海外アーティストに多大な影響を与え続ける写真家、鋤田正義とは?

ポスト

全国公開中の映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』をご存知だろうか。デヴィッド・ボウイやマーク・ボラン、イギー・ポップといった海外アーティストからYMO、寺山修司、忌野清志郎をはじめとしたそうそうたるアーティストの写真を撮ってきたひとりの写真家:鋤田正義を追ったドキュメンタリー作品である。

鋤田正義は現在80歳、今もなお現役でカメラを握り、アーティストが放つ一瞬の眩い閃光を捉え続けている。様々なビッグネームから絶大なる信頼を得てきたその存在は圧倒的だが、彼の物腰はいつまでも少年のようであり、表層の向こうにある本質を捉える彼の目線は、鈍ることなく今もみずみずしい輝きに満ち溢れている。

映画に登場するのは、様々なクリエイターたちと鋤田正義本人だ。華やかなミュージシャン達と、その場の空気に同化しながら歌うようにシャッターを押す鋤田正義のコントラストは、あるときは対比あるときは同調しながら様々な色彩を見せており、それはまるでアーティスト同士のセッションのようであり、魂をぶつけ合うバトルのようにも見える。


そして、このドキュメンタリー作品には映画監督のエゴがない。伝わってくるのは「鋤田正義作品への熱きリスペクト」という監督の凪のような感情だけだ。『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』の映像は淡々と進行していき、派手な演出も驚きの展開も用意されていない。あくまでも、伝えるべきは鋤田正義作品が放つ強烈なエネルギーそのもの、ということなのだろう。監督を務めたのは映像クリエイターの相原裕美という人物。はたまた、この相原という映像作家はどういうクリエイターなのか?5月末日本人をキャッチ、直接話を聞く機会を得た。


──あの…いきなり変な質問で恐縮なんですが、この映画に関する取材ってお受けになっていないですよね?

相原裕美監督:海外映画祭で行われるQ&Aなどには参加しましたが、日本ではこれが初めてですね。

──そこなんです。「私がこの作品の監督です」的なアピールもなく、監督自身が裏方に回っている印象があるのですが、それは何故ですか?

相原:ははは(笑)、鋤田さんはご存命ですごい活躍をなさっているところですから、そもそも映画のプロモーションというよりも鋤田さんのプロモーションという気持ちなんです。業界では著名でも、一般的には鋤田さんのことを知らない…簡単に言ってしまえば、篠山紀信さんや荒木経惟さんに比べたら知らない人が多いでしょう?やってきた功績は大きいんですけど、本人が出たがりじゃないのでね。

──どうしてこの作品を作ろうと?

相原:僕は音楽ビデオをずっと作ってきていました。もともとビクターでサザンオールスターズのミュージックビデオやライブなどの映像を作っていましたが、2010年に会社を立ち上げ音楽映画の制作に着手しまして、クリープハイプの映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『私たちのハァハァ』、大森靖子にインスパイアされた『ワンダフルワールドエンド』、THE BACK HORN『光の音色-THE BACK HORN Film-』といった作品を手がけていました。鋤田さんとは1991年に永瀬正敏の作品の仕事で知り合ったのが最初ですが、そんな流れから今回鋤田さんをフィーチュアしたいなと思いまして。

──彼の功績をまとめておきたいと?

相原:2016年1月にデヴィッド・ボウイが亡くなって…、そんなこともあって2月に鋤田さんに連絡をしました。

──鋤田さんの功績を描くとなれば責任も重大…というか、鋤田さんサイドからの信頼がなければ実現できない話ですよね。

相原:そう…ですね。永瀬くんとの付き合いもありましたし、僕の周りのスタッフと鋤田さんの仕事仲間がすごく近かったのもあって、個人間での信頼もそうですけど、誰かひとりを通せば全部話が通じるような人間関係がありました。

──相原さんの頭の中には、作品の内容や構成は出来上がっていたんですか?


▲相原裕美監督

相原:基本的には現在進行系のものを作ろうと思っていました。終わった人の話はやるつもりはなくて、過去も振り返りますけど現在もあって、未来まで描こうと思いました。80歳になった現在においても先まで考えている様子を描きたかった。

──まだ現役の方ですからね。まさに未来がある。

相原:一番最初の撮影は、2016年4月の布袋寅泰『GUITARHYTHM伝説'88~ソロデビュー再現GIGS』のライブでした。鋤田さんがスチールを撮るというので、その様子を追ったんですが、ファインダー/ステージを見ている鋤田さんの目がすごくキラキラしていて、これで「もう大丈夫、絶対成立する」と思いました。

──映画冒頭に出てくるシーンですね。

相原:そうです。MIYAVIさんの撮影のとき、映画内で語られているように鋤田さんの体調が悪くて、初めのうちは顔色も優れなかったのですが、撮影しているうちに顔色も赤らんできて「あれ、鋤田さん、ずいぶん体調も良さそうですね」って言ったら「いやー、撮影していると体調戻るんだよね」って。そういう人なんですよ。

──アーティストあるあるですね。

相原:鋤田さんという人は、人を色眼鏡で見ません。まずフラットに人と接してスタートする。映画の中でも、ジョナサン・バーンブルックというデヴィッド・ボウイの『The Next Day』のジャケットをデザインしたグラフィックデザイナーと会うシーンがありますが、実はあれが初対面のとき。日本語と英語でなかなか通じにくいところもありますが、気負うこともなくコミュニケーションを取っていました。

──ジョナサン・バーンブルックのほうがドキドキだったかもしれませんね。かの名盤『Heroes』の写真を破壊するようなアートワークを作った張本人だから。

相原:ええ(笑)。でも鋤田さんとデヴィッド・ボウイとの信頼関係は絶大でね、例えば、ボウイが鋤田さんの写真を使ったり、鋤田さんが展覧会でボウイの写真を使ったりするのは、暗黙の了解があったそうです。


