【インタビュー】ボカロPのn-buna「VOCALOIDには自分の作品を世に出すための手助けをしてもらってる」 Vol.4

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■よく使うのはSonitusのディレイ、EQ
■見た目よりも効きを重視


n-buna:エフェクトで自分がよく使っているのはSonitusのディレイ(SONAR内蔵のSonitus:fx Delay)。見た目はしょぼいんですけど、ちゃんと効くから使いやすい。あとSonitusのゲート(SONAR内蔵のSonitus:fx Gate)とか。シンバルとかに使ってます。Cakewalkの標準のやつって見た目が初期のDTMソフトみたいで……。でも、Sonitusはいいと思います。イコライザー(EQ)も使いやすいですね。

──EQとかは悩ましいですよね。グラフィックより変わっていないこともあって。

n-buna:EQってたくさんいろんなところに刺すのにグラフィックとかにパワーを使って動作が重くなると本末転倒だなって思って。軽さが重要なはずなのに。

──SonitusのEQは使います?

n-buna:使いますね。Qがちゃんと効くというか。広げたかったら広がるし。よくやるのはスネアの倍音成分が集まってるところを切って、他のオケとぶつからないようにしたり。そういう音作りをやる時にすごいいいんですよね。Qが鋭く尖る。WavesのQ10とかもちゃんと尖るんですけど、たくさん刺すと重くなるので。SonitusのEQはそれが気にならないですね。グラフィックがシンプルだからこそ動きが軽く感じるんで。


▲SONARの初期から搭載されているSonitus:fx。左からディレイ、ゲート、イコライザー。

■VOCALOIDの声はわざとノイズを入れたり
■かなり研究しています


──ボカロ曲でのリップノイズっぽい表現が気に入りました。すごくうまく入ってる。あれもエフェクトですか?

n-buna:あれはVOCALOID Editorの方でできるんですよね。わざとそういうノイズを入れたりして。けっこうやってますね。

──VOCALOID Editorで一番キモになるというか、自分ならではだなと思うパラメーターってありますか?

n-buna:息を抜く記号があるんですよ。隠しコマンドみたいなので。語尾に「h」っていう記号だけを入れたノートを作成すると、「あー(はっ)」っていう風に息が抜けるような音になるんですよ。結構あまり知らない人が多いんですけど。そのへんのパラメーターは大事だと思います。ただ抜けるだけじゃなく、その前後の音の感じも変わるんですよね。声の出し方っていうか。だからそこらへんを知っていると調声も変わると思います。

──n-bunaさんのボカロの声や表情は他のボカロPの楽曲ではあまり聴かれないものが多いです。そのへんはかなり研究したんですか。

n-buna:いろいろやって気づいたこととかを取り込んだり、研究していますね。やるからにはただ歌わせるだけじゃなくて、とことん作品としてのクオリティを上げなきゃっていうのはあるので、常に考えています。

──ギターの練習とは感覚が違うものですよね? 勉強っていう感じですか?

n-buna:そうですね。作っていて……。これは作らないと気がつかないので、作って気づいたことを生かしていく感じでやっています。

■CDと配信用では
■曲自体を作り直します


──CDというカタチで音を作るのと、配信用でミックスを変えたりしますか?

n-buna:変えてますね。むしろ曲自体作り直しますね。一番よくわかるのが同人で出した前のアルバム(『カーテンコールが止む前に 』2014年4月26日発売)の「アイラ」って曲があって……。同人で出したアルバムの後、動画を作るにあたって一から全部作り直して、ミックスもやり直してボーカルも変えて、っていう風に。やっぱアルバムを買ってくれた人も楽しめて、(動画で)新しく聴いた人も楽しめることをしたかったので。そこでいろいろ……。あと、自分の最新の実力を見てもらいたいというか。そこでいろいろがんばりましたね。「アイラ」が最近では一番がんばった記憶があります。ミックスとかも。音作りもよくできましたし。

──CDのミックスってたぶんもうノウハウが蓄積されてると思うんですけど……。配信のミックスはどうなんでしょうか? 若い人がスマホで聴くとか、イヤホンとかいろいろあったりしますが。

n-buna:YouTubeやニコニコ動画とかネットに上げる時って、容量の制限があるんですよね。それ以上になると音質とか画質が劣化したり、ノートパソコンとかでは重くて見るに堪えないとか。だから制限に合うようにある程度想定してやるってのはありますね。どのくらい音質が変わるのかってのを研究して、耳で聴いて……。たいていシンバルとかハイハットがイヤな感じになるので、そこらへんを事前に削っておいたり、下げておいたり、音質が落ちても違和感を感じないようにしたり……。

