そろそろ本気(マジ)で…

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Wu-Tang ClanのラッパーRaekwonには、このところ思うことがある。それは、成長。その言葉が彼の口に一度のぼれば、百度繰り返されたに等しい。

LAUNCHのラップ/R&B担当編集者Billy Johnson Jr.と、彼との最近の対話が、まさにそうだった。

ネガティヴなことばかり、繰り返し人の頭に植え付けるのはイヤなんだよ。だって、それが俺の生き方だと思われるだろ。俺がそんな生き方をしてたのは、ほんの短期間だったのに」とは、“元・拳銃強盗兼クスリ屋”を自称するRaeの弁である。

しかし、状況は変わった。そして、その変化が『Immobilarity』に表れている。Clanを離れての、彼の第2弾である。

俺は自分を立て直して、大人になったんだ。今の俺はただ、悪い方じゃなくて良い方に変わった俺の姿を、ブラザーたちに見せるのみさ

公開されたばかりの映画『Black And White』(Brooke Shields主演)での役柄しかり、ビデオゲーム『Wu-Tang Shaolin Style』のキャラクターしかり、そして思索中の自伝しかり、かつてのストリートギャングは今、ゲットーを遥かに超えたところに自分が目指すものがあることを証明して見せようと心に決めているのである。


LAUNCH:American Cream Teamについて教えてください。どうやって集めたメンバーなんですか?

REAKWON:
American Cream Teamは、ニューヨークシティ中から集まっている。俺の拠点であるニューヨークは、どこよりも早く俺を認めてくれた。だから、地元に恩返ししたかったんだ。業界を目指すブラザーに手助けを…ってことで、スタテンアイランド、ブルックリン、クィーンズ、ハーレムから集めてきた。要は、Wu-Tangがそうだったように、力を合わせて、ひとつの目標に向かってリプレゼントする機会を与えてやりたかったのさ。Wu-TangもCream Teamと同じように、スタテンアイランドを始め、あちこちから集まっている。Raeがちゃんと若手に目を向けているってことを、ブラザーたちに知らせたかったんだ。今、俺は連中のコーチであり、最高経営責任者であり、業界における兄貴分であり、色々と選択肢を与えて、連中を指導している。そんな仕組みなんだ。

LAUNCH:新人ラッパーを自分のアルバムにこんなに大勢参加させることに、不安はありませんでしたか?

RAEKWON:
世間は何とでも言うだろうが、ヒップホップアーティストである俺としては、今がそのタイミングなんだからしょうがない。俺もそうやってチャンスを掴んだんだ。今度は別のブラザーが、そこからチャンスを掴んでいくだろう。そんな伝統の一端に、俺は身を置きたいんだよ。ブラザーたちは、アーティストとしての自己表現を覚えていかなければいけない。そのためには苦労もあるってことを、覚悟しておかないとな。一夜にして、とんでもないことにもなりかねないんだから、ある程度の辛抱は必要だ。俺も、一生ライムしてる気はない。この辺で、俺が味わってきた苦労は、次のブラザーにも他人事じゃないんだってことを伝えておきたい。この業界で7年やってきた俺だ。他のブラザーに力を貸してやったり、正しい進路を教えてやるくらいの知識は持っている。できれば、俺と同じ苦労はしなくても済むようにな。ハードなライムもいいが、何かポジティヴなことを言わなくちゃ。単なるストリート出身のMCじゃなくて、多彩なMCであることをブラザーたちにアピールしないと。ストリート出身だからって、そういうレッテルを貼られて、ストリートラッパーとしか見てもらえなくなりがちだから。うちの家族は俺にリスペクトってものを…他人に敬意を払うってことを教えてくれた。リスペクトを忘れちゃいけない。それは家族に教わるもんだ。俺は、自分の作品では両方の面に光を当てることにしている。それが大事だと思ってる。バランスがね。

LAUNCH:あなたは自分のリリックが、世間にどんなインパクトを与えていると思いますか? あなたのスタイルを真似て、使い回している人も大勢います。そもそも、どんな狙いで始めたことだったんですか?

