っていないということ。それに世界中が企業化していることも腹に据えかねる。少しでもこのことを調べた人なら分かるが、一握りの多国籍企業が世界を牛耳っている。しかも、今では僕自身の仕事であるレコード業界にも影響が及んでいるんだ。合併に買収ばかりだよ。

LAUNCH:でも、あなたは今AOLのためにレコードを作ってます。

HENLEY:
誰のためにレコードを作ってるかなんて知らないよ。毎週違った相手と仕事をしているんだからね。怖くなるよ、まったく。僕は確かに怒ってはいるが、その一方で、ある種の物事については受け入れることができるようになった。とにかく前向きでいなくちゃね。誰かが書き上げた僕のバイオを君が読んだのかどうか知らないが、僕は今でも懸念している。つまり、僕たちの世代はそうすべきだと教えられてきたのさ。誰もが物事のあり方に対して抗議していた。だが年を経ると、みんな、まあいいかと言う。誰もが諦めて、システムに組みこまれてしまってる。生活していくためには、ある種のことは諦めざるを得ないだろうが、ただ、僕が言いたいのは、何もかも現状維持に甘んじる必要はないんじゃないかということだ。システムの中で反抗的でいることもできるはず。僕にはまだ'60年代の精神が残ってる。巨大レコード会社と契約しようと、今でもいつかはそれも変わると期待している。巨大レコード会社なんか衰退してしまえばいい。いつか将来、きっとそうなると思うよ。

LAUNCH:(笑) 今の発言、そのまま出していいですか?

HENLEY:
かまうもんか。連中、それで僕をクビにするのかい?

LAUNCH:'90年代のあなたは、Eagles再結成や様々な政治的活動以外では、音楽的にあまり活発でなかったといえますか?

HENLEY:
そうだね、だからといって後悔してるわけでもないし、後悔していないわけでもない。そういう成り行きだったんだ。でも'90年代をまったく無為に過ごしたわけじゃない。僕の前作は11年前の'89年6月リリースで、'91年いっぱいツアーを行なった。'92年にも何回かギグをやった。その後、Walden Woodsプロジェクトに深く関わるようになったんだ。かなりの時間を費やして、本を編集したり、プロモーションしたり忙しかった。ベネフィットコンサートもやった。'93年にはテキサス州で、Cattle Lake Instituteという環境教育の施設をもう1つ設立した。僕の故郷なんだ。あれにもかなりの時間がかかった。'94年になると、まず、ノースリッジ大地震で僕のロスの家が倒壊したんで、予定が狂った。その2カ月後にコロラド州アスペンで大集会を行ない、Eagles再結成のオープニングとしたんだ。それからツアーをやって、Eaglesのレコーディングに2年半から3年かかったんだよ。それにこの時期は、結婚して2人の子供ができた。だから'90年代は結構忙しくしていたんだよ。ソロアルバムは作らなかったけど。

LAUNCH:この11年間でオーディエンスは変わったと思いますか? 今はどんなオーディエンスでしょうか?

HENLEY:
そのことについては僕も考えているよ。おっと、Geffenとの裁判を忘れていた。あの裁判にも'90年代の何年かを取られたんだ。あれを忘れるわけにはいかない。

LAUNCH:7年間でしたっけ?

HENLEY:
まったくね。結局、示談となったんだが、時間とエネルギーを取られたよ。僕のオーディエンスについては、よく分からないな。でもベビーブーマー世代は、自分たちの音楽を渇望しているという感じはする。なにしろ7800万人だからね。先日何かの統計を読んだら、90秒ごとに誰かが50代になっているらしい。だからオーディエンスは存在するんだ。ラジオが僕と彼らの掛け橋になってくれればね。ラジオをつけても、僕が良いと思うような音楽はあまりかかっていないんだ。客観的に聴いてみて、「自分は単なる時代遅れになってるんだろうか?」と自問することもあるよ。でも時折、良いものが聴けることもあるんで、「いや、そうじゃない」と思うんだ。単なる世代のギャップでもないし、今のものが分からないというわけでもない。単に出来が良くないということなんだ。何も思想が反映されていない気がする。僕たちはかなり長い間、過剰な満足の時代に生きている。それは満足といえるものなのかもしれないが、僕が欲しいと思うような満足ではないんだ。

LAUNCH:今回のアルバムの全体的サウンドについて、特に「今っぽく」聴こえるように努力したことはありますか?

