昔かたぎの職人ソングライター

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昔かたぎの職人ソングライター

 

批評家からは山のような賛辞を浴びながら、自分の作品は売れたためしのないソングライターの中のソングライター ――そんな話を誰でも一度は読んだことがあるだろう。そうした例がもう一人いる。Ron SexsmithRod Stewart(彼もまたソングライターとしては極めて過小評価されている)に曲をカヴァーされ、数多くのメディア(LAUNCHを含めて)やElvis Costelloから激賞され、Costelloにいたってはこの、もう若くもないカナダ出身のパフォーマーを、現在進行中のBacharachとの欧州ツアーに前座として起用しているくらいなのだ。

InterscopeからリリースされたSexsmithの3rdアルバム『Whereabouts』は、'60年代中頃の視野の広いポップスと完全に同調したサウンドを持ちながら、その一方で、今日でもかなり斬新に響くという彼の王道を行く音作りが行なわれている。プロデューサーのMitchell Froomが、非日常的なサウンドのカーニヴァルを背景で展開するこの作品には、子守歌のようなバラード(「Riverhead」「Seem To Recall」)と快活なポップナンバー(「The Idiot Boy」「Feel For You」)の両方が収められており、いずれもオススメである。とりわけ壮大な「Feel For You」は、当初米国ではシングル化の予定はなく、(市場の鑑賞眼が優れていると思われる)日本でのみリリースされる。

この曲を聴くたびに、BeatlesのアルバムだったらGeorge Harrisonの曲だろうと思っていたよ」とSexsmithは控えめに語る。

最初に作ったときは、Stonesのつもりだったんだけどね。“カードを総取っ換えするには遅すぎるかい?”というパートは別の曲の一部だったんだ。Mitchellは“この曲のサビは本当にいいね”って言ってくれたけど、僕としてはそれほどでもなかったのさ。それで作り直してみてプリプロをやっている時に、ヒットしそうな感じに仕上がったんだよ。最終的にアルバムが完成してみると、他の曲は大作になってしまってね。この曲なら強いフックも何もかも備えているし、ラジオで鳴ってるのを聞けたらいいなって思ったのさ

もちろんそのために、Sexsmithは「Feel For You」がアメリカでもヒットするとレコード会社を説得する必要がある。

何がヒットするかなんて誰にもわからないから、いつでも後から推量するのさ」とSexsmithは認める。

自分がアーティストで、何をやっているのかを分かっていれば、地に足をつけて立ってるってことなんだ。最初のレコーディングの時に、本当にナーヴァスになっている自分に驚いたくらいだよ。Mitchellは“何か問題があったら、このアルバムと戦うことになるのを覚悟しておけ”って言ってたな

彼にとっての問題は、大半がラジオ関連のことだった。狭いフォーマットと厳密なターゲットマーケティングのおかげで、次代の大物風でもなく、ギミックもなく、別の時代を思い出させるようなアーティストにとっての状況はタフなものだった。Sexsmithは同じカナダ出身であるGordon Lightfootのように、時代の流行と無関係なオーディエンスとの関係を築きたいと思っている。

彼が新しいレコードを出せば、まるで旧友からの便りみたいなんだ。彼の音楽がサウンド的にクールだったことは一度もないよ

常に流動的なマス市場にもかかわらず、Sexsmithは流れ出すようなペースで曲を書き続けている。曲の完成には何年もかかるが、ステップアップすべきときが来たら、彼にはいつでも作品をたくさん詰め込んだバッグがあるというわけだ。

1stアルバムのときには80曲くらい書きためていた。その次の2枚には30曲程度を準備したよ。今回は17曲をレコーディングした。僕に大きなインスピレーションを与えてくれるのは、Tom Waits、Elvis Costello ――特にBacharachとやったやつ、Joni Mitchellの『Turbulent Indigo』なんかだね。僕は曲作りがストップしてしまうのがこわいのさ

By Rob OConnor/LAUNCH.com

 

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