吟遊詩人の、まったくもってのプライベート・アルバム

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吟遊詩人の、まったくもってのプライベート・アルバム

花田裕之の2年半振りの新譜が届けられた。『NOTHIN' ON』と題されたニューアルバムは、彼のまったくのプライベート・アルバムだ。

'80年に伝説的ロックバンド、ルースターズのギタリストとしてデビューし、8年に及ぶ活動の中、最後は唯一のオリジナルメンバーとしてヴォーカルを兼任した花田。福岡出身のこのバンドは、ジャパニーズロックシーンのその後に大いなる影響を残した。

その後、花田はソロ活動を開始。途中、かつての盟友とR&R GYPSIESとしてバンド活動も実施するも、今回は再びソロで、アコースティックギターと歌のみを、まるまる一枚聴かせるブルージーサウンドを発表した。
まるで定まった活動という束縛を嫌うかのように様ヶな方面で活躍する彼だが、今作には吟遊詩人として、等身大の彼の姿があった。

まったくのプライベートとして作ったものを、テープで内輪に配るだけのつもりだった

最新ALBUM

『NOTHIN' ON』

Imagine Label DLCI-2008
2001年9月27日発売

1.I've got love if you want it
2.道のはて
3.こんな日は
4.川
5..Lonesome Train
6.どこにも
7.Dimple
8.晴れたら
9.どこへだって
10.ただそこへ



――まずは単刀直入に、今作を発表する経緯から聞かせて下さい。

花田:
去年の暮れくらいに、ちょうど時間ができたんで、アコースティックギター1本持ってスタジオに入って録りました。この曲順通りに、1日1曲ずつ録っていったんですよ。

――久しぶりのアルバムが、今までの花田さんがやってきたロックスタイルではないので、何か大きな転機、キッカケがあったのかなって考えてしまったんですが、そういうわけじゃないんですね。

花田:
そう。特別な思いはないですね。曲が貯まったから。何も準備をしなかったしね。1曲目に、「I've got love if you want it」(スリム・ハーポ/ルイジアナを代表するブルースシンガー、ハープ奏者のカヴァー)を録って、あとは思いつくままにギターを弾いて録りました。

――花田さんのアコギと歌のみ、と言っていいですが、唯一、パーカッションということで、椎野恭一(AJICO)さんが参加されていますね。

花田:
うん、リズムが欲しくなったんで、テープを渡して乗せてもらいました。「こんなの作ったんで、乗っかるようだったら叩いて」って言って、あとから加えてもらったんです。

――えっ? あとから被せたのですか?

花田:
そう。実は最初は売り物にするつもりはなかったんです。まったくのプライベートとして作ったのをテープにして、ごくごく内輪に配るだけのつもりだったんですよ。売ろうっていうのはスタッフからのアイデアだったんです。なので、最初から売り物として考えて作っていないんです。

――なるほど、それで肩に力が入っていない、等身大の花田さんが感じられるんですね。収録曲のタイトルに、「どこにも」、「どこへだって」、「ただそこへ」というものがありますが、そういった根無し草、宿無し的なところって、花田さんの根っ子にある部分なんでしょうか。

花田:
詞もね、思いつくままなんです。ギターを弾いて、出てきた言葉からつらつらっと詞を作っていったんです。もうね、一人でやったらこうなったってアルバムですよね(笑)。業務報告のようなものです。ですから、セルフセッションなんですよ。俺、何年もいろいろなことをやってきたので、ここで"膿"が出せたんじゃないかな。タイトルの『NOTHIN' ON』も、何にもないけど(=NOTHIN')、何かある(=ON)って意味だから。

――なるほど。オリジナル曲のほかに、ブルースのカヴァ-が2曲収録されていますね。

花田:
ブルースは、10代の終わりころから聴いてカッコいいなあって。それまでパンクとかリズムの速いものを聴いてきたんだけど、同じくらいの衝撃がありましたね。声高に過激なことを言わなくても、充分にふてぶてしいっていうか…(笑)。ストレートに入ってきましたね。それ以来、ギターの弾き方などは相当影響を受けましたね。

――夏から行なっていたツアーでは、ベ-スに井上富夫さん(元ルースターズ)が参加されていますね。

花田:
ええ、ツアーは3人で廻りました。バンドサウンドで、いろいろな曲をやりたかったんですよね。CD屋でのインストア・イベントとかでは1人で弾き語りをすることもありますけどね。今回は沖縄から大阪、京都、名古屋と廻ってきたんだけど、沖縄と京都は久しぶりだったので良かったですね。BLUES LION(元サンハウスのVo.柴山俊之を中心とするブルースロック・バンド)と一緒にツアー廻ったのは、たまたまリリース時期が一緒だったんで、向こうから話を振ってもらいました。柴山さんとは昔から詞を書いてもらったりの付き合いがあるので、断る理由もなかったしね。もうそれこそ気心の知れたメンバーでのツアーだったので、楽に楽しんでやれましたよ。

――ソロ以降、裏方としても様々なところでギターを弾いてきたじゃないですか。そういった中で花田さんとしてのポジションが見えにくくなったこともあったんですが、それはご自分としてベストな場所を探っていたのでしょうか。

花田:
いや、ひとりで演るソロや、複数で演るバンドと、どちらかって片寄りたくはないですね。その間を揺れていたいんです。決めつけたくはない。言っちゃえば、自分自身の居場所はなくってもいいんです。そんなことより、こんなごく個人的なアルバムが出せる世の中になったことは、良いことだと思うからね。でも、たぶん、次はバンドで演ることになるでしょうね。音を出してぶつかり合ってっていうバンド・サウンドね。

取材・文●中島儀幸

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