HENLEY:
いや、ただ好きなことをやろうとしたんだ。共同プロデューサーのStan Lynchと僕は、音楽の歴史がよく分かっている。これまでの素晴らしいレコードやサウンドはすべて、頭の中に収まっているんだ。レコーディングの時は、例えば、「Led Zeppelinのあのギターのようなサウンドがいいね」とか、「Beach BoysThe Beatlesのサウンドにするか」とか言いながらやった。参考にするものは'50年代まで遡るんだから、かなりのものだ。Stanは、テクノロジーをものすごくよく勉強したんだよ、古いのも新しいのもね。エンジニアのRob Jacobsもそうだが、クールなものにかけては本当に知識が広い。古い機器を使って良いサウンドを作り出したりもできる。それに毎週のように出る新しいものについてもよく知っている。古い機器と新しい機器をうまく組み合わせ、両方の最高のところを使って、温かみがありながら、なおかつモダンなサウンドを作り出したんだ。僕のスタジオにある卓は515の古いモデルで、サウサリートのRecord Plantから持ってきた。すごく良いサウンドだよ…温かくて今っぽくて。2度改造したんだ。ドラッグを全部掃除機で吸い取ってきれいにしてやったんだけど(笑)、あの卓に口が利けたら面白いぜ! とにかく、1度改良して、12年ほど倉庫にしまったままになってたんで、また改良したんだ。ああいう機械は使わないとだめになるからね。ゴールドのスイッチがついていて、まるで芸術品さ。西海岸に近いから、ちゃんとメインテナンスしていないと、潮風でエレクトロニクスの機器はすぐだめになってしまう。僕のオーディエンスの話だが、分からないね。やってみるしかないよ。さっきも言ったけど、僕の音楽を聴いてくれる人もいると思う。最近の音楽や音楽業界は、お子様向けと、意味不明のわめき声の間を行ったり来たりしているだけだ。僕は意味のある歌を作りたい。君のオーディエンスに関するの見方はどうだい?

LAUNCH:揺るぎないというか…例えばHeartbreakersのメンバーやなんかの話が出ましたよね。そういう確固としたオーディエンスと、もっと今っぽいサウンドのグループ…

HENLEY:
それとEaglesのオーディエンス。これはすでに出来上がっているオーディエンスといえるかな。

LAUNCH:今回のアルバムにも新しいものがあります。以前のシングル「Boys Of Summer」のように、新しいオーディエンスを引きつけるかも知れませんが、彼ら自身は特にDon Henleyファンとは意識しないでしょうね。例えばオープニングのStevie Wonderが入った曲は、そういう意味でとてもアップビートですし…。

HENLEY:
Stevie Wonderとコラボレートしたあの曲が1stシングルの予定だったんだが、レコード会社の意見は違った。今回のアルバムでは1stシングルをどれにするかで、意見は様々に分かれたんだ。みんな違う意見で、そのこと自体が良いか悪いかは見方によるね。良い曲ばかりだからともいえる。結局、未だに1stシングルは決まってないのさ。

■それでも僕はそういう歌を書いていく

LAUNCH:一言で言って、今回のアルバムとこれまでのものとの違いは何ですか? 11年ぶりというのは長いですからね。

HENLEY:
まずプロデューサーが違う。Stanは前回のアルバムでもちょっと関わっていたけれど、プロデューサーの範囲ではなかった。だからそれが違う。他にはマリブの僕のスタジオということ。それに僕の人生がガラッと変わってしまったこと。以前は独身で子供もいなかった。このことが歌に大きく反映している。前回のレコード以来、僕の人生はものすごく変わったんだ。テクニックは基本的に同じさ。最初に音楽をたくさん作って、それから僕のノートやメモを読み返して、タイトルやアイデアを決め、それを音楽と合わせる。曲作りはよくパシフィック・コースト・ハイウェイをドライブしながらやった。スタジオから家に帰る途中でね。パシフィック・コースト・ハイウェイはもってこいの仕事場だよ。家からスタジオへの行き帰りに曲を作るにはちょうどいいハイウェイだ。だから手法はこれまでとほとんど同じだよ。

LAUNCH:'70年代のあなたは、たくさんの作品を作り、ツアーに多くの時間を費やし、いわば比較的保護された環境にいたわけです。でも今はすっかり状況が変わった。結婚、子供…題材には事欠かないでしょうが、これは足かせになりますか? それとも曲作りが以前よりやさしくなりましたか?

