ヒップホップのコンサートに新企画!

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感動するラップのコンサートを、もう長いあいだ見ていない。最高の一夜を盛りあげるため、出演者それぞれがじっくりプランを立てているコンサート。アーティストが全員(見た目だけでもいいから)シラフで登場して満員の客席が揺れ、出演者が他人の曲の悪口を言ったり足を引っぱったりしないコンサート。

Up In Smokeというツアータイトルが「燃え尽きて煙になる」という意味か「煙の上」なのかはともかく、このツアーにはヒップホップ界の有名アーティストが勢揃いした。

照明が落ちて、西海岸の渋いTQが登場した瞬間から、気が抜ける時間などありえなかった。続くTha Eastsidazのライヴは、短かいけれど迫力があった。Warren Gは、G-Funk時代を知らない子供たちに当時を再現した。そして、EminemIce CubeSnoopDreは安心して見ていられる。コンサートがこんなに楽しいのは、私の場合'79年のKiss『Dynasty』ツアー以来だった。2 Live Crewが何度か私にぶつかってきた。しかしこれはコンサートだ。

Eminem
会場には葉っぱの煙が満ちていた。Rollin' 100sやWarlords、Latin KingsやFolks(シカゴ系では数少ない長続きしているグループだ)が一般客に混じって腕を上げていた。ほかにパソコンマニア、ロッカー、レイヴァー、煙をくゆらせるヒッピーなど、史上最大のヒップホップツアーの開催を祝福して、考えつくかぎりあらゆるタイプの音楽ファンが会場に集まっていた。それは愛を感じる光景だった。

MC Proof、DJ HeadとともにEminemが舞台に立ったとたん、客席が揺らいだ。1曲目の「Kill You」で、エネルギッシュな彼は弾丸となって踊った。彼は、ビートをキープしたまま、舞台を1インチ残らず蹴りつけた。「Just Don't Give A F--k」の途中、なぜか手の形をした巨大な風船2個が舞台上で膨らんだ。Eminemはその大きな手に囲まれて、約40分間ベスト集を披露した。

IceCube
Dirty Dozen(別名D12)のメンバーは全員会場に揃っていたが、ライヴにはメンバー1人が「Under The Influence」のラップで参加しただけだった。デトロイトのアンダーグラウンドで活動している彼らが大勢の観客の前に出たら、どんなふうに輝いたのだろう。それを見られなかったのはすこし残念だ。

East Sidaz
たいていの観客がEminemはすごいと思っていたら、11年間のツアー実績があるIce Cubeはその10倍以上すごかった。

オールステートアリーナの天井から液体空気のタンクに入って降りて来たCubeは、全身純白の衣装で舞台に進み出て“黒い悪役”MC Renに並んだ。2曲後の「You Can Do It」でWCとMac 10が加わると、会場は一体になった。そして1枚目のソロアルバム、名盤『AmeriKKKa's Most Wanted』から「The N--ga You Love To Hate」が始まると、私は飛びあがって靴が脱げそうになった。

この曲に合わせて観客が“F--k you, Ice Cube”と叫ぶのを、私は何回も見てきた。シカゴの日刊紙2紙はともに、Cubeのステージは目新しさがなくて退屈だったと酷評したが、私はそうは思わない。Cubeはヒップホップ10年の歴史を1時間たらずで再現しようとしたのである。それが失敗であるわけがない。

Snoop Dog
DreSnoopのステージは、他よりはるかに手が込んでいた。舞台には、喋る巨大ドクロが吊られている。そして、光を放って変色する木の葉。透明な映写スクリーン。舞台前方には酒屋のセット。それは、どこか別の惑星にあるスラム街の一画のようだった。

彼らのライヴは、5分間の映画で始まった。2人組の強盗が、酒場を襲って店員たちを殺害する。その強盗をDreとSnoopが撃ち殺すと、2人はスクリーン内の店から逃げ出して、舞台の酒場のドアから現れる。この映画は、現在ヒット中の「The Next Episode」へ続く完璧なイントロになっていた。観客がいちばん聴きたかったその曲が、彼らの1曲目だった。

この夜のハイライトは、彼らが新進ラッパーDevinを紹介したときだった。彼の'98年のソロアルバム『The Dude』から「Bust One」が始まると、ほとんどの観客は戸惑った。この夜のライヴで、それだけが聞いたことのない曲だったからだ。けれど短いイントロのあと、Dreの「F--k You」のビートが聴こえてくると、客席は大歓声を上げた。Devinが登場したのは、ウケ狙いの演出だったのである。

Xzibit
続いてXzibitが車高の低いバイクに乗って登場、2曲のラップのあと「What's The Difference」へ。EminemとDre、 SnoopとXzibitが揃って舞台に立っている光景は壮観だった。

彼らはライヴの最後まで舞台上にいた。ラストには、Dre、Cube、Ren、Snoopの4人でN.W.A.の臨時再結成が実現した。彼らは『Straight Outta Compton』から4、5曲をやってもよかったのだが、『Next Friday』のサウンドトラック収録の「Chin Check」1曲だけで、また解散した。しかし、すべてのヒップホップファンが彼らの再結成を長いあいだ待っていることを考えると、それはいい兆しだった。

The Up In Smoke Tourの参加アーティストは、ラップコンサートの標準規格を変更した。このツアーの大がかりな火炎装置や精巧な舞台セットは、最近のやる気のない“ステージをあっちこっちぶらぶらしてようぜ”といったラッパーのツアーというより、'80年代にチャート1位になったことのあるヘヴィメタルバンドという感じだった。Dreと仲間たちはヒップホップの歴史書に新しい1章を加えたのである。

by Matt Sonzala

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