RAEKWON:
そもそもの狙いは、ファミリーの重要性と、マフィアの掟を世間に知らしめることにあった。連中にとっては何でもファミリー優先。そして掟に厳しい。自分たちの掟に従って生きている。団結するとなったら、とことん団結する。だから、俺たちをそういうファミリーとしてリスペクトしてくれる人たちだけを相手に作るんだ。とにかく、リアルなのさ。自分が掟に従って生きてるブラザーだってことを、そしてファミリーと呼び合える仲は誰にも邪魔できないってことを知らしめる。俺もその伝統にのっとって事を進めているんだよ。ファミリーの一員には、そう簡単になれるもんじゃない。信用できない連中のことは、常に警戒しておかないといけないからな。人となりを知り、こっち側の人間かどうかを見極めること。そこんところを俺は強調してるわけ。アルバム『Cuban Lynx』も、そのノリでやった。互いに絆を感じて、敬意を持って取り組んだ。敬意なんだよ、俺たちが求めてるのは。そこが大事だ。人からリスペクトしてもらうには、強くなるしかない。ファミリーはチームであり、日々手を組んで鍛え合うもの。目標を定めることが大切だ。

LAUNCH:「Protect Ya Neck」が、あなたが書いた初めてのラップだったそうですね。

RAEKWON:
どっちかっていうと、フリースタイルのラッパーだと思われてたから、MCとしては、それが俺にとっての第一関門だった。楽しくなくちゃ話にならない。昔はただの趣味だったんだから。「Protect Ya Neck」は、即興で書いたんだ。Clanで一番イルなメンバーを目指してたわけじゃない。リレーでいったら、俺はバトン待ちの状態で、自分の番がきたら全力を尽くすだけだ、と。あの曲で俺がやったことを、世間がリスペクトしてくれるようになって初めて、現実感が湧いてきた。気に入ってもらえたんだ。じゃあ、今度はどうする? 俺の場合、あれは幸運だった。一発目はうまくいったとしても、次もうまくいくという保証はない。何があってもいいように、とりあえず1ドルぐらいはポケットに入れておいた方がいい。俺は、もっと真剣に取り組んでみたくなった。何しろ、今や俺も世間に注目されてんだから。まだ始まったばかりさ。この調子で突き進むつもりだ。

LAUNCH:あなたの作品のボキャブラリーに、皆が驚嘆しています。完璧主義者だからできることなんでしょうか。それとも、人と違うことをしたいという思いから?

RAEKWON:
いつも最高のものを届けたいと思ってるだけさ。自分で納得できないものは絶対に出したくない。これは自分への宿題みたいなもんで、合格しないと気が済まないんだよ。何をやるにしても、「気に入ってもらえようがもらえまいが、構うもんか」とは考えない。ブラザーたちが気持ち良くノッてくれるようなアートに仕上げるために、常に更なる努力を心がけている。すべてに全力を尽くす…だから、運動選手みたいなもんさ。同じようなことをやっているブラザーは大勢いるわけだから、人より奇跡的なことをやってのけないと、自分が飛びぬけてタイトだってことを証明できない。そういうことさ。それもこれも、偉大なるラッパーの条件。ブラザーたちに、力を惜しまないところを見せつける。多彩であることを。話題が限られていないことを。しかも思い上がっちゃいないことを。俺は日々、そうやって音楽に接している。

LAUNCH:あなたのメッセージを理解しない人たちについては?

RAEKWON:
第一に、俺は自分の音楽で人を考えさせたいタイプのブラザーなんだ。どういうところが好きで、どういうところが理解できないのか。俺たちもそうやって、どんどんヒップホップが好きになっていった。最高に好きなものって、すぐには掴みきれなかったりするかじゃないか。だからこそ、何度も聴いて言ってることを理解しようとする。俺はスラング使いだ。俺たちが育ったストリートじゃ、色んなスラングを使う。ブラザーの言ってることを理解するには、想像力と時間をかけるしかない。俺はそうしてる。人が思いもよらないような言葉を、俺はくっつけて使う。その上でさらにスラングを使う。自分が納得しないと気が済まないから、場合によっちゃ、俺の親しいブラザー連中にしかわからないようなことを言ったりもするが、それは排他的になっているのとは違う。ただ、俺たちと同じように、心を開いてもらわないと。ブラザーにとっては、発言すること自体が大事なんだ。ありきたりのライムはしたくない。そのリアルさに思いを巡らし、何かを感じとってもらいたい。Rakimなんかも、あいつが2年ぐらい前に言ってたことが、「なるほど、そういう意味だったのか!」と今になって理解できたりして、あれがあるからヒップホップはどんどんクリエイティヴになっていくんだよ。それができるアーティストは、そういるもんじゃない。俺も皆に、考えるネタを提供したい。それでいて、人が楽しんでくれるかどうか以前に、自分が楽しめるかどうかを重視する。そこが俺の独自性につながっているんだ。

LAUNCH:アルバムタイトルを説明してもらえますか?