HENLEY:
'70年代や'80年代、'90年代を通して、僕のアイデアやインスピレーションは主に読書からだった。だからそれほど今も変わらないんだ。ただ人生の方向性は広がった。今でも手当たり次第に読書するし、家の中は本だらけで、食事する場所もないくらいだよ。確かに僕の人生は大きく変わったけれど、今はそれが面白い。僕はベビーブーマー世代の走りで、ワイフは最後のほうなんだ。'47年生まれと'63年生まれだから、彼女には僕にはない考えがある。それに子供がいるというのも大変化だ。子供は自分が昔やっていて今では忘れてしまったことを思い出させてくれる。大人になって忘れてしまった良いことをね。今の僕は、子供時代以来、初めて感じる幸せの中にいる。それでも、世の中には腹の立つこともある。懸念を感じながら幸せでいることは矛盾していないんだ。この二つは相反しない。僕はよく「きみはなんて皮肉屋で、悲観的で、怒ってばかりいるんだ」と言われるが、それでもすごく幸せなんだ。人生は順調で、楽しいことも多い。喜びも多い。でも愚かな楽天家にはなりたくない。盲目的であってはいけない。世の中はもっと進歩すべきなんだ。David Crosbyと話していたんだが、彼は今、社会活動における音楽の役割について本を書き、映画を作ろうとしている。音楽のそういう役割は、はるか昔の中世にまで遡るんだ。当時は音楽が新しい情報を知らせた。吟遊詩人が町から町へと旅しては、伝えていった。それは死や殺人や戦争など悲劇のこともあれば、ラヴソングだったりもした。'40年代や'50年代、'60年代初期には、アメリカン・フォークミュージックのムーヴメントもあった。ビートニクもあった。つまり音楽には常にプロテスト精神が宿っている。'60年代は特にそうだった。ベトナム戦争に市民権運動など、多くのことに抗議したんだ。ところが今では、そんなことはまるでなくて、みんなすべてOKと思ってるようだ。でも環境危機はどうなんだ。石油会社や薬品会社や電気会社に賄賂をもらっていない立派な科学者なら、地球上のすべての生物システムは危機に瀕していると言うはずだ。それにメディア。プライバシーがなくなっているのは大きな問題じゃないか。さっきも言ったように、企業は世界を乗っ取って、小さいほうを押しつぶしている。皮肉なのは、ロシアはすでに脅威ではなくなったが、冷戦はもっと密かに内向していることだ。冷戦は今ではワシントンにある。党利党略だけの政治に成り下がった共和党と民主党は、まるで小学生みたいに喧嘩している。だから冷戦は形こそ変わったが、今も存在するんだ。ただ極めて密かに巧妙になってるんで、人々が気づかないだけ。抗議の対象は今もたくさんある。だが景気はいいし、株式市場は好調だし、みんなBMWを乗り回してハッピーだから、現状維持でやっていきたいってことなのさ。

LAUNCH:ニューアルバムは取り上げた題材の深刻さの割に、どの歌にも一種の皮肉とユーモアが感じられます。

HENLEY:
気づいてくれてうれしいよ(笑)。まったく気がつかない連中もいるんだ、物書きでさえもね。もどかしいよ。これまでもそうだったけど。僕はこうして意見を述べているつもりなんだ。もっとも、音楽やアートが世の中の流れを著しく変えることができるなんて幻想を抱くのは、とっくにやめたけれどね。'60年代にはプロテストソングやデモなどがあったが、結局今でも同じ種類の人間が世の中を動かしている。市民権運動は確かにある程度成功した。マーティン・ルーサー・キング牧師やその後継者のおかげでね。でも環境問題は、ほとんど何の進展もない。いつも1歩進んで2歩後退さ。特に今の政治状態では何も変わらない。これにはがっかりするよ。それでも僕はそういう歌を書いていく。今ではそういうミュージシャンは少なくなったけど。

