一青窈「みんなが思ってるほど幸せではない気がするな…って」

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2009年8月、朝日新聞の全面広告で「さようなら 一青 窈」と題した散文詩と、「新歌謡(進化窈)」という新たな音楽の方向性を示すキーワードを発表した一青 窈。

新歌謡(進化窈)三部作の第一弾として10月7日にリリースされた「ユア メディスン~私があなたの薬になってあげる」では、シリアスでエロティックな毒気とアッパーな歌謡メロディとで、まさに「新歌謡(進化窈)」を体現してみせた。

第二弾シングル「うんと幸せ」のリリースに際し、新たなキーワードに辿り着いた経緯、そしていま心の中にある歌、音楽への想いを訊いた。 

   ◆   ◆    ◆
一青 窈【新歌謡(進化窈)三部作】
第二弾シングル「うんと幸せ」インタヴュー
[第1章]妬みや嫉みや、綺麗じゃない感情だって私の中にある
[第2章]もっと音楽が解りやすければいい
[最終章]みんなが思ってるほど幸せではない気がするな…って
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――歌謡曲というモノを知るために、いろいろと夜の街を探索されたんだとか。

一青窈:そうなんです。社会科見学の意味も込めて。ゲイバーとか、フィリピンパブとか、夜の盛り場に行くと、昔の歌謡曲が今もずっと歌い継がれているんですよ。逆に今のJ-POPはそんなに歌われていなくて。きっと、みんなが気持ちを共有できないってとこでもあると思うんですけど。だからそういう場所で「ハナミズキ」好きですって言ってもらえたことがすごく嬉しかったんです。それもあってなおさら包み込んでいないストレートな歌詞で、より気持ちを共有して欲しい、って思ったんです。例えば、頑張ろうよ、とか、元気出そうよ、っていうところではなく、どう頑張ると元気になれるのか? とか、どうしたら幸せになれるのか? っていうところを、もっと具体化していきたいなって思ったんですよね。幸せの形は人それぞれだし、幸せになるなり方も人それぞれだけど、もっと幸せになるために共感できる、何かを具体的に歌いたいなって。もっともっと具体的なことを書いていくことが、普遍的な音楽に繋がるんじゃないかなと。

――なるほど。そのあたりから、11月4日にリリースした「うんと幸せ」が作られていったところへと繋がっていくんですか?

一青窈:そうなんです。「うんと幸せ」を作っていた頃、本当にいろんなことがあって。実はすごく自分自身が落ち込んでいたんです。自分の歌が伝わってるっていう実感がなかったんです。それは、ダウンロード数とか、CDの売り上げ的なところじゃなくて、“本当に、ちゃんと心で聴いてくれてるのかな? 伝わっているのかな?”って、すごく考えたのもあって。人に伝わる歌を歌えていないのなら、歌う意味もないし、歌う意味がないのなら、生きてる意味もないのかも。っていうとこまで考えちゃったんです。でも、死んじゃいたいって思うのはどうしてだろう? とも考えたんです。自殺者が年々増えている今、どうしてみんな死んじゃいたいって思うんだろう……って。他人が幸せに見えるから自分が死んじゃいたいのかな? じゃぁ、幸せってなんだろう? って思いはじめて。私は友達から「歌手になれて幸せだよね」って言われたりもするし、みんなから見たら、幸せに見えるのかもしれないけど、みんなが思ってるほど幸せではない気がするな…って、また悩みだして。

――そんなときに、社会科見学を?

