デトロイトが産みだした音楽“Logic Of The Heart”(ハートの論理)

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デトロイトが産みだした音楽“Logic Of The Heart”(ハートの論理)

「ハートフルで、ひとつのスタイルやアプローチにこだわらず、いい音楽を作ることだけに集中した」

最新アルバム

『Cardiology』

!K7 Records 2002年4月27日発売
K7124CD ¥2,390(tax in)

1 Ain’t Changin'
2 Ghost Stories
3 Can’t Take It
4 Kapiti Dream
5 Up And Up
6 Processional
7 Get There Tonight
8 Permutations
9 M.I.A
10 Absence Of One
11 Cardiology

――デビューのきっかけとなったのは?

RECLOOSE:
サンドイッチ・ストーリーって言ってるんだけど…。大学を卒業してデトロイトのデリで仕事をするようになって、その頃は自分の時間で音楽を作ったりしていたんだ。その時、カール・クレイグはたまに僕の働いているデリに来るお客だったから、仕事場にはデモテープをいつも持っていた。そしてある日、彼がテイク・アウトのオーダーに来て、テープを渡そうと思ったんだけど、すごく緊張してしまって、自分から挨拶しに行けなかった。だから、サンドイッチみたいにパンの間にテープを挟んで、 電話番号と一緒に袋に入れて渡したんだ。その3日後にカールから電話がかかってきたんだよ。

――すごいですね。

RECLOOSE:
でも、まだその頃の音楽はラフだったよ。今もまだラフだと思っているけどね。でも、その中に何か感じるものをカールが見つけてくれたんだろうね。その曲を作りこんでカールのレーベルPlanet Eからリリースしたのが1stシングル「So This Is The Dining Room EP」なんだ。

――そして遂に1stアルバム『Cardiology』が完成ですね。タイトルはどういう意味を込めているのですか?

RECLOOSE:
“心臓医学”っていう意味があるから、外科の手術みたいなサイエンスっぽいことを連想するかもしれないけど、文字通りの意味にすると"Logic Of The Heart"(ハートの論理)。ソウルを込めた音楽を作りたかったし、感情的にもそういう気分だった。ハートフルで、ひとつのスタイルやアプローチにこだわらず、いい音楽を作ることだけに集中したんだ。できればそれがタイムレスな音楽になるといいなって思っていたよ。

――来日時のDJプレイやアルバムを聴いて、ビートのヴァリエーションが多彩なことに驚きました。それは普通の4つ打ちテクノからは完全に逸脱したもので、エレクトロニック・ミュージックを進化させようとしていると…。

RECLOOSE:
俺はビートをいじって、ちょっと複雑にすることに興味を持っている。ドラムンベースやブロークンビーツのアーティストたちはプログラミングを駆使し、リズムやポリリズム(2つ以上のリズムを同時に使うこと)をネクストレベルに押し上げていると思う。俺はそこまで時間をかけてリズムを作りこんだことはないけれど、4つ打ちみたいなどこにでもあるようなものから逸脱しようとは試みているつもりだよ。シンプルな方程式からそれを作り出して、うまくいくとすごく面白くなるしね。でも、ビートはもちろんだけれど、もっと曲全体を音楽的に面白くしたいって考えている。これからはコード進行やメロディの作り方をもっと勉強したいんだ。

――デトロイト・テクノにしては珍しくスクラッチも入っていたから明らかにヒップホップの影響も感じたし、このアルバム全体を聴いて、“きっといろんな音楽を聴いてきたんだろうな~”って思ったのですが…。

RECLOOSE:
最初に音楽をコレクションしたのは、ヒップホップからだね。子供の時はポップ、ロックなんかを聴いていたけれど、それは別にラジオで流れていたから聴いていたって感じで、ヒップホップを聴いてから音楽に夢中になったんだ。高校に入ってからはジャズバンドでプレイするようになったから、ジャズも聴くようになって…。それからダブ、レゲエ、ハウス、テクノ…て。そうやっていろんな音楽に触れるようになったのは、大学の時にラジオをやっていたのが大きかったな。

