「百鬼夜行奇譚」第六夜:【旋律】~Je te veux~[四/最終話]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第六夜
【旋律】~Je te veux~
・[壱]
・[弐]
・[参]
・[四/最終話]

   ◆   ◆   ◆

ひやりと、全身の血液が凍りつくような感覚。

黒いピアノの上に、蠢く白い塊。
それが、一糸纏わぬ姿の彼女であることは、すぐにわかった。

奥まった仄暗い部屋の中、床に置かれた無数の蝋燭の灯りに照らされて、彼女が闇に浮かび上がる。ピアノの回りには何か護符のようなものが無数に吊り下げられ、闇の中でもはっきりと表情がわかるほどに唇を大きく釣り上げ、歌いながら女がピアノの上で踊っていた。女の白い肌は口から首のあたりまで、“何か”で黒く染まっていた。

色も香りもわからないが、それが何かの血であると、何故か確信的に思った。

激しい動悸とともに、めまいを覚えた、その時。
仰け反った彼女と、目があった。

そして―――。

「わかった! その女は魔女だったんだ! で、彼は魂を抜かれちゃったんでしょ!?」

酒も入り、少しばかり紅潮した顔で知仁が身を乗り出す。

「あら知仁さんったら」
「ねぇ、当たってるでしょ!? うわーでもその状況、普通にマジで怖ぇー! その後どうなったの!? てゆうか、それ実話なの?」
「どうかしらね…ただ、そのまま彼は逃げ帰って、二度とその店には行かなかったそうよ。彼はその後、たくさんの名曲を遺した作曲家になったと言われてるわ」

グラスを拭きながら静かに微笑む。

「へぇ~…あっ! ごめん、もうこんな時間だ! 帰らなきゃ。チェックお願い! 面白い話、ありがとうね!」

挨拶もそこそこに、慌てて走り去る後ろ姿を見ながら、つぶやく。

「彼は特別だったの。美しい旋律は特別なのよ。そう、私を飾るための……」

店の奥で、大量の薔薇がまるで震えているかのように、そっと揺らめいた。

― 完 ―

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

   ◆   ◆   ◆

Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~
・第五夜【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~

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◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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