寡黙な恐竜は生まれ変わったか…?

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寡黙な恐竜は生まれ変わったか…?

 



 

 

ロックジャーナリズムの世界で、J. Mascisはインタヴューしにくい相手として悪名高い。過去20年間のシーンにおいて疑いもなく最も影響力のある米インディーズ系ロックバンドのひとつ、Dinosaur Jr.のリーダーだったMascisは、ゆっくりと、低くしわがれた抑揚のない声で話し、予定したテーマに対して少しでもまともな答えが返ってくればラッキーという人物なのである。

'97年のDinosaur解散後、Mascisはますます静かになり、数年間はスポットライトから完全に身を引いた生活をしていたが、数カ月前にニューアルバム『More Light』を引っ提げてカムバックを果たした。クレジット上はJ.Mascis & the Fogという名義になっているものの、Guided By VoicesのRobert PollardとMy Bloody ValentineのKevin Shieldsによる短いゲスト出演以外は、ほとんどをMascis自身が演奏した作品である。『More Light』の11トラックは'80年代終盤から'90年代初頭にかけてのDinosaur全盛期以後に彼が作りだした最高の作品であり、自身の燃えるようなリードギターにスポットライトを当てた怒れる轟音と、陰欝なリフをトレードマークとしている。とはいえ、Mascisの音楽は新たに活性化されたのかもしれないが、彼のインタヴュースタイルは、まだどこか物足りなさを残すものだ。

で、本当にそうだろうか? Mascisが先ごろニューヨークでLAUNCHのインタヴューに答えたときには、確かに回答の一部はときとしてインタヴュアーをいらだたせるものだったようだ。だが、振り返ってみれば彼の答えはユーモアに満ちており、あえて言えば愉快でさえあり、そのことに本人が気付いていなかったとは思えない調子だったのである。それでは、その対話を紹介していくことにしよう。


―(新アルバムの中でも際立った曲のひとつ)「Where'd You Go」のインスピレーションはどこから得ましたか?

Mascis:(ハミングを始める)その曲を思い出して歌おうとしてるんだ……。(長い間ハミングを続け、高い声域に移った後)うーん、難しい。この曲を思い出して全体を歌い通すのは大変なんだよ。とっても長い時間が経っているからね、ずいぶん昔に書いた曲なんだ。


――(別の新曲)「Does The Kiss Fit」はどうですか?

Mascis:わからない、誤解した関係についての歌さ。つまり、僕は様々な人々の関係を見てきたり、自分もあちこちで関わってきたりした。人間がお互いの関係を作るのは普通のかたちでも難しいことだ。それに僕が知っている人たちはみんな……変人だから、集まってお互いの人間関係を築くなんてことは至難の技なのさ。


――新曲は以前のマテリアルとうまくフィットしていると思いますか?

Mascis:もちろん(笑)。


――あなたが現在の音楽シーンに与えた影響という点で、十分な評価を得られていないと感じることはありますか?

Mascis:そんなことは考えたこともないね。つまり僕自身がまだ影響を受けているからさ。自分が誰かに影響を与えたと考えるのは、なんだか奇妙な発想だと思うよ。


――成長期の子供の頃に、可能なかぎり音楽で生計を立てられたらいいなと想像したことはありますか?

Mascis:そんなに真剣に考えたことはないな。カレッジを卒業する前には音楽で暮らせたらいいなと思っていたけど、それは実現したから、その点で僕はハッピーだね。ガソリンスタンドに戻って働く必要はなかったよ。


――リスナーが昔のDinosourのカタログを探求するときには、どのレコードを聴いてほしいと思いますか?

Mascis:そうだなあ……。気に入ったやつを好きなように聴いてくれればいいよ。自分ではわからない。とりたてて決まった考えはないね。気に入ってくれれば素晴らしいよ。


――ミュージシャンとしては、まだ学んでいる最中だと考えていますか?

Mascis:もちろん。
いいことか悪いことかはわからないけど。学び過ぎるよりも学習しないほうがいいこともあるかもしれないし。


――現在の音楽シーンの状況についての意見を聞かせてください。業界はずいぶん厳しくなってクビ切りも横行しているようです。アーティストの育成なんて姿勢はもはやまったくないみたいですが?

Mascis:まったくない。そのとおりだよ。あるアーティストが前のレコードをヒットさせていたとしても、今ヒットがなければそれで終わりさ。そう、音楽を愛している人間なんて誰もいないんだ。音楽とはまったく関係のないビジネスで、非常に現実的であからさまな状況になっている。情けなどかけらもない。でも、それがクールなんだよ。だろ?(くすくす笑う)


――人々があなたに対して持っている最大の誤解は何だと思いますか?

