【ライブレポート】BAND-MAIDのプロフェッショナリズム

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写真◎MASANORI FUJIKAWA

BAND-MAIDにとっての進化や成熟とは、他の誰かのようになるのを目指すことではなく、経験値や技術力を向上させながら、このバンド独自の特性に磨きをかけていくこと。そんなごく当然のことを改めて実感させられた一夜だった。

◆ライブ写真

11月26日、横浜アリーナ。今年が結成10周年のアニバーサリーイヤーにあたる彼女たちは、年間を通じて精力的な活動を続けてきたが、この日のお給仕(=ライブ)は、国内外を交互に巡演しながら展開されてきたこのツアー全体の最終公演にあたるもの。しかも過去最大規模となる会場での単独公演であるのみならず、そのステージ自体もトータル3時間40分にも及ぶ過去最長ものとなった。

この自己初となる横浜アリーナ公演開催が決まってからというもの、彼女たちの視線の先には常にそれが浮かんでいたはずだし、そこで演奏することを想定しながら楽曲制作に取り組んだり、演出等のアイディアを出し合ったりしてきたことだろう。実際、今年に入ってからのインタビュー記事の多くでは、それに向けての並々ならぬ意気込みを、5人は異口同音に語ってきた。あらかじめそうした記事などに目を通してきた熱心なご主人様お嬢様(=ファン)からすれば、この公演に向けての期待感は時間経過とともに高まりを増していたに違いない。そして彼女たちは、そうしたオーディエンスの期待に応えるのみならず、さまざまなサプライズも提供しながら、バンド自体が過去最強の状態にあることを証明してみせた。

写真◎MASANORI FUJIKAWA

ただ、実際問題、この記念すべきお給仕の一部始終について時系列で記述していくことには、無理があると言わざるを得ない。盛りだくさんという言葉では言い尽くせないほどに情報量が多く、しかも同時進行でさまざまなことが起きていたためだ。現地でそれを目撃していた読者はもちろん、配信でその様子を見守っていた人たちにも、それはご理解いただけることだろう。そこでこの場では、このお給仕を通じて筆者が実感させられたことについて、敢えていくつかのテーマに絞りながら書き進めていきたいと思う。

まずはBAND-MAIDのサービス精神の旺盛さについてだ。この日のお給仕全体を通じての演奏曲数は、アンコールも含めて33曲にものぼった。ちなみに、この33曲には各楽器のソロパートや、小鳩ミクによる“おまじないタイム”などはカウントしていない。これほどの曲数になった事実は、いまやBAND-MAIDのお給仕に欠かせない必須曲が両手の指でも数えきれないほどになっていることのみならず、彼女たち自身がこの記念すべき夜にどうしても披露したかった曲がいかに多かったかを物語っている。

世界征服を目標に掲げ続けてきたこのバンドにとってのテーマ曲ともいえる「DOMINATION」を幕開けに据えながらの、序盤の畳み掛けるような攻撃はあまりにも見事だったが、誰もが鉄板と認めるはずの曲を立て続けに演奏しても、今のBAND-MAIDには“弾が切れる”ということが起こり得ない。しかもそうしたキラーチューンの数々をまっすぐにぶつけてくるばかりではなく、「Different」と「anemone」についてはSAIKIとKANAMIのふたりだけで、アコースティックで披露。しかもそれに続いてSAIKIは、グランドピアノの弾き語りで「Choose me」を聴かせたのだった。


以下、写真◎Viola Kam (V'z Twinkle)

SAIKIのそうしたパフォーマンスは当然ながら初披露であり、この夜に向けて用意されたサプライズ要素のひとつだったわけだが、そこには彼女たちの、ご主人様お嬢様に驚きを提供するうえで努力を厭わない姿勢を感じずにいられなかった。メイドという職業にも奉仕の精神が必要とされるわけだが、来場者たちが求めるものをすべて与え、しかもそうした意外性を伴うサプライズまで届けようという姿勢には、本当に頭が下がる思いがする。もはやそれはサービス精神云々ではなく、彼女たちプロ意識の高さの表れというべきだろう。前述のピアノの弾き語りにしても、誤解を恐れずに言うならば、仮に失敗した場合でも笑顔や気のきいたMCでのごまかしが許されるところも、なくはないはずだ。しかしSAIKIはそれを完璧な形で披露してみせた。そして、そうした挑戦をクリアすれば、次のレベルへの挑戦が可能になっていく。彼女に限らず、BAND-MAIDというバンド自体がそうしたプロセスを何度も重ねながら現地点まで歩みを進めてきたのだ。


プロフェッショナルなメイドが、奉仕すべき対象に完全な満足を与えるためには、サービス精神ばかりではなく、当然のように技術力の高さも不可欠だといえる。この10年という経過の中で生じた重要な変化のひとつにそれがある。正直に言えば、筆者自身は彼女たちをデビュー当時から観てきたわけではないが、近年における技術面の充実ぶりにはまさに目を見張るものがある。

しかも彼女たちが磨きをかけてきたのは、個人単位での技量の高さを見せつけるための技術ではなく、BAND-MAIDとしてのパフォーマンスの質を高め、精度を上げていくためのもの。加えて、演奏面での向上が、楽曲面での充実と可能性拡大にも繋がっていることがうかがえる。そうした成長/進化というのが、彼女たちの音楽に向き合う姿勢の真剣さの賜物であることは疑う余地もない。同時に、バンドを有効な形での進化に導こうとするディレクションの確かさも、重要な一因であるはずだ。そうしたチームワークの素晴らしさも、特筆すべきことのひとつだろう。



