沢田太陽アメリカ・ライヴツアー体験記 Vol.01

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沢田太陽アメリカ・ライヴツアー体験記 Vol.01

去る5月19日から27日にかけて、僕はアメリカ西海岸へ飛んだ。
その目的はただ一つ、今のアメリカの本当のところでの音楽シーンをこの目で確認したかったからだ。

ここ最近、デスチャ(註:デスティニーズ・チャイルド)やエミネムなど、欧米と日本との温度差を如実に感じさせるアーティストがやけに目につく。最近はようやくフォローされつつあるが、まだまだいまひとつ伝わっていない音楽シーンでの事実はないのだろうか。それをアメリカで実際にライヴを観て確かめてみたかったのである。

この8日間で計5本のライヴを僕は体験したが、いずれも本国との評価と日本での評価の差が著しいものばかり。

今回はその中から3本をピックアップして、今本場アメリカで本当に熱い音楽とその実情についてお届けしたいと思う。

■Vol.01
ネリー・ファータド&デヴィッド・グレイ(5/20 ラス・ヴェガス ハードロック・ホテル)
Vol.02
デイヴ・マシューズ・バンド(5/22 ロサンゼルス ドジャー・スタジアム)
Vol.03
トレイン(5/26 サンフランシスコ ウォーフィールド・シアター)

取材・文●沢田太陽(音楽ジャーナリスト)

Vol.01 ネリー・ファータド&デヴィッド・グレイ(5/20 ラス・ヴェガス ハードロック・ホテル)

NELLY FURTADO

『ネリー・ファータド!』

ユニバーサルインターナショナル UICW-1004
2000年11月23日発売 2,548(TAX IN)

1 ヘイ、マン!
2 …オン・ザ・ラジオ(リメンバー・ザ・デイズ)
3 ベイビー・ガール
4 レジェンド
5 アイム・ライク・ア・バード
6 ターン・オフ・ザ・ライト
7 トラインア・ファインダ・ウェイ
8 パーティーズ・ジャスト・ビガン(アゲイン)
9 ウェル・ウェル
10 マイ・ラブ・グロウズ・ディーパー(エヴリデイ)
11 アイ・ウィル・メイク・U・クライ
12 スケアード・オブ・ユー
13 オンデスタス
14パーティーズ・ジャスト・ビガン(アゲイン)(CHORONI MIX)

まず最初にお届けするのが、カナダ出身の注目の22歳の女性シンガー、ネリー・ファータドと、イギリスはマンチェスター出身の男性シンガー・ソングライター、デヴィッド・グレイ。この二組によるカップリング・ライヴだ。

いずれも日本ではいまひとつ馴染みのないアーティストだが、世界的に見れば、今これほど注目度の高い組み合わせもそうあるものではない。ネリー・ファータドは、新人ながらも本国カナダでデビュー・アルバムが“カナダ版グラミー賞”とでも言うべきジュノー賞の主要部門を独占。そしてその評判が世界的に広がり、シングル「I'm Like A Bird」がカナダではもちろん、イギリス、オーストラリア、など世界中でトップ10ヒットを記録。そしてこのライヴがあったまさにこの頃アメリカでもトップ10入りを記録中と、まさに今世界でもっともホットな女性シンガー。

高い作曲能力にヒップホップとオルタナが絶妙にブレンドされたサウンド、独特の鼻にかかったヴォーカルとその溢れる才能は日本でいうとまさに椎名林檎に当たるものと言って過言ではない。

一方、デヴィッド・グレイは現在“シンガー・ソングライター”と呼ばれる存在としては最大のセールスをあげる男。

イギリスではコアーズが、アメリカではデイヴ・マシューズ・バンドが猛烈にプッシュしたことにより、彼の最新アルバム『ホワイト・ラダー』は英米ともどもミリオン・セラーを現在もばく進中。この組み合わせに、ヴェガスの会場はたちまちのうちに満杯となった。

まず最初に登場はネリー・ファータド。スレンダーなボディに端正な顔だちのかなりの美人シンガーである彼女だが、彼女の人気を支えているのはここアメリカでは圧倒的に女性の方。彼女が登場するなり会場は女性の声援に包まれた。

このライヴの数週間前に、かのアレサ・フランクリンの功績を讃える<DIVA LIVE>に駆け出しのシンガーとしては異例とも言えるゲスト・パフォーマンスに抜擢されるなどシンガーとしての注目度の高い彼女だが、その圧倒的な歌唱力はやはり本物。細い体を一杯に振り絞って出されるそのエグ味のある声が聴こえたとたん、会場は興奮の坩堝と化した。

その声に負けず劣らずサウンド面も充実。

DJ、ドラム、パーカションという3人のリズム隊が織り成す複合的なリズムは、彼女の摩訶不思議な音の個性をさらに輝かせることに成功。特にDJの腕前は見事の一言。単にスクラッチを聞かせるだけでなしに、様々な音色を披露する事で音に膨らみをもたせ、ロックにおけるDJのあり方の優れた見本であった。

また、ギタリストでありプロデューサー、バンマスでもある才人ジェラルド・イートン(元フィロソファー・キングス)のひび割れたディストーションあり、ボサノヴァありの自在なギターもネリー・マジックを見事に演出していた。

この、バンド全体をも巻き込んだ歌姫の魅力に会場は大喝采! 大ヒット・シングル「I'm Like A Bird」では予想を遥かに上回る大合唱が会場を包み込み、終演後も歓声はやむことがなかった。

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この“新時代の歌姫”の宴が終わった後、次いで会場を覆ったのは「ウオーッ!」という太い男性客の歓声だった。

ステージの中央に立つのはデヴィッド・グレイ。その極力無駄を排したフォーキーでシンプルなサウンドと、薄く敷いたデジタルなビートによるサウンドはここアメリカでも“癒し系”として解釈されているが、この男、いざステージに立つと、“線の細さ”なんて概念とは一切無縁なパワフルな男と化した。

大柄な体を激しく揺らしてギターをかき鳴らし、会場の隅々にまで響き渡るような巨大な声でソウルフルに歌い上げる。どうやら、日本で人気のロン・セクスミスエリオット・スミスとは全くタイプを異にするアーティストであるようだ。

MCでもジョークをふんだんにまじえたトークがガンガン止まらない。どうやらかなりのエンターティナーのようだ。しかも、ショウマンシップは抜群に高い。歌唱力・楽曲、一切問題無し。バックバンドのドラマー、ベーシスト、キーボードの3人もクラブ・テイストの強い複雑なリズムを難無く弾きこなす。

会場の方もヒットナンバー「バビロン」をはじめ、大合唱で応酬。演奏者・観客ともども熱いテンションとなり、遂には興奮したデヴィッドがグランド・ピアノの上に立って観客を煽るほどに。

そして、“ラス・ヴェガスのライヴ”ということを考慮して、アンコールではデヴィッド、バンドメンバーともども金のスーツで登場し、6曲にも及ぶアンコールに応えるなど、最後までホットなままにライヴは幕を閉じた。

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