RAEKWON:
アルバムタイトルは『Immobilarity』。辞書には載ってない言葉だ。“Immobilare”が本当なんだが、ストリートのスラングだと“Immobilarity”になる。意味は、自分を確立すること。あちこちの要素を取り入れて、自分なりの音楽にする…これは成長のアルバムだ。俺は自分のスタイルを成熟させて、ここで普遍的な存在となった。ギャング連中や世の中の政治にウルサイ連中だけじゃなく、子供たちにも語りかけることを忘れない。「よぉ、これが俺の生き方だ。このまま受けてもらうしかない。あんたもこっちへ来な」とね。俺は成長にこだわっている。『Cuban Linx』の時に感じたのがそれだった。あれから5年経って、俺も29歳だ。いつまでも同じ話はしてられない。自分の目標とか狙いを語っていかないとな。ずっと変わらないってのもありかもしれないが、例えば俺がスタジアムに進出したとして、子供もバァさんもギャングも、一堂に会してるところでやるようになったらどうだ? その全員に満足してもらわなきゃいけないんだぜ。ネガティヴなことばっかり、繰り返し人の頭に植え付けるのはイヤなんだよ。だって、それが俺の生き方だと思われるだろ。おれがそんな生き方をしてたのは、ほんの短期間だったんだから。俺は自分を立て直して、大人になったんだ。今の俺はとにかく、悪い方じゃなくて、良い方に変わった自分の姿をブラザーたちに見せるのみさ。「ほら、おまえら同様、ロクな育ち方をしなかった男が、こうして一人前になったぜ」って。コカインだ、拳銃だ、ドラッグだ…って、世の現実を語りつづけることも可能だったろうが、とりあえず俺は、それとはまた別の現実を描くことにした。俺はギャングじゃない。ギャングは死んだ。ギャング特有のモラルは俺もリスペクトするし、連中の信念もリスペクトするが、俺はもうギャングじゃない。人を殺したりはしない。相手が俺を傷つければ俺もそいつを傷つけるだろうが、リスペクトしてくれれば俺もリスペクトするよ。

LAUNCH:ファンの反応はどうですか。反応は気になりますか?

RAEKWON:
町へ出て、商店街とか映画館なんかで、年配の人に連れられた子供に会うと、皆憧れの目で俺を見る。俺がテレビに出てるからだろう。俺の背景のせいかもしれない。スターになんて、そうお目にかかれるものじゃないからな。そういう子供らが道を踏み外さないように、俺にできることがあれば何だってするよ。連れてるバァさんを失望させて、俺に対して悪い印象を持たれるのは困る。大事なことだよ、だって…小さな子供にも注目されていて、大人からもチェックされてるんだから。少なくとも、聴いた時に「なんでこんなのが好きなんだ?」と思われることのないようにね。「All I Got Is You」はリズムが大人向きだが、若い連中でも大丈夫。オフクロさんと上手くいっていない時、これを聴くとガツンとやられるかもしれない。悪態をついていても、オフクロさんに謝りたくなるかもしれない。あるいは、じっくり話し合うとかね。聴く前よりも、オフクロさんの気持ちがわかるはずだ。2つの世界をつなぐ曲。そういうのを、俺はやりたいんだ。「こいつ、わかってるな。生きていく中で、誰にとっても大切なことを言ってるんだ」と思ってもらえるようなやつを。

LAUNCH:ラップアーティストとしてのあなたに、世間は何を期待していると思いますか?

RAEKWON:
自分に正直に、責任を持って発言してもらいたいと思っているはずだ。感想は人それぞれだろうが、俺なりに精一杯の見解を訴えたい。あくまで等身大の自分でいいから、目指しているものに到達したいと思ってる。余計なたわごとばかり言っていたんじゃ、目標は達成できないからな。俺は、成長したがっている自分を見せていきたいんだよ。そんな俺に、もしかすると皆はビビるかもしれないが、とりあえず作品を聴いて、理解に努めてみてくれよ。こいつが一体、何を考えているのか。ヒップホップでは、それが大事なんだ。金を払って聴くのなら、そいつが何を考えて、何を目指しているのか知りたいと、俺ならそう思うよ。俺自身、消費者でもあるんだから。今の俺にはこういう大切な仲間がいて、一緒に成長しているところを見てもらいたい。そこんところを、今回の音楽からわかってもらわないといけない。マフィアだって、世界最高に悪い連中だけれど、ことビジネスとなれば決して外さないだろ。ビジネスはしっかりやる連中だ。「マフィアは素人には手を出さない。殺すのは同業者だけだ」と言うが、俺も同感だ。俺を傷つけられるのは、俺の周りの連中だけ。この世の中で成長していくために必要なことを、どんどん吸収できるように、新鮮な気持ちをキープしていきたいと思う。ひとつの生き方に固執したがるブラザーが多いが、それじゃ次のレベルへ進むチャンスを自ら放棄していることになる。

LAUNCH:あなたとGhostface Kilahが同時期にレコードを出しますが、皆さんが揃ってまたレコードを出すことはあるんでしょうか?