個々の技術力の高さについては、随所に組み込まれたバトル的なセッション場面からも伝わってくる。しかもそれは、各メンバーのテクニック以上に、メンバー同士のコンビネーションの確かさと面白さを伝えてくれるものになっているように、筆者には感じられる。BAND-MAIDは間違いなく個人の集合体ではあるが、まぎれもなく“バンド”なのだ。そして同時に、そうしたバンドとしてのストイックな一面とは対照的な、ある種の緩さを持ち続けていることも、彼女たちの特色のひとつだといえる。ぶっちゃけ、この夜のお給仕が3時間40分という長さになったのは、小鳩による“おまじないタイム”や、貴重な初期のライブ映像などを交えながらの“小鳩いじり”ともいうべき時間が設けられていたからでもある。

正直に白状すれば、初めて“おまじないタイム”を目撃した際には一瞬ポカーンとさせられたものだし、筆者自身の嗜好性からすれば、そうした緩和の要素を排除して駆け抜けていくようなパフォーマンスのほうが好みではある。ただ、お給仕参加歴を重ね、彼女たちについての理解度を深めていくうちに、そうした要素もBAND-MAIDにとってのアイデンティティの一部なのだと納得できるようになった。


この夜の場合も、そうした要素すべてを排除して、3時間未満にブラッシュアップしたならば、より密度濃く機能美を感じさせるスタイリッシュなお給仕になっていたかもしれないし、いつか彼女たちのお給仕からそうした要素が消える可能性もあるのかもしれない(おそらく小鳩は全面的に否定するだろうが)。ただ、少なくとも10周年という節目を象徴するお給仕においてそれは絶対に欠かせないものだし、精度の高い演奏をカッコよく決めるだけがBAND-MAIDではないのだ。筆者のような、40年以上にわたりロックにまみれてきた人間がこんなことを普通に言うようになったのは、単なる“ギャップ萌え”を超えた魅力をそこに感じているからだろうし、これもまたサービスやプロフェッショナリズムの表れなのだと解釈できる。


こうして書き連ねていくだけでも短編小説くらいになり兼ねないほど、さまざまなことを感じさせられた、実に興味深い一夜だった。他にも「Brightest Star」や「Magie」といった、これまでのお給仕で育てられてきた未リリースの新曲が披露されたこと、「Choose me」では限定的に写真/動画の撮影が許可されたこと、インディーズ時代の1stアルバムに収録されていた「FORWARD」が新たなアレンジで披露されたことなど、記しておくべきことはたくさんあった。最後の最後が「endless Story」だというのも象徴的だったし、ステージ衣装がこの大舞台に合わせてゴージャスに新調されていたこと、海外からの来場者の姿が目立っていたことも付け加えておきたい。蛇足ながら、会場到着前に「BARKSの記事をいつも読んでいます」と声を掛けてくれた外国人のご主人様もいた。


すべての演奏終了後には、スクリーン上で今後の重要情報の数々が公表され、歓喜の声を集めていたが、何よりも印象に残ったのはBAND-MAIDの“バンド”としての強さ、貪欲さ、向上心の強さ……一言でいえば素晴らしさだった。この歴史的お給仕をもって彼女たちの最初の10年は幕を閉じた。果たしてこの次のディケイドは、どのようなものになっていくのだろうか? 今は何よりも、それが楽しみでならない。しかし同時に、この3時間40分は、筆者自身の中に大切な記憶としてとどめられていくことになるだろう。彼女たち自身にとっても、あの場に居合わせたすべてのご主人様お嬢様にとっても、きっとそうであるはずだ。

取材・文◎増田勇一

セットリスト

1 DOMINATION
2 glory
3 alone
4 Play
5 Unleash!!!!!
6 Thrill
7 Shambles
8 Don't you tell ME -session-
9 After Life
10 Sense
-session-
11 influencer
12 from now on
13 Daydreaming
14 Memorable
15 about Us
16 Mirage
17 Bubble
18 Rock in me
19 Different ~Acoustic
20 anemone ~Acoustic
21 Choose me ~Acoustic
22 onset
23 Brightest Star (新曲)
-session~
24 FREEDOM
-Dr SOLO-
25 BLACK HOLE
26 DICE
27 HATE? -session-
28 NO GOD
29 Magie (新曲)
30 Manners
31 Choose me
32 FORWARD

33 endless Story -session-

BAND-MAID 2024年公演情報

<BAND-MAID 10TH ANNIVERSARY TOUR 番外編>
会場:KT ZEPP YOKOHAMA
日時:2024年2月22日(木)開場17時/開演18時

<BAND-MAID ACOUSTC OKYUJI>
会場:LINE CUBE SHIBUYA
日時:2024年3月20日(水・祝)開場16時半/開演17時半
※お盟主様の会(ファンクラブ)限定公演

<BAND-MAID "THE DAY OF MAID">
会場:ZEPP HANEDA
日時:2024年5月10日(木)開場17時/開演18時

各公演チケット、お盟主様の会にて抽選受付開始 
詳細はこちら
https://bandmaid.tokyo/contents/693964

ホールツアー

2024年6月28日 (金) 愛知・名古屋市公会堂
2024年7月5日(金)大阪・フェニーチェ堺 大ホール
2024年7月14日(日) 神奈川・神奈川県民ホール

詳細後日発表

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