スペシャル第三弾【『Rare』とは?】

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1stアルバム『曖昧な引力』よりも、全ての曲がゴツゴツしている。それをイヴェントでも確認することができた。

6月30日の赤坂ブリッツ。雑誌『WHAT's in?』他の主催で行なわれたイヴェントで、JUDY AND MARYSADSのファンが多くいる客席に向かって、小林は最新作『Rare』の中から何曲か演ったのであるが、観客は石にされてしまったかのように微動だにせず、じっと小林の曲を聴いていた。

楽曲に内在する“しっかり聴いてほしい”というメッセージ、それが音・声・言葉になって滝の如く流れ落ちる重量感。そう、“重量ポップ”こそ小林の音楽生命なのではなかろうか?


● 2枚目(『Rare』)はどういう性格のものなんでしょうか。

小林:
2枚目は…そうですねぇ。ダークな部分ていうか、静かな部分。1枚目でいろんな服を着て、2枚目で服を全部脱いで、どれも合わないなって。3枚目で一番自分に合った服を着るっていうのが僕のイメージなんですよ。1枚目はいろんな服を着るんですよ、“似合うだろうな”っていうのを。それで、めたらめっぽう着た結果“合わないな”と思って素っ裸になっちゃって、その後で自分に一番合った服が解るという。っていうのがデビュー前からあって、それをやってる感じが今すっごいするんですけどね。

● だから、音の表面的な部分を言えば、一枚目より『Rare』の方がすごく打ち込み感がなくなってますよね。

小林:
そうですね。1枚目はわりと、“借りた”っていうか。スタイルを借りたっていう感じがあると思うんですよ。でも2枚目は身体の中に入ってるリズム。言ってしまうと、閉鎖主義みたいなところもあると思うんですけど。そういうようなとこも出せない感じかなとちょっと思って。情報をちょっと…そういうとこはありますね。そうしないとね、やっぱり。似合う服が解らないんじゃないかな、と。でも2枚目で解るとはぜったい思いませんでしたね、作りながら。

● そうですか?

小林:
うん。まったく思わなかったですね。こんなに早く聴けるんやなと思ったし、即席で変わってるっていうか。たとえばアルマーニの服が欲しいとするじゃないですか。でもとても高くて買えない。だからユニクロに行ってアルマーニに似た型で安い素材のを買おうとかね。そういう風になるのがすごいイヤだったんですよ。だから、服を買うためにお金を貯めよう、と思って。そういう感じがすごくあります。おそらく『Rare』は数少ない“ジャンル分けできない”アルバムだろうと思う。

その意味で、どんな服も着ていない小林建樹の音楽は、『Rare』にぎっしりと詰まっているのだ。

● だからたとえば、“美しいバラード”って言ったときに、「祈り」の美しさは一般的なものに則ったバラードですよね。

小林:
そうですね。

● で「目の前」は、“美しい”っていうコトに関して、判断基準が一般的ではないんだよね。

小林:
そうですかねぇ。

● うん。

小林:
僕はすごく美しいと思うんですけど。

● でしょ?

小林:
“いやぁコレは美しいなぁ”と思うんですけどねぇ(笑)。ま、ちょっと倒錯してるって言うんですか? 頑張ろうと思ってるんですけど。でもやっぱり、その倒錯感も美意識のひとつだったんで。まぁ商売上はどうなのかは抜いて(笑)。コレをしないとこの次に商売上美しい音楽は書けないと思ったし。わだかまりを持ったまま音楽をするのがとっても嫌だったんですよ。なるべくならハッキリと自分の意識とかを出さないと。次にレコーディングしながら“こんなんいいのかな?”と思いながらするのが一番良くないから。不健全じゃないですか? 出し切ったら、あとはもう。それこそ最大公約数的なものができるし。

● 小林さんは自分のことを臆病だって言いましたけど、このアルバムを発表できるんだからまったく臆病ではないですよ。

小林:
そうですか?(笑)

● はい。

小林:
個人的にもものすごく好きですね。良くできたと思ってるんです。不備な点も半透明な点もできてるなと。

● だから、小林さんの美っていうものをすごく感じますよね。

小林:
そうでしょ? 僕の美意識ってすごく解ると思うんですよ。けっこう、こういう音楽に美を感じるんですよね。“美しいなぁ”って。

● このアルバムの、シングルになったものは比較的聴きやすいけれども、「進化」でも「目の前」でもいきなりラジオとかでかかったら、たぶんハッとする人多いと思うんですよね。

小林:
この前大阪でラジオに出たときに、そこのDJの人がいきなり朝の10時ぐらいからかけてはりましたよ、「進化」を(笑)。あれはねぇ、すごいカッコエエことだなと思って。これはポップだと思ったんですよ。“いいなぁ”って。それで世の中を変えようとかはちっとも思わないんですけど、ビックリする人がいたらすごく嬉しいなぁと思ってるんですよ。ラジオを消したっていいし、“なんじゃコイツ?!”って引っ掛かってくれるだけでも。“名前は知ってたけどこんなん作るのか。アカンな”と思われてもいいんだけど。そういう衝撃があったから嬉しかったですね。

「美をもって進化する」…それはポップミュージックの絶対命題ではないかもしれないけれど、そうしようとしている人を僕は絶対的に評価したい。

『Rare』で、小林建樹の音楽美はほぼ間違いなく孵化している。

取材・文●音楽文化ライター/佐伯明(00/0717)

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