2001年AJICOの旅で出会ったプリミティヴな悲しみと希望

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2001年AJICOの旅で出会った
プリミティヴな悲しみと希望


AJICOは短い足跡を残し、ピリオドを打った。


『深緑』

SPEEDSTAR RECORDS VICL-60686
2001年2月7日発売 ¥3,045(tax in)

1. 深緑
2. すてきなあたしの夢
3. 美しいこと
4. Lake
5. 青い鳥はいつも不満気
6. GARAGE DRIVE
7. メロディ
8. メリーゴーランド
9. フリーダム
10. 毛布もいらない
11. 波動
12. カゲロウソング

AJICOが初めて姿を現わしたのは2000年夏。

野外フェスティバルだったこともあり、その存在を目の当たりにした人は少ない。しかし興味深い顔ぶれとエネルギッシュなプレイをするAJICOの存在は、自然な風にのって瞬く間に噂となった。

そしてAJICOの全容が明らかになることとなった、シングル「波動」。ノスタルジックな響きと演奏力の高さは圧巻であった。

そんなAJICOがアルバム『深緑』を引っ下げて、'01年2月の初旬からツアー<2001年AJICOの旅>をスタート。短期間に全19公演とハードなスケジュールを経て、最終公演が赤坂BLITZで行なわれ、私にもようやくライヴを観る機会が訪れた。

会場に入ると、当然のようにすでに身動きができないほどの人で埋めつくされていた。開演時間で締め切られるということで、始まる間際には駆け込む人の波がさらに押しよせ、同時に私の胸の鼓動と期待も高鳴ってきた。

メンバーが静かに登場。所定の場所について始まるまでの間、4人で確かめあうように呼吸をひとつにしたことを感じる。私はこれから起こるだろう予想もつかないライヴを目の前に、何かすごいことが起こるような、久々に鳥肌が立つ想いにおそわれる。

2001年AJICOの旅
2001.3.20(tue)
at 赤坂BLITZ

1. 青い鳥はいつも不満気
2. Take5
3. すてきなあたしの夢
4. 美しいこと
5. 金の泥
6. ガレージドライブ
7. 毛布もいらない
8. 悲しみジョニー
9. 深緑
10. ぺピン
11. 歪んだ太陽
12. フリーダム
13. カゲロウソング

〔アンコール〕
1. 庭
2. 午後
3. 波動

緑色の衣装につつまれて登場したUAがマイクを握り、透き通るような声で「青い鳥はいつも不満気」を歌い出す。会場が一転して野外ステージになったようなそんな空気に包まれた自然の香りが漂う声だ。そしてTOKIE(from 元RIZE)のアップライト・ベースが絡みあい、おとぎ話のように曲が始まり、静かだけれども力強い椎野のドラムとベンジーの反復するギターが会場にこだまする。

続いて2曲目はジャズの名曲「Take5」。短期間でたくさんの楽曲を作ったAJICOらしく、カヴァー曲でも即興性のあるダイナミックな演奏。とてもアダルトな雰囲気を演出していた。

そして「すてきなあたしの夢」に続き、シングルカットされた「美しいこと」の演奏。パンチの効いたベンジーのギター音が高らかに鳴り響き、オーディエンスは一気にヒート・アップ。ツイン・ヴォーカルのバランスはピタリと絶妙で美しく、間奏でのフェイクも曲のテンションに凄みを与える。とても活き活きと楽しんでプレイしている姿が印象的だ。

全体的に深い緑のライトを照らしながら曲調をスロウにしたり、UAがタンバリンで盛り上げたり、パーカッション・ジャンベをいれたりとライヴらしいアレンジを加えて展開し、ライヴ中盤ではアルバム『深緑』の曲が次々と演奏されていった。途中でのMCはひとつもなく、音だけでAJICOの物語を展開していった。

後半では、UAの曲「悲しみジョニー」「歪んだ太陽」とベンジーがいたBlankey Jet Cityの曲「ペピン」を演奏。メンバーが個々のソロ活動を互いにリスペクトしているところが、さらにAJICOがひとつにまとめた要因なのだろうと確信した瞬間でもあった。「悲しみジョニー」はゆったりとしたビートのパーカションとアップライト・ベースのどっぷりとしたリズム隊で、途中からベンジーのヴォーカルも入るというアレンジ。バンドとしてのUAは、ソロの時とは違う安心感が声を力強くしているようだ。

そして終盤。軽快なビートのロック・ナンバー「フリーダム」の終わりでメンバーが紹介され、「We are AJICO」とUAが力強く、誇称するように言った。

しかしその後、あまりにも淋しいベンジーの一言が会場に響く。

今日でお別れです

会場はあまりに早すぎる終止宣言を把握できなかったのか、それともAJICOのそんな存在を理解していたのか、それほどの動揺した様子はなかった。

そしてアルバムのラスト・トラックでもある「カゲロウソング」がアコースティック・ギターの音と共に静かに鳴り始める。それは夕日が沈む時のような感覚だった。何かが終わってしまう、寂しさ。そして太陽が昇り、新しい明日がくるという希望。 “AJICO”に強い想いを抱きつつ、別れという現実に決して後ろを振り返らず、しっかりと前を向いて進み続けるだろうメンバーの姿。

アンコールでは3曲披露。初めにUAとアコースティック・ギターを抱えたベンジーと2人だけで「庭」を演奏。続いてUAのアルバム『turbo』でベンジーと初めて共演した曲「午後」。

ベンジーは「
オレとUAがバンドを一緒にやることになった曲」とぽつり呟いた。そして最後を締めくくったのは、AJICOが結成したときの熱い想いがひとつになってエネルギーをぶつけた曲「波動」。最後は迫力あるセッションで、どこまでも響きつづける音の波動はメンバーがステージから去っても漂いつづけた。

AJICOは短い足跡を残し、ピリオドを打った。それはAJICOが姿を現わしたときと同じようにとても自然だった。

しかしAJICOが残した音楽は、まぼろしではない。最近、忘れかけていた音楽の持つプリミティヴな力や楽しみ方そして、なによりも強い希望を与えてくれた。何があるかわからない未来に、自然な形でまたAJICOに会えることを静かに願う。

文●イトウトモコ(01/03/27)

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