RAEKWON:
既にお互い誓い合ったんだ。一緒に作るアルバムは、すべて『Cuban Linx』のシリーズにするってね。それが俺たちの希望なんだよ。ソロアルバムを作る時は、好きなタイトルでいい。それぞれの才能を披露するわけだから。俺は毎回、こういうエッジの効いたストリートの物語を提供していく。それが俺の好みだからだ。俺が監督になって、物語を絵にしていくような感じ…そりゃあヴィヴィッドだぜ。だから、お互いの作品にはかぶらないようにしたい。俺は毎回、それまでのRaeのソロアルバムとは違うものを出していくよ。俺はこれを作り、そしてGhostもあいつならではのものを作った。Rae、Ghostときて、これが3発目。3種類のアップルパイが手に入ったというわけだ。ホイップクリームの乗ったやつに、カスタードの乗ったやつ、どれでもお好きなのをどうぞ。どれも同じじゃないんだよ。同じのばかり繰り返し聴かされちゃ、たまんないもんな。Rae-&-Ghostの組み合せを5分単位で繰り返してるうちに、飽きられるのはご免だ。Raeをヴァース3つ分とか、ぶっ続けで40小節なんて、誰も聴いたことないだろ。俺は自分の持ってる才能を、全部出したかったんだ。俺が自分のアルバムでGhostと組むとすれば、それは双方が望んだことだからさ。Wu-Tangのアルバムはどれも、『Cuban Linx』の路線だ。同じ顔ぶれが、ライムしてライムして、ライムしまくってんだから。な? とにかく、新しいフレイヴァーの新しいものを創りたいんだよ。そういうこと。

LAUNCH:あなたが出演した映画『Black & White』について話してもらえますか?

RAEKWON:
『Black & White』は、俺に言わせりゃ、人生のドキュメンタリー。ヒップホップとも相関性がある。アクション満載というよりも、本格派の映画だぜ。監督の狙いもそうだった。即興で演技したりもしてさ。だから、余計にリアルな映画になってる。紙切れを読むだけじゃなくて、自分たちの気持ちをスクリーンで口にできたんだ。タフガイを演じたんじゃなくて、まさに現実を描いてる。とりあえず俺は、自分にできるかどうかやってみたかった。ずらりと並んだスターを相手にしたわけだが、向こうにとっても新しい経験だったからな。ラップのやつと映画を作ったことなんかないだろ? こっちが向こうの作品をリスペクトしてることがわかったら、向こうも俺たちのをリスペクトしてくれたよ。アーティストには成長を期待するものだ。向こうが俺を信じてくれなかったら、俺にはできなかっただろう。ゲームみたいなもんさ。少なくとも、俺が人を脅すような人間じゃないってことは、わかってもらえたし。あの映画はイケてるよ。世の中の現状と、皆が心しておくべき情報が含まれている。黒人と白人がああいうことをするのが許せないって人間は、目からウロコが落ちて、知恵がつくだろう。子供たちの気持ちも、わかるようになるはずだ。

LAUNCH:あなたは自分をStevie WonderとDonald Goinesを足して2で割ったような人間だと言っていますが、どういうことですか?

RAEKWON:
まず、Stevie Wonderは人生をあらゆる角度から語るブラザーだ。現実には、あの人は目が見えない。しかし、何でも理解していて、感じることができる。俺は自分も、そういう人間だという気がしている。音楽をただ語るんじゃなくて感じるように心がけている。あの人のような立場になれるようにね。何かを語るなら、皆が理解できるように、実感できるように、わかりやすく描き出したい。それからDonald Goinesは、イルな人生を送った人だ。ありとあらゆる状況を、苦しみながら生き抜いてきた。俺は、そういうのを全部ひっくるめたような人間だと思う。しょうもないところもあるから、それも話したいし…ロクでなしの気持ちもわかる。何を話題にするにしろ、俺は感情に訴えたい。それを、その2人のブラザーはやっている。感情をぶつけてくるんだ。Stevie Wonderは特にそう。今回のアルバムを作りながら、俺が聴いていたのはそういう音楽だった。何しろ美しくて、でも内容はリアル。Donald Goines流に言えば、「俺も町の片隅で、友達のところを泊まり歩いてきた人間だ。このテープを目にするであろう、そこらの男と何も変わらない」ってこと。そういうのを全部ひっくるめたのが俺さ。

LAUNCH:あなたの人生を本にしようと考えたことは?

