【座談会】椎名へきる × JILLE × lasah、ボカロP・keeno楽曲を歌うことの魅力と難しさを語る

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ボカロP・keenoの楽曲を、椎名へきる/JILLE/lasahら女性アーティストがカバーしたアルバム『keeno song collection -feat. female singer-』が12月21日にリリースされる。昨年2015年に発表した2ndボーカロイドアルバム『before light』を経たkeenoのベスト選曲が実力派の彼女たちによって見事に歌唱され、切なくも美しいkeenoの世界観を存分に表現している作品だ。そして、普段は異なるジャンルのフィールドで活躍している3人の個性も光り、楽曲の新たな魅力をも引き出している。さらに、3人が歌う「ruth」は、keenoが今作のために新たに書き下ろしたスペシャルなナンバーだ。

◆椎名へきる/JILLE/lasah カバー投稿動画

今回BARKSでは、椎名へきる×JILLE×lasahによる座談会という貴重な機会を得た。カバーしたからこそ体感したkeeno楽曲の魅力、ボーカロイドの楽曲を人間が歌うことの困難とやりがい、さらには3人の意外な共通点まで、互いに初対面にもかかわらず実にグルーヴィーに会話は進んだ。


  ◆  ◆  ◆

■ “椎名へきるでは歌わない”って、最初にはっきり決めたんです

──美しさや温かさの中に、孤独感や切なさ、痛み、悲哀があって、心を大きく動かされてしまうのがkeenoさんの楽曲。みなさんは、keenoさんの楽曲とどのように出会い、そして今回カバーしてどう感じたのでしょうか。

▲JILLE

JILLE:私の場合は、今回カバーさせていただくにあたって初めてkeenoさんの楽曲と出会ったんですが、デビュー以降、日本語の曲をすべて英語詞に換えて歌ってきた私としては、日本語の曲をそのまま日本語で歌うというのが初めてのことで。しかも、自分で作詞・作曲をするときには書きたいのに書けない、あまりにも赤裸々な恋愛ソングを歌うことは、ヴォーカリストとして、人間として、引き出しをひとつ増やしてもらったような感覚でしたね。それに、おっしゃるようにとても心が動かされる楽曲なので、私自身、歌いながら心がすごく忙しくなりました。

▲lasah

lasah:私は、keenoさんが最初に投稿された「glow」(2010年に投稿)をリアルタイムで知って、「今までいなかったタイプの人が出てきたな」と思いました。その年の即売会に行って並んでCDを買うくらい、ファンになったんです。そして、私もJILLEさんと同じく日本語詞を英訳して歌うという活動を続けていたところ、縁あってkeenoさんの2ndアルバム『before light』の特典CDで「morning haze」を英訳して歌わせていただくことができて。今回も4曲中1曲(「in the rain」)を英訳して歌わせていただいたんですけど、私も恋愛ソングは基本的に歌うことがないので、難しいなと思う瞬間は多々ありました。でも、歌っていくうちに「こういう感じで歌ったらもっと伝わるのかな」っていうことが、だんだん掴めたような気もして、すごく勉強になりました。

▲椎名へきる

椎名へきる:私は、これまでボーカロイド楽曲を聴いたことがなく、その世界のことをまったく知らない人間で。今回、お声がけいただいて初めてkeenoさんの楽曲を聴いたんですが、自分がこれまでやってきた音楽とは違ったところにある世界のものだし、ものすごく複雑なハモリがあったりもしますし、まず、「生身の人間が歌うのは難しいだろうな」と思ったんですね。

JILLE&lasah:確かに。

椎名へきる:keenoさんが生む、繊細で、愛おしくて、郷愁感漂う、少年少女のような無垢な世界観を、リアルすぎずに声で表現するというのはかなりの挑戦になるだろう……一度、自分を捨てないと無理だろうなと。“椎名へきるでは歌わない”って、最初にはっきり決めたんです。

JILLE:すごい……。

椎名へきる:歌がどうということよりもまず、keenoさんがボカロを通じて描く人物像というものに自分を寄せて、気持ちを持っていくという作業から入ったというか。それを完全にできたかはわからないんですが、できるだけkeenoさんの世界観を壊さないように、ということは心がけました。

──どこか、演ずるような感覚というか。

椎名へきる:近いものはあると思います。keenoさんの曲って、Aメロ、Bメロでは複雑なことをされていても、サビは全部メロディアスだし、ギターのバッキングを聴いているとロックっぽく歌いたくなってしまうんですけど……。

