アラニス・モリセット 1回きりの超プレミア・ライヴ

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アラニス・モリセット 1回きりの超プレミア・ライヴ


最新アルバム『アンダー・ラグ・スウェプト』において、アラニス・モリセットは彼女の実力が決してフロックでない、世界を代表する女性ロッカーであることを改めてアピールするのに成功した。その唯一無二の声の存在感や、寓意と女性達の本音に満ちた独特な詩の世界、そして世界でもトップクラスを誇る人気にも関わらず、欧米の批評家的には何故かいつも過小評価され続けてきたアラニス。

しかし、今作はセルフ・プロデュースに挑戦し、通常より低いキーの声に挑戦してみたり、より自己の内面を突き詰めた歌詞表現を体得したことで見事に脱皮に成功。これまでの「グレン・バラード(それまでのプロデューサー)の操り人形」なる陰口を一気に払拭し、またもや全米No.1をはじめ世界的な大ヒットを記録するのに成功した。

そんな次なる全盛期の到来を告げるべく、彼女はここ日本にいち早く凱旋来日。僕は一回り大きくなったアラニスを楽しみに赤坂ブリッツに足を運んだ。
 

アラニスに注ぐ視線は、陶酔とも崇拝ともとれるウットリするようなものであった
 
最新 Album

UNDER RUG SWEPT
WEA WPCR-11110
2002年02月20日発売 2,520(tax in)

1 21 Things I Want In A Lover  
2 Narcissus  
3 Hands Clean  
4 Flinch  
5 So Unsexy  
6 Precious Illusions  
7 That Particular Time  
8 A Man  
9 You Owe Me Nothing  
10 Surrendering  
11 Utopia  
12 Sister Blister  
13 Sorry 2 Myself


アラニスのライヴを既に3~4回見ている僕には、新作後の成長がライヴでいかに発揮できているか、ということに加えてもうひとつ気になる点があった。それは彼女の「声量」の問題だった。CDでは存分に発揮されるあのオーラ漂う裏返る独特の声が、いざステージになるとどこか小さくまとまってしまう。これが、いつももどかしかった。アルバムにおける爆発力が、ライヴという空間で完全に発揮できないもどかしさ。この辺りがどう解消されているか。そこが僕の一番気になっていたところだった。


Photo by 西村 寛

注目のライヴは、名作『ジャグド・リトル・ピル』の冒頭トラック「オール・アイ・リアリー・ウォント」からスタート。バンドは通常通りのシンプルな5人編成。そこにタンクトップ姿でラフな出で立ちのアラニスが、いつものように腰まである長い髪を振り乱してステージを大股で駆け回る。このステージ・アクションや立ち姿自体には十分カリスマ性がある。が、僕が一番期待していた声量の点は、正直まだ克服しているとは言い難い。セットリストは思ったほど新作の曲は多くなく、どちらかと言えばみんなが知っているほぼベストとも言える選曲だ。それはそれで良くもあるのだが、なまじ知っている曲だけにどうしても「ああ、この曲のアソコの部分でどうしてもっとはじけないんだよ~」という歯がゆい気持ちも起こってしまう。そして新作でせっかくヴォーカリストとしての明らかな成長を示したのに、それを証明するような曲をあまりプレイしなかったのもちょっと物足りなかった。

ただ、それでも彼女の“発明”ともいうべき声の裏返りや、しゃくりあげるようなブレスはやはり耳には印象的に残り、それがいかにJ-POPの女性シンガーに多大な影響を与えているかは手に取るようによくわかった。実際、会場は大勢の女のコで占められていたが、彼女たちがアラニスに注ぐ視線は、陶酔とも崇拝ともとれるウットリするようなものであったし。そういう意味においては、やはり彼女は今の世界をリードするシンガーであることは間違いないんだな、ということも改めて理解できた。

ライヴは1時間程度という、シークレット・ライヴとしては少し長めの時間で終了。時間枠的にはこんなものかと思いつつ、僕としてはまたしても歯がゆさの残るライヴとなってしまった。それでも<FUJI ROCK FESTIVAL ’01>の時よりはまだ声の状態は良かったみたいだし、新作からの曲もかなり温存されていたこともあり、おそらく近いうちに実現するであろう、正式なジャパン・ツアーで真価をしっかりと見極めたいと思う。厳しい物言いになってしまったが、それもアラニスが世界的なNo.1女性ロックシンガーであり、とりわけ同性の熱い支持を獲得できるオピニオン・リーダーであることを認めているからこそ。今度のアルバムのツアーは、その意味でも彼女が不動の存在に駆け上がるための、大きな”橋”のような役割を果たすのかもしれない。

文●沢田太陽

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