ベイビー・シャンブルズ、奇跡の1stアルバム『ダウン・イン・アルビオン』完成!!

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ダウン・イン・アルビオン

RESEVOIR RECORDS / 東芝EMI
TOCP-66473 ¥2,300(tax in)
全曲試聴を聴くにはジャケットをクリック!!
「まさか完成するとは」という軽い驚きと同時に、「完成しないわけがないんだし」という納得もある。ベイビー・シャンブルズの初アルバム『ダウン・イン・アルビオン』に対し、そんな相反する感覚をまず抱いた人は少なくないはずだ。

なにしろベイビー・シャンブルズの中心人物ピート・ドハーティといえば、ちょうどこのアルバムのレコーディングの最中に世界規模の大ゴシップに巻き込まれている。くっついたり離れたりを繰り返しているガールフレンドのケイト・モスが、ベイビー・シャンブルズがレコーディングしていたスタジオでのコカイン吸引疑惑を盗撮され、モデル生命の危機にまで追い込まれたアレである。Daily Mirror紙で報道されたのをきっかけに、いわゆる高級新聞と呼ばれる新聞でもThe Independent紙はバンドの元マネージャーが「俺がチクったわけじゃない」と告白した記事を掲載したり、The Guardian紙ではピート自身が寄稿したりと(もっともこれはサッカーに関する記事だが、ケイトや新作に触れていると思しき箇所も)、英国中に知らぬ人はおらぬほどの大ゴシップ・スターになってしまった。

もちろんそれ以外にも、ツアー中にはツアー・バスに警察のガサ入れがあり一時拘束されたり。誰にも左右されず自由を貫くのがピート流だということを知っていても、リバティーンズの悲しい休止を思い出してみても、やはり「本当にアルバムが完成するのか」という心配は常につきまとっていた。

その一方で、「完成しないわけがない」という確信も同時に渦を巻く。それは何より、ピート・ドハーティという人の表現欲求が、そもそも常識や人々の予測をいつも超えるほどに、ごくナチュラルながらも例外なく濃厚に彼の中で渦を巻き続けていることを、私たちはこれまでの彼の活動ですでに知っているから。ピートの「音楽」へのモチベーションは疑う余地のないほどに「あたりまえ」のものとして常に彼の中にあり、これまでもまるで息をするように、日記を書くように曲は紡がれてきた。だからこそ、天才としか評しようがないほどにベイビー・シャンブルズの音楽にはどこを切ってもピート・ドハーティがいる。



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だから。今回の初アルバム『ダウン・イン・アルビオン』には、そんなピートの「気分のままに」や「息をするように」という自然体の音楽作りが、当たり前のように息づいている。ピート・ドハーティがどういう人間であるのか、音と言葉に耳を澄ませば驚くほどに目の前に現われてくるだろう。そのさまこそが、何より感動的なアルバムだ。オアシスのノエルは、自分たちのライヴの前座に抜擢したベイビー・シャンブルズがドタキャンしたとき「それでも、俺のピート・ドハーティへの評価は変わらない」とプレスに話している。つまりは、そういうことなのだと思う。どれほど社会的にも法律的にもピートがダメ人間であろうと、このアルバムを聴く限り、誰も彼の才能を否定することはできない。

サウンドは、どこまでも自由だ。ラガやスカのリズムを取り入れてみたり、パンクもあればフォーキーなつぶやきも、口笛も叫びもラップも、ごく自然に並んでいる。それらの一見すればバラバラな曲調を繋ぐのが、ピートの歌声であり、歌詞だ。ことに歌詞では、自分の内側で相反する感情を、そのまま、かつ詩的に昇華させるさまがあまりにリアル。

「ザ・32・オブ・ディッセンバー」などかつての盟友、カール・バラーへのメッセージを思わせる曲もある(そう、その手法はリバティーンズの2ndと全く同じだ)。また、かつて彼自身が服役していた刑務所の一つの名をタイトルにした「ペントンヴィル」では、服役時の心境が歌われていると同時に、現代を生きる誰にでもあてはまるプロテスト・ソングとしても響く。「パイプダウン」では第三者の声を借りる体裁で、彼自身が置かれているドラッグ中毒の状況が赤裸々に描かれた。どの曲も、言葉の一つ一つは徹底的に研ぎ澄まされていながら、そこにある「物語」は震えるほどにスリリングだ。

ちなみにリバティーンズの時と同様、今作の内ジャケにもピート自身が作った歌詞のコラージュが使われている。そして思い出したのが、まだリバティーンズ時代、ピートに取材した際のこと。彼は気軽に、持ち歩いているブ厚い日記を見せてくれた。そこに殴り書きされた詩の断片や夢の話、言葉遊びは、まるで彼の脳内をそのまま反映するようにゴチャゴチャで、にもかかわらず絶句するほどに独特の美を生み出していた。「このノート、欲しいんですが」と、今考えると冷汗がでるようなことを、思い切って聞いてみた。するとピートは、少し考えてから、笑顔で「これは全部書き終えたら、ビンに入れて海に流さなきゃいけないから、ダメだな」。そう考えると本作は、ビンに入れられて私たちの元に流れ着いた、彼の生きざまの記録だ。脳味噌そのままの混乱があり、だからこそ徹底的に胸を打つ。

文●妹沢奈美


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