▲左:『Heroes』、右:『The Next Day』

──まさにアーティスト同士の信頼関係ですね。ビジネスの話じゃない。

相原:そうなんです。『Heroes』の写真だってレコード会社からのオファーで撮った写真じゃないですからね。ボウイが日本に来たときに1時間だけ時間をもらって、自分の作品として撮ったものです。布袋さんがギターを始めるきっかけになったというあのマーク・ボランの写真だって、そうです。全部自分で現地に行って、自分で撮ってきたものです。基本的にライブもそうですよ。


──仕事として頼まれて撮ったものではなく、撮りたいから撮ったということか。そういう精神性も含め、クリエイティブな仕事に携わる人には必ず観てほしい作品ですね。

相原:僕は、若い人に観て欲しいです。鋤田さんがロンドンやニューヨークに行った時代に比べたら、今は格段に海外に行きやすいでしょう?世界はどんどん狭くなっているので、クリエイター志向のある人は世界に飛び出して頑張ってほしい。日本国内だけの小さな市場じゃなくて、グローバルというと使い古された言葉ですけど、活動できる人たちへのひと押しにつながればいいですね。

──この映画からはいろんな刺激を受けますよ。生き方とか頑張り方とか、頑張らなくていいところとか、いろんな学びもある作品だと思います。



相原:目線によって気になる部分も違うと思いますけど、今80歳においてもまだ現役で、これから先やろうとしているということこそ、今の若い人に受け止めてほしいところですよね。

──監督としての気持ちは、そこですか。

相原:もともとは、別の人に監督をお願いしようと思っていましたが、ドキュメンタリーはとても時間がかかりますしスケジュールの問題もあって、自分でやろうということになりました。本来監督は、自分の個性を出すことが仕事だったりもするわけですが、プロデューサーとしての僕は、監督としての自分は出さないことにしました。監督の意図がお客さんに伝わるのではなく、鋤田さんをそのままダイレクトに見てもらおうと思って。だから、ドラマチックでもないし、盛り上げるような要素を入れることもなくなるべくフラットに見せようと、丁寧に編集をしています。

──ほお。

相原:それはプロデューサーの感覚でやっているからできる仕事で、監督でしたら自分の個性を出さなくてはいけないから、どこかしら違ってきますよね。そういう意味では珍しい作品だと思います。作品の中において、自分の考えを押し付ける必要はまったくないと思ったから。言ってみればマイケル・ムーアとは全く逆方向ですね。

──音楽のプロデューサーでいえば、自分の色を出すのではなくアーティストの良さを引き出すようなプロデュースワークか。

相原:素材を活かす方向ですよね。

──この作品の誕生が、鋤田さん本人にどんな影響を与えたと思いますか?

相原:鋤田さんいわく「有名になりすぎてポートレイトが撮りにくくなったかも」って(笑)。

──鋤田さんらしいコメントだ(笑)。

相原:そうですね。僕の知り合いはこの作品を3回観てくれていますが、「観るたびに新しい気付きがある」と言ってます。内容が濃いというかかなり詰め込んでいるので、ですから、できれば1回と言わず何度も観ていただけたら大変嬉しいです。


   ◆   ◆   ◆

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』の英題には『SUKITA / The Shoot Must Go On』というタイトルが付けられている。The Show Must Go Onの“Show”が“Shoot”に変えられたものだが、The Show Must Go On「ショー(劇)を続けなければならない」という言葉は、途中で何が起きても止めることはできないということから、転じて「人生は止められない」「人生は続く」という格言となっている。

The Shoot Must Go Onは、「撮影を続けなければならない」という直訳を超え、「撮らねばいられない、そして人生は続く」という、鋤田正義の生き方そのものを言い表している。今もなお表現の最前線にいる彼をとらえたこの作品には、アートが息吹く瞬間や、五常の徳から引き寄せられる人間力の描写をもって、様々な刺激とともに学びの要素も確認することができる。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也


(C)2018「SUKITA」パートナーズ

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』

5月19日(土)より 新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中
デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、マーク・ボラン、YMO、寺山修司、忌野清志郎……時代を駆け抜けた天才たちの《永遠の時》を獲得した写真家・鋤田正義に迫る、初のドキュメンタリー。
デヴィッド・ボウイをはじめ、世界的アーティストの代表的なポートレートやアルバムジャケットを数多く手がけてきた日本人写真家がいる。鋤田正義、この5月で80歳。ボウイとの親交は40余年に及び、マーク・ボランを撮った1枚は、ギタリスト・布袋寅泰の人生を決定づけた。本作では鋤田自身が写真への情熱を語るだけでなく、錚々たるアーティストたちが貴重な撮影秘話を披露し、彼の人柄や創作活動に迫ってゆく。
出演:鋤田正義 布袋寅泰 ジム・ジャームッシュ 山本寛斎 永瀬正敏 糸井重里 リリー・フランキー クリス・トーマス ポール・スミス 細野晴臣 坂本龍一 高橋幸宏 MIYAVI PANTA アキマ・ツネオ 是枝裕和 箭内道彦 立川直樹 高橋靖子 他
監督:相原裕美
制作プロダクション:コネクツ
製作:コネクツ ハピネット スペースシャワーネットワーク パラダイス・カフェ パルコ 鋤田事務所
協賛:学校法人 日本写真映像専門学校
協力:FM COCOLO
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
2018年 /日本 / カラー / ビスタ / Digital / 5.1ch / 115分
sukita-movie.com
(C)2018「SUKITA」パートナーズ
この記事をポスト

この記事の関連情報