LAUNCH:最近のヒップホップは政治的問題を扱っているといえますが、そのほとんどは、私が個人的に関わりたくないような題材に偏ってます。金とか権力と…

HENLEY:
僕は地域社会のことを懸念している。僕の歌はどれも4つか5つのことを歌ったものだ。コンサートでも話したんだが、愛、家族、家庭、地域社会という主題だ。どの歌もこれらを模索する内容なんだ。今ではあまりそういう歌を書く人はいない。愛、というか、連中が愛と思っていることを歌ったものは多いが、地域社会を歌ったものはない。

LAUNCH:全米のベストセラーアルバムの功労者であるあなたから、そういうことを聞くとは驚きですね。

HENLEY:
でも、僕個人が功労者というわけじゃないよ(笑)。それがどういうことなのかよく分からない。長生きして20年か30年経てば分かるかもしれないが、今の時点ではその意味がよく分かりかねる。うれしいし、ありがたいと思っているよ。でも、何でも数が多けりゃいい、というのは僕の信条ではないんだ。いわば個人的信条にとってはしゃくにさわる現象だよ。だから自己矛盾を感じる。

LAUNCH:その答えは気に入りました。

HENLEY:
メディアがMichael Jacksonとのコンテストに仕立て上げたのは気分を害したよ。世界的には彼の売上のほうがずっと多いに決まっているんだから。とにかく、ありがたいとは思っているが、それだけだ。

LAUNCH:ソングライターとしてあなたが取り上げる題材は、Eagles以前から今日まで、どのように変わりましたか?

HENLEY:
テーマは基本的に同じで、'76年のEaglesの「The Last Resort」の頃から環境問題だよ。あの歌が環境問題を歌った初めてのものだとは言わない。Joni Mitchellはそれ以前に「彼らはパラダイスを舗装して駐車場を作った」と書いている。それに君が覚えているかどうか知らないが、Womenfolkは「丘の斜面に並んだ小さな箱…何から何までそっくりの家並み」と歌っていた。建売住宅団地を歌ったもので、僕は的を得た歌だと思ったよ(笑)。それにWoody GuthrieやPete Seegerも環境について歌っている。だからテーマとしては新しいものじゃないが、僕は年とともにこの問題をよりうまく表現できるようになっていると思いたい。今ではもっと大人の見方ができるようになってるしね。怒りも的が絞られてきた。ラジオ対しても怒りは多いが、的が絞られているとはいえない。Tom Pettyが「意味なき反抗」と言ってるが、まったくその通りさ。反抗も目的があるならいい。それに若者が怒るのも当たり前だからいい。僕が言いたいのは「そうか、怒ってるのか、それでどうしようっていうんだ? その怒りを何か前向きの行動に変えて、世の中を良くする気はないのか」ということだ。みんなでわめいて、おかしなヘアカットをして、おかしな格好をするのはいいが、そんなことをしたって世の中何も変わらないってことだ。Neil Youngも言ってるように、「風に向かってションベンたれてるだけ」さ(笑)。

LAUNCH:オープニングトラックに「素敵な隔離」という歌詞が入っていますが、あなたのような立場なら簡単に手に入ると思う人が多いでしょう。

HENLEY:

