【特別寄稿】吉田拓郎というアーティストから得たこと

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「自分は自分が一番大切なんだ!」ということは、他人も各々自分が大切だと思っていることを理解し、思いやり、行動して初めて声高に言えることだと思う。

吉田拓郎の歌に出会って、「男」とはこうあるべきだということを、中学生の私は初めて考え、学んだように思う。自分を大切にしながら、同時にどうしたら他人に優しくなれるか、不満を主張したり、他人を攻撃したりすることは何になるのか、それはまさに自分の中に初めて感じる「愛」だったんだと思う。

当時『元気です』(72年発表)のアナログ盤を四六時中聴き、ギターをかき鳴らした私はその後もずっと吉田拓郎の歌を「元」に人生を生きてきたと感じている。時代を背負って現れたような強く過激なイメージのある吉田拓郎から、30年以上私が感じ続けているものは、実はやさしさ、清潔さ、慎ましさ、そして当たり前の男の強さと弱さの共存なのである。手練手管の筋肉をまとい、百戦錬磨、負けることを知らない男ではなく、真っ向勝負で勝敗五分五分、負けてもがき悩み、それでも立ち上がりまた歩き出す、歩き出さなければならない男の姿を見させてもらっている。

そして今年、吉田拓郎はライヴ盤『豊かなる一日』をリリースした。名曲を生で歌う……今リリースされるということは、私にとっても感慨深いタイミングだと思っている。そしてタイトルも感慨深い。くだらないと思うことに悩んだら、くだらないことに腹を立ててると揶揄されたら、いい年して恥ずかしいと言われたら、こんなバカは自分しかいないと思ったら、まずは『豊かなる一日』を聴いて自分を取り戻そう。それから山ほどある名曲を並べ聴いて、吉田拓郎とゆっくり酒を呑むべきだ。

吉田拓郎は今年の夏、7月24日のつま恋から10月30日の沖縄までのツアースケジュールを発表した。エンタテインメントの枠を超えた生々しいライヴのできる数少ないひとである。『豊かなる一日』の歌声とDVDに収められたなかには、伝えきれないんだ、とでもいうような、もどかしくも強い表情も感じる。ぜひともライヴに足を運んで、メロディに乗せた「言葉」によって時代を吐き出し続けてきた吉田拓郎の今を感じてきて欲しい。それが「吉田拓郎を観た」ということだから。

余談だが、10年以上前に、手に入れることができなかったアナログ盤EP『おきざりにした悲しみは』(72年)のことをご本人に話したら、直筆の手紙とともにそのEPをこころよく送ってくださったことがあった。吉田拓郎という人は、そういう人なのだ。

文●今野多久郎(04/04/06)

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