ゆらゆら空間を無限に膨張させて

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ゆらゆら空間を無限に膨張させて


『ゆらゆら帝国で考え中』
ミディ MDCS-1046 1,050(Tax in)発売中

photo by HITOSHI KATOH
なにもないステージ。

いや、ある。ステージには、ギターアンプと、ベースアンプ、そしてドラムセットがあるのみ。

BLITZのステージは、これほど広かっただろうか?

会場を包むBGMがとまって、ステージに現われるゆらゆら帝国の3人。

いきなり、チューニングとサウンドチェックを始めた。

そして、一呼吸おいたあと、スローナンバー「星ふたつ」をプレイし出した。

それは、まるでリハーサルのような、喉の調子を見ているような…。たとえば、これから疾走するであろうマラソン選手が、屈伸運動をする現場で、静寂のなかにも、ピン…ッと張り詰めた緊張がある様相のような…。観客もいやがおうにも、ステージへと集中し、吸い込まれていく。ゆらゆら帝国の入り口へと足を踏み込んでいく。帝国の入り口を彷徨っていると、次はスローでヘヴィなリズムの「19か20」。サイケデリックでディープな世界に一気に観客をハメ込んでいる。

とにかく、シンプルなサウンドで、ヘヴィーロックをぶつけてくるゆらゆら。それらは音の洪水とは違い、音の一粒一粒が明確に見えて感じられるプレイだ。

リズム隊の良質のウネリは、ギミックや飾りがない分、プレイヤーとしての素材のよさが際立つし、ギターの音も至極シンプルで太くて厚い。でもテンションだけは異常に繊細に高ぶっている。

この3人が奏でる音は、スキだらけのようで、スキがない。そこに見事に絡め取られてしまう観客たち。こういった図式がライヴが始まったとたんに出来上がっている。

しっかりと、観客の首根っこをつかみ、虜にさせた前半は2001年2月にリリースされるアルバム『ゆらゆら帝国 III』に収録される「ラメのパンタロン」、最新シングルで、「ゆらゆら帝国で考え中」、そして「発光体」「ミーのカー」で、観客を一気にゆれさせている。

しかし、ゆらゆらのライヴは、“小屋”というべき小さなライヴハウスで行なわれているような、なんの仕掛けのないものだ。得てしてそういうライヴを2000人をも収容するBLITZなどで行なうと、空間の広さに負け、バンドとしての魅力が会場全体に伝わらない。そして「ああ、もったいない。やっぱ小さなライヴハウスで観たいなぁ」なんて賛辞にもならない言葉が観客から発せられる。

だけど、ゆらゆら帝国は違う。

彼らは、BLITZ自体をぐっと自分のほうへ引き寄せて、小さなライヴハウス化させている。隅という隅まで、会場はもちろん、ドリンクバー、トイレ、楽屋まで、すべてをゆらゆら帝国の空気で充満させたのだ。

photo by HITOSHI KATOH

2000年夏に行なわれた、FUJI ROCK FESTIVALでも、ゆらゆら帝国のライヴを観たのだけれど、彼らは、野外だった苗場そのものも、ゆらゆら帝国の空気を充満させていた。あまりの圧倒的な存在感と空間を作り上げていたそのライヴは、ステージ前方には近寄れないほどの、お客さんを呑み込んでいた。

彼らは、どこへ行っても、ゆらゆら空間を無限に膨張させているのだ。

ちょうど半分を演奏し終わったとき、坂本慎太郎(Vo&G)が「今、半分」「後半はさらっとやります」とMC。これだけの発言だが、いつになく饒舌のようだ。そして“さらっと”なんて言葉は大嘘で、「アーモンドのチョコレート」「すべるバー」「ズックにロック」と、ハードでドライヴィンな楽曲でライヴ後半は最高潮に。

ラストに披露した「いたずら小僧」では、最後、会場全体に照明がつくなかで演奏。この照明の明るさとともに、観客みんなが現実へ戻されるのではなく、光とともに、ゆらゆらサウンドのなかへ溶け込んでいってしまうようだった。

これでライヴはすべて終了。与えられたライヴの時間で100%出し尽くすため、ゆらゆら帝国はアンコールはしない。

潔いステージと、ミュージシャンとしてのあるべき姿。

そんなことを、3人はまったく平然とやってのける数少ないロック・アーティストたちなのである。

文●星野まり子(00/12/28)

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