RAEKWON:
33歳ぐらいになったら、まとめて本にするつもりだよ。俺は既に、自分が音楽業界で過ごす時間の終盤にきている気がするんだ。ブラザーたちに、忘れられた人間が注目される人間に変われる可能性を示したい。連中が、「そうか! わかるよ、あんたの生き方」ってなるようにね。俺は絶対、自伝を書くぜ。

LAUNCH:あなたが関わっているビデオゲームですが、何という名称で、どういうゲームなんですか?

RAEKWON:
ビデオゲームのタイトルは『Wu-Tang Shaolin Style』といって、空手のゲームなんだ。『Mortal Kombat』みたいなやつさ。スパーリングができる。剣を振り回すやつ、ハンマーを持ってるやつ、首切り鎌を飛ばすやつ…と、面白いぜ。これもまた、俺たちの提示するヒップホップのひとつのあり方だ。何でもありで、マンガも入ってる。信じれば何でもできるってことを、ブラザーたちに見せてやりたい。子供らを家に引きとめておくには、こいつは前向きで、もってこいだよ。俺たちぐらいの年齢の、ゲーム好きのブラザーだけじゃなくて、子供たちにもピッタリだ。

LAUNCH:Stevie Wonderを聴いているということですが、あなたがヒップホップだけでなくメロウな音楽も聴くなんて、と驚く人も多いと思いますよ。リラックスするために聴くんですか?

RAEKWON:

俺はけっこう、落ち着いてる方だぜ。いつもリラックスしていたい。5分おきに世の中のことが気になっても、あの世界に入り込んでしまえば、ネガティヴなことはすべて忘れられる。だいたい、俺は母親にくっついて、そういう音楽を聴いて育ったんだぜ。あれが母親なりのヒップホップだったってわけさ。心のためのソウルミュージックってやつ。聴くたびに「おっと!」と思う。人生を考えさせられる。俺は恵まれてるんだ、忘れずに、日々感謝しなくっちゃ…と、穏やかな気持ちになれる。今の俺には、自分が変わっていくのがわかるし、他人の力になる術も見えてきた。それを音楽に表現したいんだ。ハードコア系の話題一辺倒じゃなくてさ。車を運転する時や眠る前は、俺も心地良いものを聴きたいしね。Stevie WonderやThe Delfonicsを聴くと、そういう気分になれる。あの人たちの世界のファンになって、色々なことを考えるようになる。


LAUNCH:あなたは9歳の時、学校を卒業したいというお母さんのために、お祖母さんのところに預けられましたね。あの頃はどうでした?

RAEKWON:

母親の人生の大切な時期なんだってことは理解してたよ。母親が、俺のためにも自分のためにも一番良い形を望んでいたこともわかっていた。婆さんのところで育ったといっても、よくある話だろう。あるいは、オジさんのところにしばらく預けられるとか。俺はただ、家族の大切さを実感させられたよ。家族はいつも、それぞれの幸せを祈っているんだって。婆さんのところで、俺は幸せだった。快適に、自由にやっていた。それによって母親がよりベターな、より強い人間になるんなら、俺は問題なかった。母親が何かしっかりしたこと、生産的なことをやってる限り、俺は気にしなかった。俺の母親は幸薄い人で、俺には父親もいなかったから、婆さんとオジ貴に教わったことは多い。後になって母親の顔を見て、彼女の人生が本当に理解できるようになったよ。


LAUNCH:今後の予定は? 何を重視していきますか?

RAEKWON:
何よりも、自分のファミリーを大切にして、より良い人生に導いていくこと。周囲の人間の力になって、ポジティヴなイメージを広めていくこと。「自分の人生を社会のせいにしてもしょうがない。自分の振る舞いを反省することだ」とね。ヒップホップも今では巨大化している。俺にとっては、音楽が自分の才能を披露する術だった。同じように、皆が自分なりの道を見つける手助けをしたいんだ。ゲットー出身の人間には、自分を卑下して、無理だと思い込んでいるやつが多い。誰も受け入れてはくれないだろう、とね。俺は、自分の目指す次元とは別に、そういう連中の立場にもなって伝えていきたい。「よぉ、あきらめるなよ。志しを正しく持て」と。それなんだよ。俺は志しが良かったから、ここまでやってこられたんだと思う。昔はずいぶんバカもやったが、あの頃の俺は、それよりマシな生き方を知らなかった。人間誰しも成長するもので、俺もそうなんだ。年を重ねるにつれて、自分がどこで間違ったのかわかってきた。それを音楽で見せていこうってわけさ。人生、良い方に変えるのは他でもない自分だってことをな。

by Billy Johnson Jr

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