北の大地から新風到来。フューチャラ・サウンド

ツイート

北の大地から新風到来。フューチャラ・サウンド

2000年11月22日発売 『Futurama』
KSC2-362 3,059(tax in)

暑い夏には野外ロック・フェスティバルやレイヴに行き、夏を締めくくるのと同時に電気グルーヴの“イルボン2000”へ出かけて動けなくなるまで踊り、更につい最近ではUNDER WORLDの来日で“さあ、これで20世紀最後の完全燃焼!”なーんて思っていた矢先、SUPERCARの新作を耳にした。

その時、ここ数年ロック/テクノとある意味両ジャンルを対照的に違う楽しみ方で聴いてきた自分にとって、何かひとつの頂点に達した興奮を覚えた。

聴いたことがあるようで存在しなかった音。それがSUPERCARの新作『Futurama』だった。

今までギター・バンドとしてのある枠からはずれなかった彼らが、今回の新作を引っさげてどのようにプレイするのか、始まる前は何も想像できなかった。

新作後のライヴ・ツアーというだけあって、今か今かと待ちわびるオーディエンスでぎっしり埋めつくされた少しざわめく場内に、“静”を与えるMOGWAIのBGM(きっと彼らが仕込んだに違いない!?!?)。

何か冷やりとした空気を感じた瞬間、ステージを覆う大画面が大きくうねりをあげた。

それと同時に薄暗いステージ場にはDJブースに1人。新作でも第一曲目に収録されている「Changes」で幻想的なイントロが響き合い、そこから重たいドンドン・ドンドンと4つ打ちビートへと展開。その音の鼓動は北の大地からやってきたある若者達が、“Changes”=“新しい事への挑戦”という意気込みをしょっぱなから叩きつけた。オーディエンスも戸惑ったのか初めは立ちつくしていたが、メンバーが登場すると共にいつものギター・ベース・ドラムがノイジーに響きわると、オーディエンスも瞬く間にその新たな音の渦に巻き込まれていった。

今回のライヴのセットは中心にブースを設け、そこで生の打ち込み/ミックスを行ない、更にその両脇には2ドラム、そして前方にはギター2本とベース1本。メンバーは4人なのにこんなに大きなセットが… と思っていたが今回はドラムと機材担当に助っ人を入れ、5人でツアーをまわっていた(MCで「メンバー紹介!」と言ったのに観客の割り込み質問が入ってすっかり忘れられた)。2曲目は2ドラム、その次は1人打ち込み、1人ドラム、時には2人とも打ち込みで完全にダンス・モードと曲により編成を変えていった。

▲ナカコー
pic by ACTION PUNCH
中盤まで1つのストーリーを演奏しているかのようにテンポよく8曲を終え、その後ドラムのコージが「もっと楽しもうぜぇ!」とオーディエンスを煽り、「White Surf style 5.」を演奏。打ち込みかと思いきや、2ドラムの生ドラムンで迫力せまるサウンドにナカコーのヴォーカルが神秘的に乗っかり、やはり楽曲、演奏ともに最高な曲だったのではないだろうか。そしてその後もそれに続けとテンポのいいテクノよりの打ち込み曲を2曲連続。そしてあっという間にアルバム全16曲を完全に演奏しきった。

アンコールで見せた過去5年間のヒット・ナンバー4曲の演奏もまさしく完璧だった。オーディエンスも盛り上がった。

しかし5年間の道のりを消化しきって、ある新たな音楽要素を産みだした彼らの姿は、やはり力強かった。打ち込みやエフェクター・サンプラーを随所に用いたサウンドも消して軽がるしくなく、しっかりと地に足がついた深く、そしてずっしりとくるライヴだった。

彼らは確かに興奮していた。

そして私達も… ある新しい試みを成し遂げるためにエネルギーをがむしゃらにぶつけ、響かせた演奏。決して過去のアーティストには持ち得ない要素がいっぱい詰まっていた。

そしてもう一つ忘れてはならないのがやはり映像の存在だ。今回担当したのはBOREDOMSの映像でおなじみの宇川直宏氏。大画面の真ん中を軸にして左右対称に流動的かつダイナミックに表現した映像は、まさにSUPERCARの音をよりリアリティー化したものだった。映像と音がまさにぴたりと結合した今回のステージが、より躍動感を増し、ある壮大なストーリーに仕上がったことは間違いない。

これからの新たなフィールドでも彼らの音楽性に共感を覚える人はたくさんいるだろう。

そしてもっともっと今作を踏み台にして未知なる領域へ突き進んでくれることを願う。

文●伊藤智子(00/12/12)

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス