聴覚に視覚に肉体的に、完璧なショウ!

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聴覚に視覚に肉体的に、完璧なショウ!

あまりにも素晴らし過ぎる。もう賞賛以外の言葉が出てこない…。

この19年の不在はあまりにも重い。

しかし、今からでも遅くはない。AC/DCの旧譜やビデオを買って「ロックンロールの何たるか」を学ぼう。そして数年後にあるかもしれない「奇蹟の再来日」の日に備えようではないか!

取材・文●太澤 陽

“アンガス・コール”がこだまし、観客は開演前からラテン状態

STUFF UPPER LIP WORLD TOUR
TOURING JAPAN FEB 2001

YOKOHAMA ARENA Feb 19th

【set list】
1. You Shook Me All Night Long
2. Stiff Upper Lip
3. Shot Down In Flames
4. Thunderstruck
5. Hell Ain't A Bad Place To Be
6. Hard As A Rock
7. Shoot To Thrill
8. Rock‘n' Roll Ain't Noise Pollution
9. Sin City
10. Bad Boy Boogie
11. Hells Bells
12. Get It Hot
13. The Jack
14. Back In Black
15. Dirty Deeds Done Dirt Cheap
16. Highway To Hell
17. Whole Lotta Rosie
18. Let There Be Rock

Encore
19. T.N.T
20. For Those About To Rock(We Salute You)

▲堅実かつダイナミックなバッキングを守るマルコム・ヤング(左)と、AC/DCの名物ギタリスト、小さな巨人、アンガス・ヤング(右)。

「まだ見ぬ大物アーティストは?」

その答えとしてすぐ挙がる名前となると、ザ・フーヴァン・モリソン、そして再編成オリジナル・ブラック・サバス辺りだろう。しかし、初来日ではないにせよ、僕はいつもそこにこの名前を加えたかった。

AC/DC

もう19年も日本の地に足を踏み入れてないロックンロールの超大物VIPバンド。なにせ19年である!

今の30歳以下の人間は幼すぎて当然そのイカしたロックンロールに触れることなど出来るはずがない。それに前回の来日はアルバム『悪魔の招待状』を初の全米No.1にした直後のツアーだったにもかかわらず、その日本でのあまりに不当な知名度の低さゆえに、彼らは本場での規模を大幅に縮小したショウを今一つ乗り切れない観客の前で披露せざるを得なかったのである。

その後19年、AC/DCの人気は落ちるどころか時代を経る毎にさらにパワーアップ。その全米での累積売り上げはなんと6、300万枚にも上り、メタル全盛期が終わった現在も新作が全米チャート・トップ10入りを記録するという(エアロスミスを除いて)唯一の'70年代ハードロックバンドとなり、かのカート・コバーンやリック・ルービン、ベックといったオルタナ世代に愛されるほどに偉大なロックンロール・バンドとなったAC/DC。

こうした「伝説」が数々飛び込んでくるにもかかわらず、ギャラや会場の問題、巨大機材の輸送の問題などで、不幸にもその怒濤のロックショウを我々日本人は拝めずにいたが、21世紀があけて間もない2001年2月、遂にこの南半球が生んだ史上最強のロックンロール・バンドは日本の地に足を踏み入れることとなった。

ヴォルテージは嫌が上でも高まり、横浜アリーナでの公演が即日完売、追加公演もほぼ売り切れ状態と、現在に至るまで不当に低いセールスにあえぐ日本での彼らの受け入れ状況が嘘のような動きが見られたのだ。
 
そして、その期待感は決して嘘などではなかった。横浜アリーナは開演前からあたかもサッカー・スタジアム状態。会場のロビーでのグッズ売り場にはディズニー・ランドのアトラクション前に匹敵する長蛇の行列。

そして会場からはところかまわず「アンガス・コール」がこだまし、スタンド席からは何度となくウエーブが次から次へと生まれた。こんな、コンサートの観客のラテン状態を見るのは生まれてはじめてだったが、こんなところからも「俺達はAC/DCを見たくてたまらなかったんだ!」の気持ちは痛いほどに伝わった。

そして舞台は暗転し、ステージには遂に待ちに待ち焦がれたAC/DCの5人が登場。象徴アンガスは、自慢の紺の学生服に半ズボンで登場。

この姿を見たくてたまらなかった観客は狂乱し「アンガス・コール」を連呼。それがやり止まぬ中、ショウは彼らの代表曲「ユー・シュック・ミー・オールナイト・ロング」で幕を開けた。
あまりにも素晴らし過ぎる。もう賞賛以外の言葉が出てこない…。

ステージの左右にはそれぞれ10台の巨大アンプが配置されていたが、そこから流れるギターの轟音のなんと鋭いこと!

普通アリーナ会場だとスピーカーで大幅に音が膨張してしまうものだが、小さなクラブでの臨場感そのままにギターの音がナイフのように刺さってくる。

そして名リズム・ギタリスト、アンガスの兄マルコムを中心とするベース、ドラムの3人のリズム部隊が放つ1ミリのズレもない完璧な必殺リフ。

観客席中央まで伸びる花道を右往左往し、その得意のダミ声とダフ屋のようなうさん臭い出で立ちで客を煽り捲るヴォーカルのブライアン・ジョンソン、そしてそして、終始ひざを折り曲げ左足を実に器用に上げ下げしながら大きなステージを狭しと全力疾走で賭けまくるアンガス。

その駆け回る姿に、ブルージーで苦みばしったクールなギターソロに、右手をあげて観衆を煽る姿に、曲の終わりに決まってジャンプして両足で丁寧に着地する姿に、観客は完全に釘付けとなった。

そして楽曲は久しぶりの来日とあって代表曲のオン・パレード。「サンダー・ストラック」「ヘル・エイント・バッド・プレイス・トゥ・ビー」「シン・シティ」…。

そして気がつくと会場の真後ろには目が光り火を噴く巨大アンガス銅像が出現。小道具・大道具の登場も頻繁になり「バッド・ボーイ・ブギー」では、ここ20年以上定番のアンガス恒例のストリップ・ショーが展開され(ズボンを降ろすと同時に日の丸が降りるというバカ丸出し)、「地獄の鐘の音」では名物、2トン半の巨大釣りが登場、「ザ・ジャック」では会場を巻き込む大合唱。

「ハイウェイ・トゥ・ヘル」では最後に一大炎が上がり、「ホール・ロッタ・ロージー」では風船による巨大ロージー人形が、そして「レット・ゼア・ビー・ロック」で、花道の先端の小ステージがリフトアップされアンガスがそこでのたうち回りながらソロを披露。ラストの「地獄の招待状」では6台の大砲が次々と発射。最後は紙吹雪の嵐で幕を閉じた。

このように、観客の心を一切そらす事のないエンターテインメントの要素がふんだんに盛り込まれているのだが、それが全く不快になることがない。

それは彼らの持っている、そこいらのパンクバンドを蹴散らすほどの圧倒的なスピード感や、そこいらのヒップホッパーよりよっぽどファンキーでグルーヴィーなリズムをこの大会場で堂々と披露出来ているからだ。

音楽で完璧な一流が、見せるところでも隙のない一流ぶり。

これまでストーンズエアロのライヴも観て来たが、聴覚に視覚に肉体的にこれほどまでに完璧なショウを体験したのは生まれてはじめてだ。そりゃあ、アメリカだけで6,300万枚以上売るのも、これを拝めなかった日本でAC/DCが評価されなかったのも当然である。

そして興奮のあまり2日目の横浜アリーナにもかけつけたが、2日とも全く同じ選曲・曲順・同じ出し物・同じギャグ・同じMC、そして最新作「スティッフ・アッパー・リップ」のツアーにかかわらず新曲披露はわずか1曲だったが、飽きるどころか逆に電流にうたれたごときの中毒症状をも覚えてしまった。

相手にあえてその手の内をみせておきながら、それでも完璧に相手をノックアウトする。これぞプロ中のプロの芸人のなせるワザにほかならない。

あまりにも素晴らし過ぎる。もう賞賛以外の言葉が出てこない…。

この19年の不在はあまりにも重い。

しかし、今からでも遅くはない。AC/DCの旧譜やビデオを買って「ロックンロールの何たるか」を学ぼう。そして数年後にあるかもしれない「奇蹟の再来日」の日に備えようではないか!
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