【BARKS編集部レビュー】カナルワークスCW-L31、ギリギリまで追い込んだ寸止め設計の美しさ

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貴重&希少な純国産カスタムIEMブランドとして颯爽と登場したカナルワークスの最新モデルCW-L01をレビューし、その日本刀のようなブレのない切れ味鋭いサウンドは以前ご紹介したとおり。シングルドライバーのCW-L01が、シャープでタイトなままにこれほどまで全帯域をバランスよく聴かせてくれるのであれば、マルチドライバーの新設計CW-L31は果たしてどんなサウンドをたたき出してくれるのか…と、CW-L31への興味は高まるばかり。

◆参照:【BARKS編集部レビュー】カナルワークスのカスタムIEM、CW-L01の実力はいかに?

CW-L01に続き、今回新たにCW-L31を試聴したことで、ブランドの持つサウンドの色とでもいうか、メーカーの特徴がしっかりと表れることを感じ、非常に興味深かった。ことカナルワークスは実質上オーナーが自身で設計し製作をも行なうこともあり、モデルが変われど求める理想のサウンドの方向性にブレはないだろう。商品化にこぎつけるまでにたどった経緯は知る由もないが、これでOK!と出来上がったサウンドには、一貫したこだわりがあるだろうし、譲れないスイートスポットもあることだろう。

表現はちょっとカッコよすぎるが、こういう手工製品には、そのままオーナー自身の人徳やイヤホン製作に注がれる美学が浮き彫りになるものだ。信念が音に宿り、こだわりがその商品のトーンとなって個性を形成する。

CW-L31は、よどみない中庸なバランスが見事で、ちょっと過剰じゃないの?というような破綻は決して起こさない。派手な演出や思い切ったチューニングも可能なのだろうが、ここにはギリギリの線でバランスをとってくれる安心感がある。低域は十分すぎるほどの量感を持っているが、他領域を侵食するようなことは決してない。おそらくバイアスのかかっていないニュートラルな判断というのがあるのならば、ここが低域MAXの臨界ポイントなのだと思う。まさしく必要にして十分という絶妙なバランスだ。高域もしかり。その量と伸びやかさはキラキラと煌びやかな華やかさを出してくれるが、高域が刺さるというクレームはおそらくないだろう。ここも寸止め設計されている。

そして音楽の主要領域は中域。固く揺るがない芯とシャープなアタック感を確保し、サウンドの安定感をしっかりと構築するために、おそらくクロスオーバーは中域をできるだけ広めにとり、低域と高域との位相干渉を避けるような設計になっているような気がする。中域のヘッドルームに余裕を生ませるために用意したパーツが中域ドライバー2発の搭載であり、すべては、変なクセを持たせずボーカルや主な楽器帯域をごくごく自然にニュートラル・トーンで鳴らすことを目的とした設計が施されていると想像する。

音楽は数Hzから十数KHzまでつながった音の連続でできているわけだが、実質上音楽のメインどころを占める中域でその音楽の基本部分をしっかりと作りあげ、迫力の低域と煌びやかな高域は、ギリギリ適量分をその中域に付加すると理解すれば、CW-L31のサウンドが破たんしないパズルのような絶妙なバランスを持ち得ている秘訣が分かるような気がする。ギリギリのバランスながら決して暴走しない常に安定した再生環境を生み出すというのは、すなわち音楽を選ばないということを意味するわけで、汎用性が高く中庸ながら没個性にはならないCW-L31の適応能力の高さを裏付けるものでもあろう。

タイトさと切れの良さを持ち、曇りや寝ぼけた感じとは無縁のサウンドがCW-L31だ。シングル・ドライバーのCW-L01ほど直球なサウンドではないが、全ての帯域で当たり前のバランスがとれているというのは、実はなかなか貴重なことではあるまいか。低域も十分に鳴り、その上でボーカルも埋もれず、むしろ心地よく抜ける。そしてシンバルや上モノなど超高域も主張しながら耳障りな要素は全くない。