素敵な隔離というのは2つの意味をかけているんだ。1つはライフスタイルで、もう1つはレコーディング(笑)。というのも、僕は歌を隔離した防音個室でレコーディングしてたんで、みんな、あの歌詞には笑ったんだ。ライフスタイルのほうは、僕はこれまでずっと普通の生活で、隔離された生活はしていない。食料品の買い物にも行くよ。大抵は人のあまりいない夜遅くにスーパーに行って、ガソリンも自分で入れる。庭仕事もする。ダラスの家にいる時は、娘と朝食を食べにパンケーキハウスに行ったり、土曜日にはハンバーガーも食べに行く。釣りも好きだし、僕のような立場の人間としてはできる限りの普通の生活だよ。隔離されるのは良くないと思ってる。身近にも、イエスマンやおべっか使いばかりに囲まれて、かごの中で暮らしている連中がいる。Elvis Presleyの本を全部読んだら、なんでああいうふうになってしまったのかよく分かった。かごの中で暮らす人間になってしまったんだよ。大勢の人がそうなっているが、僕はずっと以前に世間の感覚を失わないと決めたんだ。そりゃあ、2度ほど道を踏み外したこともあるが、それくらい誰でもそうさ。若くして成功し、金もできると、何もかも節制がなくなる。Bob Dylanがいみじくも歌っているように、「何か守るべきものがあるかのような錯覚に陥る」と怖くなるんだ。僕もしばらくはそうだった。自分も何か失うんじゃないかと思ったが、いやそれどころか得るものがいっぱいなんだと思い直した。僕はこれまで恵まれてきたよ。それでも容易に横道にそれることもある。最近の若い新人グループの気持ちがよく分かるんだ。のし上がってきたと思うと、しくじったり、横道にそれたり、自分を見失ってしまう。それに最近のレコード業界のやり方ときたら、アルバム1枚でおしまいだ。いやシングル1曲ということさえある。僕はこれまでやってこられてうれしいよ。1つにはマネージャーのIrving Azoffのおかげさ。この業界では最も頭の切れる人間の1人なんだ。

LAUNCH:マネージャーは時にはあなたに「ノー」と言うこともあるでしょう?

HENLEY:
ああ、僕にはありがたい。アーティストに言うべきことをいうのを恐れているマネージャーが多いんだ。でもIrvingと僕は違う。僕は結構現実的な人間だから、僕たちは大抵のことでは同意できる。アドバイスに納得できない時は、自分でも迷いがある時だね。

LAUNCH:アーティスト1人のために大勢が一緒にツアーに出て、誰もアーティストに「ノー」と言えないなんて悲しいですね。

HENLEY:
でも、この「名声」というのは、それほど恐ろしいものなんだ。名声と悪評が表裏一体となってくる。若者が有名になるのは恐ろしいことだ。同時に自分は取るに足らないという気持ちも高まってくるからなんだ。僕自身よく使ってるPaul Simonの歌詞に「フリをしてるだけさ、僕はほんとは大したことないんだ。そのフリをしてるだけ」というのがあるが、若いパフォーマーやエンターテイナーはみんな、そういう気持ちを持っている。そこに大勢の人が近づいてきて、ちやほや誉めてくれるから、そういう連中だけに取り巻かれていたくなる。というのも自分自身は死にたいくらい怖いからだ。いつか人々が、お前はほんとはクールじゃない、才能もない、嫌なやつだ、こんな欠点がある、あんな欠点がある、と言い出すんじゃないかと恐れているからなんだ。だから、自分が安心できる連中だけに取り巻かれていたいのさ。だが、最後にはそれが裏目に出るんだ。ドラッグと同じで、最後には自分がやられてしまう。本当に難しい。僕はもうこの年になったことがうれしいよ。40歳くらいから、物事をきちんと見ることができるようになり、その後はそれがぐんぐんうまくなっている。ほんとにきついことなんだ、特に最近は、有名でいられるのはほんの1瞬で、名声はすぐに逃げていく。アメリカでの名声は醜いものになってしまった。みんなが醜いものにしてしまうんだ。呆れるほどひどいことをしでかして有名になれるんだからね。成果と名声を区別しない。殺人者が有名になれる時代だし、何もやらなくても有名になれる。単に金持ちだからとか、その場にいたからとか、その場をめちゃくちゃにしたからとか、それだけ。そういうのは成果や、何か前向きなことをやり遂げたというものじゃない。それにメディアも全体的に意地悪になった。音楽業界だけでなく、政治も含めてすべてがだ。いわば「尻尾をつかんでやった」というジャーナリズムに成り下がってしまった。僕は今の時代なら、ミュージシャンを始めようとは思わないね。

LAUNCH:「Damn It, Rose」の歌詞に、MTVに出る“思い上がったやつ”のことが出てきます。ああいう若いアーティストを見ると、どう感じますか? 可笑しいですか、悲しいですか?

