【インタビュー】アナログレコードはクール「なんでCDで音楽聴くの?」

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RECORD STORE DAYは「アナログレコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する、年に1度の祭典」として毎年4月第3土曜日に開催されているレコードの祭典だ。世界21ヵ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明しており、限定レコードの発売やライブ、様々なイベントが全世界で同時多発的に行われている。もちろんここ日本でも4月16日は全国のレコードショップは大変な賑わいを見せていた。

とはいえ、アナログレコードのファンに限らず、音楽好きならば誰もが大いに楽しむことができる日であることはあまり知られていない。レコードプレーヤーを持っていなくとも、音楽の魅力とその感動を肌で感じ、好きなアーティストのレアアイテムを手にしてほくそ笑む…、そんな喜びを提案してくれる場でもあるのだ。

今回、RECORD STORE DAY JAPAN事務局であるNPO法人ミュージックソムリエ協会理事長の吉川さやか氏にアプローチ、RECORD STORE DAYとは何なのか?その存在意義と魅力の数々を訊いてみた。


──そもそもRECORD STORE DAYとは、どういうものなのですか?

吉川さやか:RECORD STORE DAYは、2008年に「レコードショップに出向き、レコードや音楽の楽しさを共有する祭典」としてアメリカで生まれました。インターネットの普及に伴いCDが売れなくなり、タワーレコードやHMVといった大型CD店舗も閉店し、大型ディスカウントストアの台頭などで街中からレコード店が消えて行く中で、街のレコード店が手を携え「年に1回、街のレコード店に行こう」と提唱したんですね。それに賛同したメタリカが、ラスプーチン・ミュージック(サンフランシスコにあるレコードショップ)でキックオフイベントを行ったことが勢いをつけました。ポール・マッカートニーなどの呼びかけで著名アーティストが参加し、未発表の曲などを限定リリースしたりして一気に広がっていきました。

──既に、アナログレコードのブーム再燃が始まっていたということですか?

吉川さやか:そうですね。日本と違ってアメリカではCDが日本よりも売れなくなったんですが、アナログレコードには根強いファンがいて、一部のアメリカの若い人たちの間では「アナログレコードはクールだ」という受け取り方をされていたりもしているんです。そういった若者の支持も要因のひとつかなと思います。

──アーティスト自身もRECORD STORE DAYに積極的に参加しましたよね。

吉川さやか:アメリカでは、ほとんどのアーティストが何らかの参加/関わりを持ってくれましたから、あらゆる世代に情報が伝わり、アナログレコードを知らない世代には「新しいもの」として捉えられたという側面があるんです。

──ジャック・ホワイトは、RECORD STORE DAY当日にレコーディングし、プレスから販売までをその日のうちに行う“世界最速レコード・リリース”を2014年に行って、大きな話題になりましたね。

吉川さやか:そうですね。ほんとにいろんなアーティストが工夫してRECORD STORE DAY当日を盛り上げようとしています。

──日本でのRECORD STORE DAYは、2011年から始まったんですよね?


▲吉川さやか(RECORD STORE DAY JAPAN事務局 NPO法人ミュージックソムリエ協会理事長)

吉川さやか:実はその前から、アメリカの動きに呼応して独自にRECORD STORE DAYを展開していたレコードショップは個々にあったんです。それらをまとめていた個人の方もいたのですが、なかなか大変だという事で依頼を受け、正式にミュージックソムリエ協会が日本事務局として2011年にスタートさせました。

──最初はいろいろ大変だったでしょうね。

吉川さやか:日本でRECORD STORE DAYを定着させるには、日本のアーティストに参加してもらうのが大命題だと思っていました。

──初年度の2011年から2016年現在まで、日本での参加アーティストは年を追うごとに倍増していますね。

吉川さやか:2011年は東日本大震災の直後でしたから何もできませんでした。そんな中でも米RECORD STORE DAY事務局を通じて、RECORD STORE DAYで発売する限定7インチシングルの売り上げ全額を東日本大震災義援金として寄付していただきました。それが2011年の取り組みでした。2012年は、ようやく4アーティスト…鈴木祥子、ムーンライダース、キノコホテル、カーネーションでスタートしまして、2013年には14アーティストに増え、2014年で48アーティスト、2015年には75アーティストが参加してくれました。