ちなみに蛇足ながら、名実ともに最も優れ有名なカスタムIEMのひとつ、UE 18 Proと比較するならば、18 Proは甘く滑らか。よくいえば深く妖艶で、悪く言えばこもっている。いや、これはUEの独特のトーンで、決して曇っているわけでもこもっているわけでもなく、上質な甘さが疲れない最高のリスニング環境を生み出すワンアンドオンリーの魅惑のエッセンスなのだけど。そのうえでレンジの広さは抜群で音の立体感はさすがのトップクラスだ。

一方CW-L31は、低域の量感など深さや艶めかしさには18 Proには及ばぬものの、切れの良いタイトさが音像の輪郭をはっきりと感じさせてくれる心地よさがある。おそらくCW-L31の方が原音に忠実で、プレーンな魅力にあふれているだろう。ちなみに、もっと引き締まったアスリート系サウンドにはRoothの8ドライバーモデルがあるが、やはりCW-L31は「バランスのとれた高品質オーディオを楽しむ」というごく当たり前のニーズに真正面から応えたアイテムであると捉えることができる。

シンプルに剛速球で勝負したシングルドライバーのCW-L01と、全帯域をもれなくギリギリまで出力する3ウェイ4ドライバーのCW-L31は、カナルワークス内においても設計思想上、両極に位置するのかもしれない。そういう意味では、もっともスタンダード&ベーシックに音楽をそつなく表現してくれるモデルは、ブランド立ち上げとともに世に打って出た2ウェイ3ドライバー(低域×2、高域×1)の第1号機CW-L11なのではないかという気もする。ぐるっと回って初心に戻るかのような話だが。

カナルワークスでは、送料だけ負担すれば、3モデルとも試聴機貸出のサービスを受けることができるので、是非一度CW-L01、CW-L11、CW-L31という3モデルを試聴してみてもらいたいところだ。試聴機は完成品とは音の聞こえ方が違い、それ自体のサウンドを評価するものではないが、完成品の音の傾向を推し量るには十分に参考になることだろう。

なお、カナルワークスの耳型採取提携店に四国の高松が新たに加わり、東京、大阪、福岡、高松、全8提携店がオフィシャルサイトにて紹介されている。まだまだカスタムIEM用途の耳型(インプレッション)を採取してくれる補聴器店は多くはないが、今後も順次提携店の拡大を図っていくとのこと。

▲付属品は、ペリカンケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス、ユニバーサル用アダプタ、袋、クリップなど。
一般的なイヤホンと比べると、耳型の採取から発注、完成・到着まで非常に時間と手間と、そして何よりコストがかかってしまうのがカスタムIEMの世界。だが、自分の耳にジャストフィットした最高のリスニング環境と最高の音質を手にする喜びと、到着までの待ち切れぬわくわく感は、閉塞感だらけの現代において、心を高揚させてくれる最高のエンターテイメント・アイテムでもある。未来が描けない現代社会であればこそ、今を楽しもうじゃないか。自分のためだけに存在する究極のオーディオ機器は、ささやかながら至高の幸せを味あわせてくれるから。

text by BARKS編集長 烏丸

●カナルワークス CW-L01
・Full range/Single driver Custom In-Ear Monitor
・5月7日発売 モニター販売価格:49,800円(標準仕様、税、耳型採取費用を含む)
・ドライバー:バランスドアーマチュア方式(フルレンジ×1)
・ケーブル長:115cm
・プラグ:ステレオミニプラグ
・付属品:ハードケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス

●カナルワークス CW-L11
・2way/3driver Custom In-Ear Monitor
・モニター販売価格:69,800円(標準仕様、税、耳型採取費用を含む)
・ドライバー:バランスドアーマチュア方式(低域×2、高域×1)
・ケーブル長:115cm
・プラグ:ステレオミニプラグ
・付属品:ハードケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス

●カナルワークス CW-L31
・3way/4driver Custom In-Ear Monitor
・5月7日発売 モニター販売価格:84,800円(標準仕様、税、耳型採取費用を含む)
・ドライバー:バランスドアーマチュア方式(低域×1、低・中域×2、高域×1)
・ケーブル長:115cm
・プラグ:ステレオミニプラグ
・付属品:ハードケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス

◆カナルワークス・オフィシャルサイト
◆フジヤエービック・サイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

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