「百鬼夜行奇譚」第五夜:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[弐]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第五夜
【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~
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白いレースのカーテンと薔薇の花びらの隙間から暖かな日差しがこぼれる。
冷たい珈琲を注文して、改めてあたりを見回すと、テーブルというテーブル、壁という壁に濃い赤色をした薔薇の花が、所狭しと飾られているのが見て取れた。
呼吸すら危ういほどに、敷き詰められた真紅の花々の薫り…

「まるで、薔薇の墓場みたいだな」と誠が小さく呟いた。
“墓場”という言葉にギョッとする。けれど、それはまさしく和雄が思い出そうとしている情景を、的確に表していた。そうだ、“墓場”―。薔薇に囲まれたこの美しい眺めに、何故墓場を連想したのか。ひやりと、背中に冷たいものが走った。

「お待たせいたしました。」
先程の女主人が、品の良い盆に、カップを二つ乗せて静かに歩いてきた。
やけに静かに歩く女だなと思いながら、女の顔を見つめる。
美しい女だった。白い肌に赤くひいた紅があざやかで、特徴のある切れ長の目は、少し青みを帯びている。憂いを含んだような、その表情からは女の年齢は伺いしれない。三十も半ばの頃だろうか。だがしかし、俯くその横顔は少女のようにも見えるし、ともすれば老婆のようにも見えた。

「お一人でお店を?」
誠が声をかける。
「えぇ、そうですのよ。お友達のお店を譲り受けましたの。」
「そうなんですか。たくさんの薔薇がありますね。薔薇がお好きで?」
「はい、お庭にたくさん咲いておりますから、それを毎朝手折って来るんです。」

ではごゆっくり、と言いながら女は奥へと下がって行った。

「綺麗な女性じゃないか、なぁ君。」
小声で嬉しそうに笑う誠に曖昧な返事をしながら、薔薇の花を眺めた。

突然、恋とも、恐怖ともわからない激しい動悸が激しく胸を打つのを、和雄は感じていた。

「彼女、いくつなんだろうか。俺達よりいくらか年上のように見えるが、どうだい」
「どうだろうな」

ふわふわとした不思議な心持ちのまま、一気に珈琲を飲み干した。

そして帰り際。
和雄にだけ聞こえる声で、女が囁いた。

「この次はお一人でいらしてね。」

次回:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[参] 10月18日公開予定

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

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・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~

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