──素晴らしい。

吉川さやか:若いアーティストたちから「アナログレコードを出したかった」という声もよく聞きます。RECORD STORE DAYに参加することをきっかけとして初めてアナログレコードを出すという若いアーティストもいます。RECORD STORE DAYがきっかけとなってアナログレコードを目にしてもらう機会が増えると喜んでくださったり。ザ・クロマニヨンズもずっとアナログレコードを出し続けていますよね。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTもTHE BAWDIESも…。アナログレコードの音質に魅力を感じているバンドは常日頃からリリースしていて、RECORD STORE DAYだからってわけではないんですけどね(笑)。


──日本のオーディエンスの反応はいかがですか?

吉川さやか:若い方の反応もおもしろいです。アナログとハイレゾの聴き比べをしてどっちが好みかを来場者に聞くと、99%がアナログレコードと答えるんです。若い方は、今までヘッドホンでしか音楽を聴いた事がないから、ステレオでこんなにおっきな良い音で聴いてビックリして感動したって、涙を流さんばかりなんですね。タワーレコード渋谷店の地下1Fでトークイベントをやった時は、お客様が買ったレコードをその場でかけたんですけど、ターンテーブル上の回る盤面をずーっと凝視しているんです(笑)。

──目が回りそう。

吉川さやか:初めて見たんでしょうね。あと、針を端ではなくいきなり真ん中に下ろす人もいたりして。

──1曲目が一番端ということも知らないわけですから。

吉川さやか:そう。で、教えてあげると「えー!おもしろーい!」って。

──プレーヤーを持ってなくてもレコードを買っちゃう人もいますよね。

吉川さやか:そうなんです。グッズ的な要素も強いのかもしれません。自分の好きなアーティストのレコードは欲しいですよね。ここ数年で安価なレコードプレーヤーが販売されたりしていますから、若い人たちにとってアナログレコードは「新しいメディア」として捉えられているのかもしれません。

──面白いですね。

吉川さやか:「CDは触ったことないけど、配信とアナログレコードは利用している」という10代もいるみたいです。

──それは凄い。

吉川さやか:そういう若い人たちの中には「アナログレコードの方が音がいいじゃん、なんでCDで音楽聴くの?」ってなる人もいるみたいですよ。

──RECORD STORE DAYへの参加店舗も増加傾向にありますか?

吉川さやか:最初は80店舗くらいから始めたんですが、それに比べるとずいぶん増えました。アナログレコードを扱う店舗自体が限られていますから、少しずつですね。

──レコード店以外の参加もあるんですか?

吉川さやか:基本はレコードショップですが、今年はサポーターズショップという形でカフェやライブハウスさんなどにも参加していただきました。毎年本当にいろいろな事が起こるので、試してみて調整したりしながらやっている感じですね。前例がないことですし、世界と違って日本のショップ事情も全然違いますから。アメリカでは潰れてしまったタワーレコードやHMVといった大型店が日本では依然としてしっかりありますし、CDの売り上げがまだ健在ですよね。日本音楽市場におけるCDの占める割合が世界一なので、やはり他国とは状況が違います。


──海外とは温度差もあるんでしょうか。

吉川さやか:海外のRECORD STORE DAYは、まさしくお祭り気分のイベントなんですが、日本ではどうしてもビジネスとしての側面が先に立つところがあります。「RECORD STORE DAY限定レコードでリクープできるのか?」…みたいな。

──もっとお祭り気分でできればいいですね。

吉川さやか:そうなんです。ただ、アナログレコードの本来の魅力が再発見されはじめていますから、きっと来年あたりにはメジャーレーベルもどんどんレコードを出してこられるんじゃないでしょうか。アナログへの回帰という機運もありますし、メタリカなどはカセットテープをリリースしてそれが大人気ですから。

──タワレコ渋谷店では、RECORD STORE DAY限定商品の横でカセットテープも販売していました。

吉川さやか:HMV record shop SHIBUYAも、2階の奥にあったカセットが今は1階に下ろされていますよ。「これ売れるんですか?」って聞いたら、若い方が買って行くと言っていました。

──今年のRECORD STORE DAYは、日清カップヌードルとコラボレーションを行ないましたね。

吉川さやか:ありがたかったです。お客様にもとっても喜んでいただきました。コラボグッズはあっという間に無くなってしまったけど。

──カップヌードルとコラボした理由はなんだったんですか?