HENLEY:
その歌詞の続きはこうなんだ。「昔の僕とまったく同じことをやってる」。だからほろ苦い思いだね。可笑しいし、悲しいし、心を締めつけられる。学校の上級生になったときと同じ気分だ。「新入生でなくなってホッとしたぜ」という感じ。何も見下しているわけじゃない。ホッとした気持ちだ。MTVは見るにたえられないから、ほとんど見ない。本当にたえられないんだ。こういうことを言うべきじゃないがね。VH1は時折見るよ。僕の世代に近いから、まだ分かる。それでもそれほどは見ないんだ。例えば、僕自身がVH1でショウをやる予定があるようなときだけだよ。どんなものをやってるのか見ておきたいからね。

LAUNCH:あなたのレコードのプロモーション方法を振り返ってみて、ずいぶん変わったと思いますか?

HENLEY:

ああ、変わったとも。プロモーションは仕事のうちでも一番嫌な部分だね。曲作りやレコーディングは難しいけれど、そっちは好きなんだ。それにライヴも好きだけれど、プロモーションだけはどうもね。自分のことを話したり、自分自身をプロモーションして、メディアに出て姿をさらすというのは、一番苦手だ。レコードプロモーションは、僕の前作の頃と比べてもずいぶん変わった。今ではウェブサイトを立ち上げるし、雑誌だってすごく増えている。ラジオは基本的に同じだが、やることがぐっと増えた。TVは、僕はやりたくない。TVをやるのが好きなロックンロール・アーティストなんているのかね、特にネットワークTV局なんか。でも僕は今度はやってもいいと思っている。深夜のトークショウや、昼間と朝の番組をちょっとやる予定なんだ。朝の7時や8時に起きて歌うなんて大変だよ。だが今回はやる。このアルバムのレコーディングには2年半かけたし、ある程度の評価は得たいと思ってるから、やるべきことはやるつもりだ。それに結構楽しい(笑)。

■自分のことくらい自分でなんとかしろよ!

LAUNCH:このアルバムの中で特に興味を引かれる歌は「They're Not Here, They're Not Coming」ですが、これはあなたが実際に経験したことに基づいているんですか?

HENLEY:

そうなんだ、いくつかの経験に基づいている。1つはロズウェル事件といって、僕の生まれた'47年にニューメキシコ州ロズウェルで起きた墜落事件。僕はこういう事件に疑問を抱いていてね。SF物をよく読むし、カール・セーガンの大ファンなんだ。科学全般に興味を持ってる。Skeptical Inquirerという科学雑誌も購読していて、この雑誌は、よくTVやメディアが超自然現象だといって大袈裟に取り上げる、くだらない事件を科学的に証明している。別の太陽系や惑星の人々がこの地球にやってくるなんて、現実的に不可能だということは、ちゃんとした科学者なら誰でも分かっていることなんだ。そんなに長時間生き長らえる生物体などありゃしない。理論的に不可能なんだよ。時間や次元を超越する能力を持っていない限りね。それなのに統計によると、アメリカ人の50%が、エイリアンが地球にやって来たり、今でも自分たちの中に混じっているなどということを信じている。まったく開いた口がふさがらないよ。

LAUNCH:そういう人に限って副大統領の名前さえ知らなかったりする…

HENLEY:

(笑)その通り。ニューメキシコ州に行くのにパスポートがいるなんて思ってるんだぜ。だからそういうことについて歌を書くことにしたんだ。でもこの歌には宗教や聖霊の意味も込められている。人々は、どこかにいる何か、あるいは誰かに自分を救済してもらいたい思いで必死なんだ。人間というのは自分で自分を救済することができないのは明らかだからね。だから、自分は1人ぼっちじゃない、誰かがそこにいてくれると信じたいんだよ。この歌の意味はそこにある。このテーマは僕の歌の多くに共通していることで、つまるところ「自分のことくらい自分でなんとかしろよ!」と言いたいのさ。またこの歌はアメリカ文化の馬鹿げた部分を取り上げている。Merle HaggardやGeorge Jonesがラジオで禁止されるなんて、一体どういう文化なんだい? それにアメリカ文化最大の輸出品が「オーランドのドブネズミ」だってんだから。しかもこれだって、僕が何のことを言ってるのか分からない連中さえいる。僕のバンドメンバーの中にも「オーランドのドブネズミってなんだい?」と聞いたやつがいるぜ。

LAUNCH:実はあなたの前のレーベルと今のレーベルとの間で、何かあったのかと勘ぐっていたところなんですよ。ディズニーと何かもめたんですか?