──どの曲も、ドラマティックですもんね。

▲『keeno song collection -feat. female singer-』

椎名へきる:そう、曲が盛り上がってどうしても昂ってしまう。だから、感情を我慢することがすごく難しくて。レコーディングのとき、自分の中での押し問答にだいぶ悩まされました(笑)。

JILLE:いやぁ……私は、へきるさんのように頭で整理してからできないので、感情を我慢せずにいってしまいました(笑)。それで後から客観的に聴いてみて、それは合わないなっていうことに気付いて、抜いて(感情を抑えて)いくっていう。

椎名へきる:いやいや、私も最初に試しで歌ったものを聴いて、そこで冷静になったという感じだったから。それでも声のアタックが強くて、keenoさんがギターを入れ直す羽目になっちゃったりとかもしたんです(苦笑)。

──そういったやりとりも、生身のヴォーカリストを迎えて作る醍醐味なのではと思ってしまいますけど。動画投稿されている楽曲についても、それぞれ教えてください。「in the rain(English ver.)」は、lasahさん自ら英訳して何か感じたこともありましたか?

lasah:……正直に言うと、英語にしなければよかったと思いました。

椎名へきる&JILLE:えっ!?

lasah:というのも、「in the rain」は特にサビのメロディの音数が多くて、日本語なら1音につき“あ”とか“う”とか一文字ずつ当てればいいんですけど、英語の場合は、“you”とか“are”とか、1ワードを入れないといけないので。そうすると歌詞が足りなくなってしまうから、自分なりに世界観に合いそうだなと思う言葉を試行錯誤しながら足していったんですけど、譜割りも難しいし、なんでこの曲を英語にすると言ってしまったのかと後悔しました(苦笑)。

椎名へきる:でも、できたものは洋楽っぽい雰囲気があって素敵。

JILLE:確かに!

lasah:ありがとうございます。今回の経験が、いつか活かされたらいいなぁと思います。それに、普段は割りとエレクトロ寄りな曲調が多いので、バンドサウンドを経験できたことで、これからはこういったジャンルにも挑戦したいなと思いました。


──JILLEさんはkeenoさんの最新曲「yours」をカバーされていますが、歌う際にはどんなことを大事にしましたか?

JILLE:私が普段歌っているジャンルって、R&Bやポップス、ソウル、ロックで、影響を受けたのも洋楽のソウルとかファンクのアーティストなんですね。

椎名へきる:かっこいい……私が絶対踏み込めないところだ。

JILLE:いえいえ、そんな。私はへきるさんの繊細なヴォーカルに憧れていますから! 自分は枯れ声でローが響いて高音よりも低音が得意で、恋愛モノの歌を歌ったことがないのに、「yours」のサビの一発目は“キミが好きよ”ですからね。そんなことプライベートでも言ったことないわ!っていう(笑)。なので、誰が聴いても「JILLEが歌ってるね」ってわかるようにエッジをきかせながらも、野太くならないように、歌詞のピュアさが伝わるよう気をつけました。さっきへきるさんがおっしゃっていたように、感情的に叫んでいいならいくらでもシャウトしたいんですけどね(笑)。レコーディングはkeenoさんもいらっしゃっていたので、めちゃめちゃ質問しました。『大丈夫ですか?』『切なさがちゃんと伝わってますか?強すぎてないですか?』とか。ものすごく優しい方だから、「JILLEさんのままでいいですよ」「僕は素敵だと思いました」と言っていただいて、気づいたら、keenoさんの人柄と音楽にどっぷり浸って歌うことができました。先日、ライブでも歌わせていただいたんですが、自分で作るメロディとは全然違うのに、自分の新曲を歌うような感覚で初めて生で歌ったのに歌いながら泣きそうになるほど楽曲が体に入っていました。「yours」、最高です。


──同感です。椎名へきるさんはニコニコ動画100万再生間近の「crack」をカバーされていますが、今回が「歌ってみた」初ということで。たくさんの反響をどう受け止められていますか?

椎名へきる:あ、そんなに反響があるんでしょうか。

lasah:ありますよ!

JILLE:そうそう、コメントがたくさん。

椎名へきる:私自身はSNSに疎いので、あまりわからないんですけど……だったらよかったです(笑)。「crack」は、ものすごくいいメロディだし、Aメロの頭2小節だけでも、そこに素敵な世界が凝縮されているので。keenoさんの紡ぐメロディラインには水が流れるような美しさがあって、歌うぶんには難しいけど、聴いているぶんにはとにかくクセになるし、癒される。中でも「crack」はメロディアスなので、たとえば、仕事から帰ってきて聴いたときに疲れが癒えたらいいな、寝る前に聴いてほしいなと思ったりします。


◆インタビュー(2)へ
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