──なるほど。

n-buna:最近って動画サイトでもiPhoneのスピーカーで聴くことも多いと思うんです。自分も道を歩きながら、(アップされた曲を)聴いて音をチェックしています。それでこういう環境になる時に一番大事なのが、モノラルじゃないですか。モノラルにした時に音がどれだけ汚れないかを考えています。やっぱシンバルとかを(左右に)広げると、「あれっ、ハイハットとかぶって汚れて聴こえるぞ」とかってあるんですよね。あと、マスタリングの時に音圧上げすぎて、今まで左右広がっててわからなかった音達が集うことによって歪んで聴こえるみたいなことがよくあって……。最近はわりとキレイな音にできるかな、と思います。完璧にできたなと思うようになったのが、「ウミユリ海底譚」とかそのへん。完璧って言ったら最近のもあれなんですけど。

──進化してる……(笑)。

n-buna:そうですね。ほんと「アイラ」とかその時期の曲がちゃんと聴いても大丈夫だなって思えるようになったところですね。

──昔はAMラジオ放送用にモノラルミックスを別に作るということがありました。そうするとステレオでミックスしたシンセが聞こえなくなるということもありました。

n-buna:僕がよくやるのが、マスターを書き出して、モノラル/ステレオを切り替えて、オケ全体の音を聴くんです。で、大きい音だとわかんないから小さい音からだんだん上げていって、その過程で小さい音の方が歪みとかわかりやすいからそれで判断したりもしてます。あとは、実際にエンコードして動画になった後の音を入れ込んで(SONARのトラックに読み込んで)音を聴いたり、ってのをやってます。配信はそのへん難しいですよね。これからどんどんそういうことをしなくてもいい音で聴けるようになったらいいんですけどね(笑)。

──ミックスが楽になる(笑)。

n-buna:あと配信って言ったら、YouTubeにラウドネス規格が応用されて、曲とか動画とかの音量が揃えられるみたいな話があって。RMS値を-8とかまでがんばって持っていっても、結局、他の曲と同じようなレベルまでトータルが揃えられて、けっこう無理してレベルをあげる必要がなくなっちゃったんですよ。ぜんぜん話題にならなかったんですけど、曲を作る側とか配信する側としたらけっこう大きなことだな、と思って。だから最近無理に音圧上げないようにしてるんですけどね、YouTubeのために。そのへんは難しいですね。

■VOCALOIDには自分の作品を出すための
■手助けをしてもらってる感覚


──n-bunaさんは活動にあたって素性を明らかにしていませんよね。音楽を聴くメディアの中心がラジオだった時代は、顔が見えなくても音楽が評価されていました。現代でもそれと同じというところがおもしろいと思ったのですが。

n-buna:ネットにいっさい個人情報を出さないのは友達にばれたくないからなんですけど(笑)。ネットやってる人ってたいて個人情報出さないですけど、そういう感じだからこそ作品に没頭できるというか、作品だけの世界にファンも浸れるじゃないですか。わりとそういうのはプラスだな、と思いますね。あと、VOCALOIDって物語があることが多いので。作品の中に動画といっしょになって。だから、作者の個人情報を完全に排除した作品だけの世界みたいな、そういうのが感じられるところもいいところだな、と思います。僕はバンドとかアーティストとかって、CDは買うんですけど雑誌とかで見る機会がないとまったく自分で調べようとしなくて。アーティストの情報とかって。ほんとに音だけ聴いて、音とか動画だけ見て作品の世界観を楽しむ、みたいなことをよくしてるので、それと近い感覚があるんじゃないかなと思います。

──ご自身が作っている曲で想定しているボーカルっていうのはありますか? ソロのボーカリストなのか、バンドのボーカルなのか、アイドルなのか?

n-buna:うーん(考え込む)。僕、なんで曲作ってるかっていうところから始まると、やっぱ自分の作品を出したいからであって。その手助けをしてもらってる感覚なんですよね。作品として作ってる中でVOCALOIDがあって、それに歌ってもらって作品ができてるので……。自分の作品を世に出すための手法みたいな……。

──じゃあ、これから素晴らしいボーカリストが見つかったら、もうボカロ曲は作らないっていう可能性も?

n-buna:うーん、いや。僕はVOCALOIDっていう文化を、作ってるうちにすごい好きになって。すごい楽しいですし。

──本物のボーカリストとは……。

n-buna:別モノだと思います。

──なるほど。ぜんぜん別のもんなんですね。ボーカリストがいないから代わりに歌わせてるだけだったら、こんなに流行るわけないですもんね。

n-buna:はい。やっぱ文化ありきのソフトだと思うんで。文化だったり、作ってる人だったり……、そういうのもいっしょに楽しめる……から、ここまでなんというか……いろんなところで発展したんだと思いますね。

『花と水飴、最終電車』

2015年7月22日発売
初回生産分限定スリーブ仕様 DGUR-10005 ¥2,000+税
【収録曲】
01 もうじき夏が終わるから
02 無人駅
03 始発とカフカ
 ウミユリ海底譚
04 昼青
05 拝啓、夏に溺れる
06 ヒグレギ
 透明エレジー
07 夜祭前に
08 メリュー
09 着火、カウントダウン
 敬具
10 ずっと空を見ていた
11 夜明けと蛍
 花と水飴、最終電車


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