HENLEY:

いいや、僕はただ危険だといってるだけさ。ディズニーやその会社についての本を全部読んだ。まったく貪欲な会社なんだ。あんな裏表の激しい会社はないね。「ミッキーマウスやウォルト・ディズニーが嫌いだなんて、いったいどうして?」と人は言う。ところが、ああいう企業の裏は腹黒いんだ。人々は表しか見ない。その裏にあるものは見えないのさ。それにオプラ・ウィンフリーの件だって、なんで彼女は牧場の家が買えないのか。あれは僕の故郷のテキサス州のことだよ。肉牛生産組合やカウボーイたちが彼女に対して訴訟を起こしてるからさ。例の「ハンバーガーは金輪際食べないわ」とオプラが自分のトークショウで言ったのが原因。テキサス州アマリロの裁判所まで彼女を召喚したんだ。彼女もしたたかで、一大メディアショウに仕立て上げた。おかげでアマリロは一躍名所になっちまった。僕の故郷にかなり近いところで、テキサス州出身として恥ずかしいことがまた1つ増えたよ。他にもテキサス州は全米一汚染されている州だし、10代の妊娠も最高だし、飢えている子供は100万人。僕が大統領選で票を入れたくないのが誰か分かるだろ? まあこの歌ではそんなことを取り上げてみたんだ。この歌は大好きな人と大嫌いな人に分かれるね。

LAUNCH:「Working It」では、CD-ROMのことを歌っていますが、あなたもインターネットのサイトを持っています。それに大変な読書家だし、情報の重要さを知っているし、そうすると…

HENLEY:

だが僕はプライバシーの重要さも知っているんだ。自分でも葛藤があるんだよ。

LAUNCH:私はよく仕事で、情報を即座に見つけなければならないんですが、インターネットだとそれができるんです。だから結構クールなものだと思ってます。

HENLEY:
インターネットのそういう一面は確かにいいが、クズのような情報も山ほど垂れ流されている。Eaglesや僕についてのそういった内容もある。くだらないゴシップで、他にすることがない連中の仕業さ。自分のウェブサイトを立ち上げるのを楽しみにしてるんだ。それでガキッぽい悪口に対抗することもできる。僕自身はあまりアクセスすることはなくて、何か知りたいことがあれば、秘書に「これを見つけといてくれ」と頼んでる。メールもやらない。アドレスは持ってはいるが、秘書に対処してもらってる。その代わり僕は手紙を書くんだが、これはもう消え行くアートだよ。ファックスも使うが、メールはどうもね。ウェブページの上ではヘッダーやあれやこれやで美的じゃないし、形式も何もあったもんじゃない。確かに何でも見つけることができる素晴らしい道具だが、どんな道具も一緒で、悪用されることもある。プライバシーは問題だと思ってるから、自分のウェブサイトでは載せる内容について、厳しく制限するつもりだ。

LAUNCH:その気持ちはよく分かります。クレジットカード情報を盗まれるとか聞きますしね。

HENLEY:
そうなんだ。僕にもそういう経験がある。僕は特に子供を好奇の目から守りたい。できる限り普通の環境で育てたいんだ。LAでなく、テキサス州に住んでいるのもそのためさ。子供の顔を知られたくない。

LAUNCH:環境保護や政治的運動に深く関わっていますが、このせいで音楽制作など他の大事なことが疎かになることは? そういった問題にどう関わっているんですか?

HENLEY:
そうだね、まあ、金をほとんどつぎ込んじまったってことかな(笑)。いつか歌を書きながら、「いったい何になる?」と言う日が来るかもしれない。そんな気分になると、こういった手紙が届いたりするんだよ。(コーヒーテーブルから手紙を取り上げる)。Walden Woodsプロジェクトによって人生が一変したというんだ。この男性は学校では落ちこぼれで、何に対しても投げやりだったそうだが、ある日、変わったというんだ。こういう手紙がしょっちゅう来る。僕は読んだら返事を書いてるよ。こういう手紙が来ると、やりがいを感じる。さっきも言ったが、僕は、音楽やアートが世の中に大変化をもたらす触媒になるという幻想はさらさら持っていない。変化を起こせるとしても、非常にゆっくりとしか起こらないさ。だがわずかな人を対象にしているとしても、多少のことはできると思うんだ。それで満足だよ。それに下手な精神分析なんかにかかるよりはマシさ。これが僕のはけ口となってるんだよ。腹が立っても誰かをぶちのめしたりしなくてすむ(笑)。社会とつながっていると実感できるしね。僕の「Heart Of The Matter」という歌には、世界中から本当にたくさんの素晴らしい手紙をもらったんだ。こういうことがあると、とてもうれしいし、やりがいを感じるよ。

LAUNCH:最近では音楽と関係ない友人が多くできましたか?