一青窈:はい。社会科見学を通して、セクシャル・マイノリティーの方々とお会いして。実際にそういう人たちと友達になって、生の声に触れて、もっともっと深いことに気づかされたんです。コミニュケーションって大切なんだなって思ったんですよね。人とコミニュケーションしていかなければ、クリエイティヴできないって思ったんです。それがあって、書けなくなっていた歌詞が、もう一度書けるようになったんです。それまでは、本当に自分の好きなものだけを受け入れて、後はまったくシャットアウトしていた状態だったので。それじゃダメだなって思ったんですよね。コミュニケーションを閉じると、すごく鬱のような状態になってしまうことに気づいたというか。友達にもずっと長いこと鬱で悩んでいる子がいるんですけど、私はこの子が死なないために、ずっと“死なないで”っていってあげようって思ったり。いろんなことが見えてきました。

――人とのコミュニケーションを断っても生きて行ける時代ではありますからね、今って。

一青窈:そうなんですよ。人とのコミュニケーションを断っていても、いろいろと繋がれるツールがあって、独りになりやすい世界になってしまっているし、何でも手に入るコンビニエントな世界ではあるけど、それって、実際にリアルじゃないというか、病気の状態であると思うんです。歌は、人と人の感情を繋ぐものであると思うから、それをちゃんとしっかり伝わるように歌うことが、私の役目だって思ったんです。

――なるほど。でも、知り合いの方が自ら命を断たれるということもあったりして……。

一青窈:はい…。なんで気づいてあげられなかったんだろう? って思ったんですよね。こんなに近くにいたのに、何故救えなかったんだろうって。それこそ先ほど言ったように、伝わっていないって思ったんです……。すごく無力さを感じたし……。そんなことを素直に書きましたね。

――「うんと幸せ」はご両親への最後の手紙でもあると聞いていますが。

一青窈:そうですね。結果的に最後の手紙になるかなと。書いてたときはそうは思っていなかったんですが、後からそうなるのかなって思ったんですよね。

――今、新たなる一歩を切り開けたと感じていますか?

一青窈:そうですね。いままでは歌うことと、歌詞だけに集中してきたんですが、ハモリに関しても、音に関しても、こうしていきたいっていう意欲がすごく出てきたんです。いままでは自分が作曲家じゃないから、そこには自信が持てなくて、お任せしていた部分も大きかったのですが、今作からは特に、自分の意見も積極的に言うようになって、音作りの楽しさも知った中で歌えている感じなんです。

――その変化って大きいですよね。

一青窈:そうですね。いままでは額縁の中にある絵に色をつけていっていた感覚だったんですが、今は描きたいものをどんどん描き足していけている感じになりましたね。

――「うんと幸せ」のカップリングの「ウラ・ハラ」は、まさにそんな感じが出てますね。Dメロとか、Aメロからは想像つかなかったですし。

一青窈:そうですね。山本リンダさん的なメロだったりしますよね、Dメロは(笑)。まさに。

――だけど、「name」はいままでの一青窈をすごく感じる。

一青窈:はい。歌詞の解りにくさとかもね(笑)。そこも私らしさと捉えて、なくしたくはないんですけど、今、私がやるべきことは、自分自身の気持ちが何に動かされているのか、ちゃんと知って、それをちゃんと伝え得ることなんじゃないかなって思うんです。それこそが、新歌謡、そして、自分自身が進化出来る【進化窈】であると私は思っているんです。言ってしまえばただのダジャレみたいな事ではありますけど(笑)そういうシャレをきかせるところも歌謡曲の面白さのひとつなのかな、と。

――最後に、一青窈さんにとって、幸せを感じる瞬間は?

一青窈:ちゃんと自分と向き合えて歌詞が書けたときや、歌が歌えたときはもちろんのこと、小さなことでは、美味しいラーメンを食べたときとかかな(笑)。あとは、すっごい面白いお笑い番組を見たときとかね(笑)。誰かの結婚式に出席したときとか。そんな些細なことだったりしますよね、幸せって。だけど、幸せになる為に生きるんじゃなくて、そんな些細な幸せを見つけていくことが生きるって事なんじゃないか、と思うんです。本当に何を幸せに感じるかって人それぞれだと思うんですけど、人としてみんなが共感できるような気持ちを、これから先も、ずっと歌っていけたらいいなと思ってます。

取材・文●武市尚子

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New Single
「うんと幸せ」
2009年11月4日発売
初回生産限定盤FLCF-4299 ¥1,200(tax in)
通常盤FLCF-4305 ¥1,200(tax in)

◆一青 窈オフィシャル・サイト
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