バンド時代の重荷を下ろした軽やかなソロ・ライヴ

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バンド時代の重荷を下ろした軽やかなソロ・ライヴ
 
彼の新しいバンドには、Pavementにはなかった、そこはかとないルーズさがある

日本独自企画盤

JENNY & THE ESS-DOG
トイズファクトリー TFCK-87253
2001年7月11日発売 2,100(tax in)

1 Jenny & The Ess-Dog
2 Pink India(Live)
3 The Hook(Live)
4 Discretion Grove(Single Version)
5 Sin Taxi
6 Leisurely Poison
7 Vague Space(Demo Version)
8 Malay Massaker
9 Keep The Faith(Live)
10 That's What Mama Said(Live)

とどまるか、進むか? それが問題だった。伝説的なバンドPavementを脱退後、初めてのツアーに出たStephen Malkmusは、このコンサートを行なうにあたって微妙な立場にあった。受けのいいお馴染みの曲でオーディエンスを喜ばせるか、はたまた過去の作品を退け、ソロアーティストとして独立を宣言するか。だが結局、そんな心配は杞憂だった。彼が演奏したのは新規のマテリアル(それに数曲のカヴァー)のみだったが、一方でMalkmusのサウンドは、Pavementを一流のカルトバンドに仕立て上げた、あの美学から逸脱してはいなかった。この夜のショウが特別なものになったのは、何よりも独特な雰囲気によるところが大きい。

オープニングを飾った変幻自在のポップチューン“Jenny & The Ess Dog”からして、『Terror Twilight』や『Brighten The Corners』といったPavementのアルバムに入っていても不自然ではないような曲。控えめな性質のMalkmusとしては、5月から12月までのはかないロマンスをストレートに語る話法が非常に目新しい。サイケデリックに弾む“Phantasies”では、Pavementの代表曲に顕著だったイメージと関連性の奇妙な並列が再び浮上している。では、曲のタイトルが違うことを除けば、いったいPavementとどこが変わったのか?

何曲か聴くうちに答えが見えてくるのではないか。彼の新しいバンドには、Pavementにはなかった、そこはかとないルーズさがある。名盤『Slanted And Enchanted』を出した頃から、“オルタナティヴの先駆者”なる肩書きを負わされたPavementは、真剣にそれを突き詰めることを余儀なくされたといっていい。そして今、Jicksというニューバンドを得たMalkmusは、重荷を下ろしてほっとしているように見える。バンドがいきなりダーティなグルーヴに突入して、ギター兼キーボード奏者のMike Clarkeがカウベルを叩きまくり、ドラマーJohn MoenとベーシストJoanna Bolmeのリズム隊がコケージャン風ファンクを展開する“The Hook”では、それが強く感じられた。また、Fairport Conventionの“Tale In A Hard Time”とCreedence Clearwaterの“Lodi”を、思いきり自由に、しかも十分な敬意を払って、意欲的にカヴァーしたのにも驚かされた。

けれん味のないロックと、ユル・ブリナーを引き合いに出したキッチュさが光る“Jo Jo's Jacket”(ニューアルバムに収録)は、Pavementの“Stereo”(Geddy Leeをうなずかせた)を彷彿させるにせよ、そこには新しいStephen Malkmusの兆候が確かにあった。ことに、彼はギターを背中にまわして弾きはじめ、Grateful Dead風の変テコなジャムまでやってのけたのだ。彼のミューズが以前のままだとしても、おそらく彼はなにがしかの平和と幸福を見いだしたのだろう。次にどうなるかは、また別の話だ……。

By Tim Sheridan/LAUNCH.com

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