【連載】山岸賢介(ウラニーノ)[vol.4]「ツアーメン~バイトのシフトに入れない~」

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前回のコラム更新後、同じくBARKSでコラムを執筆している友達のアーティストから、「山岸くんのを読んだら真面目に書いている自分がバカバカしく思えてきた」という感想をいただきました。

さて、長年バンドをやってると、知り合いはどんどん増えていきます。一度でも共演したことのあるバンドとなると、何百という数になるでしょう。しかし人間の記憶力には限界があります。時々、あちらは覚えているけどこちらは誰だかわからないという、非常に気まずい再会というものがあります。そこで今回のテーマはこちら。

「バンドマンに学ぶ、『あなた誰?』時の対処法」

ライブ後の楽屋、もしくは大人数の打ち上げ会場。突然「お久しぶりですー!」と寄ってくる一人のバンドマンふうの男。「あ、あんた誰?」。そう思っても表情に「?」を出してはいけません。まずは言いましょう。

「おー!お久しぶりですー!」

そう言って笑顔で握手のひとつでもしながら時間稼ぎをし、脳内で必死に記憶を辿りましょう。ここで空気の読める相手なら、気を使って名乗ってくれます。そういう場合は、大抵こっちが誰だかわかってないことがバレてます。ですから素直に認めましょう。ここでの模範解答は、

「おー!わかんなかった!なんか雰囲気変わりましたよね!髪切りました?…痩せた?」

これで、実際に相手が髪切ってたり痩せたりしてればもうけもの。問題は、相手が名乗らない場合。むしろ、わかってて当然のように接してくる場合。これは非常に神経を使う接近戦が展開されます。

まずは相手と自分との上下関係を即座に把握します。ファーストコンタクトでの馴れ馴れしさ、敬語であるか否かが判断材料になります。明らかな後輩でない限り、敬語にしておいた方が無難でしょう。そして極力自然に情報を引き出し、今自分が話している相手が何者なのかを特定していきます。有効な会話の糸口をいくつか紹介。

「久しぶりですねー。いつぶりでしたっけ?」

これはさりげなくぶっ込める、かなり有効なクエッションです。相手が「確か…○○ぶりですね!」と言ってくれれば、大きなヒントになります。いつどこでという情報は、記憶を呼び起こすには最も有効な情報です。それでも…思い出せない。そんな時はこれ。

「皆さん、お元気にしてます?」

焦ることはありません。外堀から埋めていきましょう。ここで相手がメンバーや関係者の名前を出したりした場合、それもバンド特定の大きな手がかりになるわけです。…まだ思い出せない?では作戦変更。何よりも情報を引き出すことが重要です。とりあえずこれ言っときましょう!

「どうっすか?最近」

…非常に雑に感じるかもしれませんが、これほど幅広くざっくりで有効な質問はありません。テキトーなことを振って相手に話させましょう。ここまで来ると当然相手は自分が誰か認識されているものと確信してますから、こちらの心中を悟られないように十分気をつけてください。あくまで顔では再会を喜んで、脳内では記憶を掘り起こしまくってください。それでも相手が近況語り始めれば、記憶と結びつくのではないでしょうか。えっ!?まだ思い出せない?そりゃまずい。では…とっておきの裏ワザを伝授しましょう。こう聞いてください。

「次のライブいつですか?」

これで日時と会場を聞き出したところで、急にもよおした振りをしてください。「ごめんなさい、ちょっとトイレ…!」。そのままトイレの個室に駆け込む!すかさず携帯を取り出し、そのライブハウスをググる!スケジュールのページに飛んでその日の出演バンドを確認する!これが一番確かです。その日が4~5バンド出演だとしても、さすがにバンド名見れば思い出すでしょう。運がよければ写真も出てるかもしれない。ほら、わかった!あー!あいつだ!脳科学で言うところのアハ体験ってやつです。すっきりした!…え?バンド名見ても記憶にない。どのバンドかわからない。…そんな時は前々回のコラム「打ち上げでの上手な消え方」を参照して、そのまま逃走してください。

▲ピストン脱退ライブ終演後、続々と楽屋を訪れるバンドマンたち!…も、もちろん全員誰だかわかりますよ!
最後に体験談を一つ証言します。以前ツアー中、某地方ライブハウスでリハーサルを終えたところで、バンドマンふうの男性が一人、「どうもー!ウラニーノさん!お久しぶりですー!」とライブハウスに入ってきました。え、どなた?…しかし焦らず、上記のマニュアルに従って応対。「かなり久しぶりに会うバンドマン」「六本木で会って以来」「年齢は同世代」「キャンペーンで来ている」というところまで確定しましたが、思い出せません。

しかし、このとき話していたのはぼくだけでなく、メンバーのピストン大橋も一緒。彼は満面の笑みで会話も弾んでいる。どうやら誰だかわかっているようだ。よし、ここはボロを出さないようにして切り抜けて、後で誰だったのかピストンに聞こう。そう思って歓談すること15分。「ぜひまた東京で!」という一言を残しバンドマンAは爽やかに帰って行きました。するとピストンが急にこちらを見るなり、

「…今の誰?」

えーっ!?お前もわかってなかったの!?結局2人とも誰だか思い出せないまま15分も歓談し、そして誰だかわからずじまい!そんなことってあるでしょうか?ああ、誰ダッタンダロウ、あの人。ごめんなさい。

さて、今回は皆様にお知らせが。上記エピソードでも登場しておりましたウラニーノのメンバーピストン大橋(33)がこの度脱退となりました。この脱退情報は発表の瞬間まで国家機密ばりの極秘情報として扱われていたはずが、BARKSニュースのあまりの速報っぷりに、「情報漏洩」の疑惑が上がっています。もしくはBARKSさん、脱退を予想してたか!

脱退が決まった後、かなりの励ましのメッセージがピストンのところへいってるみたいですが、残念ながら彼は自他共に認めるドMです。はなむけの言葉はいりません。罵声を浴びながら去っていくのが快感なはず。どうぞ罵倒してください。この、ポンコツ野郎!!

◆【連載】山岸賢介(ウラニーノ)「ツアーメン~バイトのシフトに入れない~」まとめページ
◆ウラニーノ・オフィシャルサイト
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