【ライブレポート】高橋優、<YOU CAN BREAK THE SILENCE IN BUDOKAN>が呈した信頼する9000人の大集会

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高橋優が11月24日、初の日本武道館ライブ<YOU CAN BREAK THE SILENCE IN BUDOKAN>を開催した。その心震わせるステージの模様は速報レポートでお伝えしたとおりだが、ここで改めて、ライブの詳細に迫るレポートをお届けしたい。約3時間、全22曲、全9000人が沈黙をぶっ壊したステージは、あまりにも強くやさしい、高橋優そのものだった。

◆高橋優 拡大画像

初めての武道館公演の第一声は“面倒臭ぇ!”だった。まったく高橋優らしい不意打ちのような歌い出しに思わず笑いそうになったが、すかさず9000人の大観衆が“面倒臭ぇ!”と大合唱したのは本当に驚いた。この曲「ボーリング」を含むアルバム『僕らの平成ロックンロール②』は “ただ思うことを、ただ歌うだけ”というきわめて個人的すぎる歌を歌うことで、CMソングやタイアップ中心のメジャーレーベル的活動とは一線を画し、聴き手と直のつながりを持ちたいという彼の思いを強く反映した作品だったが、1年たってそれが武道館いっぱいの人に届いたことが実証されたわけだ。黒ジーンズに白Tシャツ、チェックの長袖シャツを無造作に着た高橋優は、おそらくデビュー当時と同じ、いや10年前に路上で歌っていた時と同じように普段着のままだろう。“僕はただの普通の男で、歌うのが好きなだけ”というのは彼がよく口にするセリフだが、これほど格好をつけずに初武道館のステージに立った男は珍しいと、長年いろんなアーティストを見てきた上で本当にそう思う。

「これはライブじゃない。集会です。心の中にあるものを解き放つ集会、いや、大集会です。一緒に大声張り上げようぜ、武道館!」

最初の3曲はシリアスな曲調が続くせいか笑顔を見せずに激しく歌いきり、MCをはさんだあとは一転して明るい笑顔を見せながら明るい歌が続く。バンマスの浅田信一率いるバックバンドはよくまとまっていて、ラウドな曲でもアコギとピアノの叙情的な音色を大切にした歌心ある演奏をしている。高橋優は曲ごとにギターを持ち替え、軽快なロックナンバー「蝉」ではエレキを、ミッドテンポの壮大な「ほんとのきもち」ではアコギを弾き、熱のこもったすさまじい歌を歌う。今さらながら本当に声がデカく、強く、巧く、言葉が一つ一つ染み通り、ボーカリストとしての説得力がズバ抜けている。

メンバー紹介は盛り上がりすぎて脱線しまくり、“こんなの武道館で話すことじゃないだろ!”と一人ツッコミを入れながら笑わせる達者なトークも彼の持ち味。7曲で1時間以上かかったのでどうなることかと思ったが、後半は歌中心でテンポよくスピードアップ。“ボツ曲”としてファンに知られる「テレビを見ながら」を超高速パンクバージョンで披露したあと、“久しぶりにやる曲を”と言って「サンドイッチ」など心和むタイプの曲を続けて歌う。中でも若く純真な恋心を歌った物語ふうの「8月6日」が、バンドの巧みな演奏力のおかげもあって出色の出来映えだった。

そして中盤のハイライト、いや今日全体のハイライトと言っていい「CANDY」「少年であれ」の2曲。自らのいじめられた体験を赤裸々に歌った「CANDY」はCDでは聴くのが辛い曲だったが、生で聴くとその辛さがせつなさに変わり、決してネガティヴな曲には聴こえなくなるのが不思議だ。この曲を歌う前の、“本当の強さとは、人に優しくできることじゃないか”というMCも素直に胸に沁みた。「少年であれ」は“対・大人”“対・社会”という大テーマの中で、自分らしく生きることを模索する少年少女への真摯なメッセージソングだが、“僕は君の味方だよ”という思いをこめて歌う声には強い熱量があり、成長期の少年少女の心を真っ直ぐに射抜く力がある。それは少年からずいぶん遠く離れてしまった大人の心をもドキドキさせる、とても大きな強い力だ。

「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」」のとんでもなくラウドな演奏を皮切りに、後半はアグレッシブでアッパーな曲をぐいぐいと畳み掛ける。観客とコール&レスポンスを繰り返す「泣ぐ子はいねが」、エロチックな照明と映像を使った「頭ん中そればっかり」、5色のテープが宙を舞った「現実という名の怪物と戦う者たち」と、大会場ならではの演出も華やかで楽しく、バンドのノリと観客全員の一体感が相乗効果を生み、幸福な空気が武道館の広い空間を熱く満たしてゆく。ラスト曲「同じ空の下」を歌う前のMCを聞くと、やはりステージの上でも同じことを感じていたようだ。

「みなさんの歌声を聴きながら、僕とみなさんがつながっていることを何度も実感させていただきました。本当にありがとうございます!」

そしてアンコール。この日が初披露だという新曲「旅人」は来年2月公開予定の映画『東京難民』の主題歌で、哀感豊かなメロディ、人が生きてゆくことの重みと喜びを描く歌詞、ミッドテンポのロックバラード的サウンドでじっくり聴かせるタイプの曲。さらに「友へ」、そして「福笑い」では会場内の明かりがすべてつけられる中、今日何度目かの9000人の大合唱が武道館いっぱいにこだまする素晴らしい光景を見ることができた。

これで終わり? いや、まだ歌うべき曲があり、聴きたい曲がある。鳴り止まない拍手に応えて三たびステージに戻ってきた高橋優は、“武道館は通過点。でも絶対に原点を忘れないという意味で、この歌を歌わせてください”と言って、アコギ1本でインディーズ時代からの代表曲「駱駝」を歌ってくれた。“この街を全部ぶっ壊そうぜ”というフレーズが、『BREAK MY SILENCE』の“沈黙をぶっ壊せ”というテーマにつながっていることは、今さら言うまでもない。高橋優は、最初から高橋優だったのだ。

“ただ思うことを、ただ歌うだけ”のリアルタイム・シンガーソングライターを仲間として、味方として信頼する9000人の大集会。それは確かに高橋優が集めた大観衆なのだが、ある意味で彼らが高橋優をここに呼んだのだと言いたくなるほど、観客がステージに寄せる親近感は圧倒的だった。もしも、たとえ5万人収容の会場でも、この親近感は変わらないだろう。“武道感は通過点”と言いきった高橋優の歩む先に何があるのか、これからもファンの中に混じって見ていたいと強く思う。

取材・文◎宮本英夫

<YOU CAN BREAK THE SILENCE IN BUDOKAN>
11月24日(日)@日本武道館セットリスト
1.ボーリング
2.陽はまたのぼる
3.こどものうた
4.HITO-TO-HITO
5.花のように
6.蝉
7.ほんとのきもち
8.テレビを見ながら
9.サンドイッチ
10.靴紐
11.8月6日
12.CANDY
13.少年であれ
14.(Where's)THE SILENT MAJORITY?
15.泣ぐ子はいねが
16.頭ん中そればっかり
17.現実という名の怪物と戦う者たち
18.素晴らしき日常
19.同じ空の下
encore
1.旅人
2.友へ
3.福笑い
encore 2
1.駱駝

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