自分もそうだったけど、みんな音楽をジャンルで分けて聴いてるよね。俺もこのジャンルが好きだから、他はあまり好きじゃないとか考えていたんだよ。それで大学生くらいになると友達もみんな“ヒップホップ派”か“テクノ派”に分かれていた。でもカレッジラジオのDJになってから、時間をかけていろんな音楽を聴いて、いろんなミックスの実験をしているうちにその壁がなくなっていった。どちらも同じところから派生しているものだと気づいたんだ。ヒップホップとテクノをミックスしたりしていたジェフ・ミルズのショウをよく聴いていたからね。デトロイトの郊外に住んでいた俺にとって、デトロイト・テクノへのアクセスはラジオだった。彼はいろんな音楽をプレイしていたし、それに衝撃を受けたんだ(※ジェフ・ミルズはもともと“Wizard”(魔術師)という名前で、ラジオDJとしてヒップホップを超絶テクニックを駆使してプレイしていた。もちろんパーティでもプレイしていたのだが、あまりの影響力にデトロイト市当局が化“Wizardという名前を使うことを禁止したという有名なエピソードを残している)。そして、大学を卒業してデトロイトに移ってから、デトロイト・テクノの伝統に出会ったんだ。

――僕がデトロイトの音楽に惹かれるのは、独自のスタイルを確立していることが素晴らしいと思うからなんです。NYみたいな大都市と違って、お互いのスタイルに変な影響を与えることもないし、トレンドみたいなものも追う必要がないから、みんな好き勝手にやっているような状況がいいなって。あなたにとって、デトロイトはどういう街ですか?

RECLOOSE:
MotownやTribe Recordsみたいな素晴らしいジャズやデトロイト・テクノも生み出した街だし、素晴らしいミュージシャンがたくさんいる所。だから、そんなシーンからの影響は大きいと思うよ。デトロイトのアーティスト達は有機的な意味でお互いに刺激し合っているというか、それがデトロイトに住んでいることの副産物であり特権だと思う。でも、デトロイトみたいな荒れ果てた街だと、そこからいかに逃れようとしても、その影響からは逃げることができないと思う。俺は実際5年位しか住んでいないけど、そういったことに影響を受けたし、またフラストレーションを感じた。それが音楽にも反映されていると思う。それでも、そういう状況もある意味、美しいと思うんだ。街の中に'20年代からそのままにされた廃墟があったりとか、そこにダークな美しさがあって惹かれるんだ。

音楽についてはデトロイトのアンダーグラウンドで何が起こっているのか誰も知らないよ。それが逆にクリエイティヴになるスペースを与えているとも思う。音楽が飽和している状況でもないし。アーティスト同士の対話はあるんだけど、それはお互いが見栄を張り合ってるわけじゃなくて、みんな自分のことに集中しているだけなんだ。君が言ったように、NYやシカゴよりも個人主義的なところはあると思う。でも、それはすごくいいことだと思うよ。


――このアルバムの制作を終えた後、デトロイトからニュージーランドへ移られたのですよね?

RECLOOSE:
そう、ニュージーランドはたくさんのソウルがあるところだ。1000人位しか住んでいない小さな村みたいな場所なんだけど、メローの定義とでもいうべきかな。すごく休まるし、リラックスできるから気に入っているよ。すごく広いスペースがある感じがして、Recloose(世捨て人“Recluse”をもじった名前)にとってはいいことだよ。海のそばに住んでいるから、インスピレーションも受けるしね。朝起きたら日が昇ってきて…みたいなさ。水もキレイだし。今日は音楽への外的環境からの影響を話していたけれど、これから音楽も変わるかもしれないね。

――次のアルバムも期待しています。ありがとうございました。


取材協力 :AHB、!K7 Records Tokyo

取材/文●門井隆盛

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