Mascis:そうだね、僕は一日中テレビを見ているとか、たぶんそんなことだね。


Jの話の簡潔さに拍車をかけたのが、Minutemenとfirehoseの伝説的ベーシスト、Mike Wattの同席である。彼は命を脅かすような病気から回復して、『More Light』をサポートするツアーへの参加をMascisと契約したのだった。Wattは外向的で話し好きの男のため、Jはしばしば彼に話を振るのである。だがインタヴューが進むにつれて、Mascisは多少は話すべき話題を見つけたようだった。例えば'80年代前半のマサチューセッツ州アムハーストにおけるDinosaur Jr.の創世紀に関する質問や、ドラムスを始めた後にギターに転向した話などであり、ほとんど流れ出すような返答が得られるようになったのである。

僕はただ単にバンドを始めたかったんだけど、いい感じでギターを弾いてくれる奴を誰も知らなかったのさ」とJは振り返る。

Pink Floydみたいに弾く奴(笑)とか、Al Di Meolaみたいなスゴい早弾きをやる奴(さらに笑う)ならいたんだけどね。それで自分がギターを覚えて弾けばいいんじゃないかと考えた。だってドラムスは誰かに叩き方を教えることができると思ったからね。というのも僕はドラムスのレッスンをたっぷり受けていたので、誰かに叩き方を教える方法は理解してたのさ。ドラムスの演奏方法は十分に知っていたから、たいして問題はないと思えたんだよ」

「 あらゆる曲においてドラムスは歌の一部とも言える重要なパートだから、どっちにしろインプロヴィゼーションの余地はほとんどない。誰かに曲の構造を教えるというのは、もっと多くのことを教えることになるんだ。Murph(Dinosaurの最初のドラマー)は僕が彼の思いもつかないような奇妙なビートばかりを教え込むものだから、いつもブッ飛んでたよ。ドラムのビートは歌の一部なんだ


僕がギターの演奏を始めたとき、Dinosaurのコンセプトは耳をつんざくカントリーみたいなものだった。カントリーをとてもラウドに演奏するんだ。もちろんカントリーを本当にデカイ音で演奏する奴は誰もいなかったからね。どうしてだかはわからないけど、たぶんドラムスを叩いていた経験から発想したんじゃないかな。僕が弾き始めた頃、ギターはとてもちゃちな音に思えた。自分ではパワーを弾きだせなかったから、なんとかダイナミクスを付けられるような弾き方を試みたのさ。ドラムスのほうがずっと自分を表現できるように思えたよ。ブッ叩けばいいだけだからね。それでギターに関しても、もっと叩くような感じで弾きたかったんだ

悪名高いショックロッカー、G.G. Allin'のバンドで短期間プレイした経験をMascisはどう思っているのだろうか?

不快な経験だった」とJは答える。「臭いもひどかったしね。基本的にはあいつがクラブからつまみ出されてから、僕たちは家に帰るという感じだったよ。つまり、数分間のうちにアイツはションベンと血にまみれているというわけさ。まあ、その頃はそれがパンクロック的お約束のひとつと思っていたんだけど、自分がやるってなると、これはクールじゃないかもしれないなって感じになったね」。Mascisはそれで話を打ち切った。

Jに関しては変な質問ばかり受けるよ」と言うのはMike Watt。「ある男は“どれだけしょうもないヒットを出せば、お前とあいつは切実な歌を作り始めるんだ?” なんて訊いてきたよ。人にはそれぞれの考えがあるだろうけど、くだらない質問だよな。Jは本当にアクティヴな気持ちを持っているし、テンションも高いぜ。俺はいろんな連中と付き合ってきたけど、たくさんのヤツらがもっと早口で話すくせに、中身はまったく空っぽなのさ。馬鹿げてるし、ふざけた話だよ。くだらないおしゃべりをしているくらいだったら、いいことではないかもしれないが、言葉の重みを量っているほうがましだと思うな

Wattは要点を突いているかもしれない。それでは最後はJに締めてもらおう。


――向こう数カ月の予定を教えてください。

Mascis:ずっとツアーだよ。それからしばらくインドへ行こうと思っている。そしてまたツアーを再開することになるだろう。


――次のアルバムの計画はどうですか?

Mascis:次のやつはすでにレコーディングを始めた。いくつかの曲は完成しているよ。


――今回のものと比べてどう違いますか?

Mascis:まったく同じだよ、一音一音にいたるまでね(笑)。

interview conducted by Darren Davis

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