吉川さやか:もともと異業種と組んで何かやりたいと思っていたんです。音楽って生活の中で存在してるものじゃないですか。食事中にだって音楽はあるし、そういう意味で今回のコラボは自然でした。カップヌードルが45周年ということでシングルレコードの回転数とも一致していましたし、カップヌードルの上蓋ってまるでレコードの盤面ラベルみたいでしょ?そういうパッケージの見た目といった面白さもありますし、そもそも常に面白いことをやろうという日清食品の姿勢にも共通すると思いました。


──音楽ファンにとっても、RECORD STORE DAYの異業種コラボが毎年話題になれば楽しみのひとつになりますね。

吉川さやか:音楽って毎日触れている人もいれば、そうでない人もいると思うんです。大人になるにつれて、音楽から遠く離れてしまう人も少なくない。でも本当は音楽ってずっと付き合っていけるもので、時に人生の宝物になるものですから、RECORD STORE DAYが生活に密着する企業とコラボすることによって、「カップヌードルがこんなコラボしてるんだ、それじゃあちょっと久しぶりにレコードショップに行ってみようかな」といった行動につながるきっかけになるといいなと思っています。

──忙しい社会人にこそ、きっと音楽が必要ですから。

吉川さやか:よく「音楽を卒業した」みたいなことを聞くじゃないですか。友達同士の間でも「まだライブハウス行ってんの?」みたいな。30代の音楽好きな人たちの中には、自分たちを”音楽難民”だって言う人もいるんですよ。職場に音楽好きな人が誰もいないから分かり合える人がいない、と。

──それは嫌だなあ。

吉川さやか:でも実は、若い頃に好きだった音楽って、本当にちゃんと聴いていたのか怪しかったりもするんですね。気分で聴いていただけなので、そのアルバムにどんな曲が入っていたか記憶に無かったり。大人になってからちゃんと聴き直すと、若い頃には気がつかなかった曲の魅力に気付いたり、自分の音楽ルーツを深める機会や新しい出逢いに繋がることもあるんですよね。

──わかります。若い時はひどい音で聴いていましたし(笑)。

吉川さやか:だからアナログレコードには、大人ならではの楽しみ方もあるんだろうなと思います。綺麗事に聞こえますけど、本当に音楽は心の豊かさや人生の豊かさを提供できる重要な要素だと思うんです。

──RECORD STORE DAYが届けたいメッセージのひとつですね。

吉川さやか:新しい音楽だけではなくて、昔にリリースされた音楽のリイシュー盤を出しているところもあるので、そういう音楽にも触れてみるといいですよね。

──そもそもアナログレコードって手間がかかりますよね。音楽を聴くまでのお作法が面倒くさい。でもアーティストが魂を輝かせて手間暇かけてつくった音楽ですから、聴く側の我々も相応の態勢を以って真正面から真剣に聴いてもいい。レコードプレーヤーってそんなツールでもあると思います。


吉川さやか:おっしゃる通りだと思います。めんどくさいですよね(笑)。1枚ずつ袋から出してセッティングして、傷つけないように気をつけて…って。でもそうやって大切に扱われることは、アーティストにとっても創作の励みになると思うんです。アナログレコードもCDも、作る側は大切に聴いてもらうためにがんばって良い音楽を作る、聴く側はそれを丁寧に聴いて心から楽しむ。そうやってどんどん「人生の宝物」ができるサイクルがまわっていく。そういう土壌を作るには、作り手と聴き手が一緒になって作っていかないといけないのかなと思いますし、そういう想いでミュージックソムリエ協会、ひいてはRECORD STORE DAYをはじめたんです。何かを変えてやろうなんて大げさなことは考えていませんけど、できるところから始めていきたいと思っています。

◆【インタビュー】カップヌードルがアナログレコードとコラボしたワケ
◆街全体が音楽好きで溢れる日、<Record Store Day>
◆【インタビュー】これが世界先鋭、ピーター・バラカンが語るアナログレコード最新事情
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