HENLEY:
そうでもないね。僕は52歳だよ。たまには新しい友人ができるが、年を経るにつれて、昔ながらの友人が一番いいと思えるようになってくる。高校や大学の頃の友人に会いに行ったりしてる。このあいだ、幼なじみから手紙が来たところなんだ。去年気まぐれで、彼の両親にクリスマスカードを送ったのさ。もう35年も連絡してなかったのに。両親からクリスマスカードを渡してもらった友人は、家族の写真と一緒に手紙をくれたんだよ。本当にいいやつで面白い友人だったのを思い出したんで、これからまた付き合っていこうと思ってる。最近はそうやって、昔知っていた人々に連絡を取って、付き合いを再開しようとしてるんだ。僕は付き合いやすい人間じゃないことは自覚している。相手に対しても期待するところが大きいんでね。それに友人に関して僕は警戒している。過去にいろいろ経験したことがあるんだ。ことに'70年代はずっとドラッグでハイだったんで、しらふだったら、とてもじゃないが付き合いたくないような連中と付き合ってることも多かった。世の中にはまともじゃない人間が大勢いることも分かった。僕をカモにしようとする連中も多い。だからある程度注意しなくちゃならない。'70年代後半や'80年代初期には、ストーカーにもねらわれたんだ。身の危険を感じたよ。音楽業界では盗作訴訟が大流行りで、George Harrisonや多くのミュージシャンが裁判に持ち込まれた。僕も人からテープを受け取ったり、聴いたりするのを控えたほどだ。今では、'70年代後半や'80年代初期のEagles絶頂の時ほど有名でなくてホッとしている。それに年を取ると面倒もそれほど多くなくなる。それでもまだ頭のおかしな連中が僕のことをねらっているらしい。インターネット上で妙な動きがある。僕のドメインネームを買っているやつがいるんで、訴訟に持ち込むと言ってやる必要があった。テキサス州にDon Henleyという男がいるらしく、キリスト教についてのウェブサイトを持っていて、僕の音楽を使って、僕に関する情報を流しているんだ。そいつは、人々が僕のサイトだと信じるようになってきたんで、「サービス」として僕の音楽などを流すことにしたと言うんだ。それでちょっともめたのさ。その上、そいつがガチガチのキリスト教保守ときてる。きみも知ってると思うが、僕はそういう主義には与しない。というわけで今もケリがついてないんだが、それ以外ではストーカーの問題はしばらく起きてない。時折ヘンな手紙が来るけれど、そういうのはしかるべき所に渡してる。今は落ちついた生活で、気に入っているよ。

LAUNCH:今回のアルバムは批評家受けすると思いますか?

HENLEY:
そうなって欲しいが、たいそうな期待はしていない。批評家受けを期待すると、たいてい落ち込むことになる。だから努めて期待しないようにしている。思わぬ好評で喜ぶというのがいいね。今のところ、反響は小さいが、かなり良い評価だ。でも、どうなるか分からないよ。一方で、僕や僕の世代のことを知らない批評家の世代が多くなっているから、若い連中からは拒絶されるだろうとは思っている。ほんとにどうなるか分からない。僕自身はすごく良い出来だと信じている。この2年半、心も魂も入れ込んで作ったアルバムだ。多少なりともオーディエンスがいてくれたらと思ってる。これだけ生きてくると、否定的なことを言われても耐えられるし、だいたいこれまでもずっと良いことなんて言われたことがないよ(笑)。前作は結構前向きに受け取られたけれどね。でもEagles再結成で、それも帳消しになってしまった。だからまだダメージを引きずってるかも知れないよ。分かるだろ?

by dave_dimartino

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