「百鬼夜行奇譚」第七夜:【娼婦】マダムローザの娼館[壱]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第七夜
【娼婦】マダムローザの娼館
・[壱]
・[弐]

   ◆   ◆   ◆

時は十七世紀、華やぐフランス。とある街の外れにひっそりと佇む古びた館があった。
漆喰で塗り固められた白亜の壁には幾重にも濃い緑色の蔦が巻きつき、出窓には白いレースのカーテンが飾られている。庭には色とりどりの華が咲き誇り、赤く大きな薔薇の花が一際美しく、風に揺れている。夢売り女が集う城――ここは娼館。

夢売り女1:娼婦マリーの場合~Epicurian

「嗚呼! なんて夜なのかしら。生ぬるい風があたしを疼かせる。こんな夜はか細い男を膝付かせて、自慢の鞭を振るいたいものだわ。そして散々打った後に、嵐のようにあたしを抱かせるの。なんて素敵なのかしら。

嗚呼! 夜の帳が目隠しして、ありとあらゆる秘密が開放される時分だというのに、この閑古鳥! 今夜に限って誰だか知らない聖人の誕生日だなんて。忌々しいこと!

…そういえばお父様はお元気かしら? 刺激を求めて家を飛び出してからもう三年にもなるのね。会ったこともない子爵との婚約だなんて、真っ平御免だわ。安息? 安定? そんなものに興味はないわ。会ったこともない男と毎晩過ごすぐらいなら、毎晩違う汗の香りに溺れていたほうが素敵だもの!

嗚呼…それにしても。お父様はあたしが娼館にいるだなんて、思いもしないでしょうね。あの潔癖のお父様のことですもの、真実を知ったのなら、ブロンドの髪を振り乱して、青白い頬を真っ赤にしてお怒りになるかも知れないわ。…そういえば、昔お怪我で残ったというあの特徴的な背中の傷、まだ気にしていらっしゃるのかしら。不思議な傷跡だったわ。まるで鞭の跡のような…まさかお父様も? まさか、そんな、ね。あのおとなしいお父様に限ってそれは無いでしょう。……まぁ、真実は闇の中、かしらね。あら、マダムが呼んでいるようだわ。

嗚呼、ついにお客様がいらしたのね! 忌々しい退屈な時が無駄な想い出を呼び起こさせてしまったわ。

マダム、待って! 今夜は趣向を凝らしてお客様をおもてなししたいと思うのだけど、いいかしら。今夜はあたしのお部屋を真っ暗にしてくださいな。そして暗闇の中の逢瀬を楽しみましょうとお客様にお伝えしていただけます? そう、ありがとう。

嗚呼! なんて素敵! 暗闇の中での逢瀬! どんな殿方がいらっしゃるのかしら!? 顔も、体も、わからない。鞭の音と、男の喘ぎ、そして重なる熱だけが真実なのね…」。

暗闇の中、ときめきながら男を待つマリー。闇の中部屋へと忍び入る男。
互いの姿は闇にまぎれ、やがて始まる暗闇の逢瀬。
男のブロンドも、青白い頬も、背中の不思議な傷跡も、夜の帳に隠されて。

……真実は闇の中。

次回:【娼婦】マダムローザの娼館[弐] 12月13日(月)公開予定

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~
・第五夜【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~
・第六夜【旋律】~Je te veux~

Kaya
New Single ※1000枚限定
「マダムローザの娼館」2010年12月22日発売
TK-09 ¥1050(tax in)
1. Madame Rosa
2. Madame Rosa -Kayaless ver.-
3. Madame Rosa -Remix-

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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