【インタビュー】尾崎亜美、“迷子から一緒に抜け出せたらいいな”優しさと想像力きらめく『Bon appetit』

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■音楽に真摯に向き合っていただいて
■「すごく楽しい!」って言ってくださったのが何よりのご褒美だった


──先ほど「スケッチブック」のお話をしていただきましたが、今作には尾崎さんが提供した楽曲のセルフカバーが7曲、収録されています。今、歌いたいと思われた曲を選ばれたとのことですが、どんな視点でセレクトされたんでしょうか?

尾崎:「メッセージ 〜It's always in me〜」から「スケッチブック」までの流れを繋ぐ意味で心のドラマというか、ストーリーに沿った形で選んだ曲たちです。例えば、「スケッチブック」の前の「To Shining Shining Days」(chayへの提供曲)は悲しい曲が続くので、雨上がりの空みたいに躍動感がある曲を選びました。押しつけではなく、誰かの心に寄り添えるアルバムにしたいという想いがあったんです。“行こう!”って背中を押されたい人もいれば、“イエーッ”っていうテンションに乗っかって元気出してくれる人もいれば、“わーん”って泣いてスッキリする方もいらっしゃると思ったので、いろいろな寄り添い方ができる曲を選んだつもりです。それと提供したときから「尾崎亜美も歌いたい!」って思っていた歌が多いかもしれません。

──そうなんですね。

尾崎:原曲とは異なるアプローチができるという意味で違いがいちばん顕著なのは宇都宮隆さんに書いた「境界線を引いたのは僕だ」ですね。男子目線で書いた曲なんですけど、ハンサムな歌を歌いたかったんですよね(笑)。私の曲にはマイナーコードの曲が少ないんですが、「月を見つめて哭いた」(広瀬倫子への提供曲)、「境界線を引いたのは僕だ」、「潮騒」(藤田恵美への提供曲)の流れはまさにそういう曲たちです。「潮騒」に関しては東日本大震災があって以来、私は海を見ると、愛する人を亡くした人がたくさんいらっしゃるって思うようになったので今作ではコロナ禍もあってレクイエムのような気持ちを込めて尾崎亜美として歌いました。他の方に提供した曲に関しても、何かしら自分の中で宿題を作ってシンガーの尾崎亜美として何ができるか?って。プロデューサーの尾崎亜美の視点で構成していきました。

──切ない3曲があって、尾崎亜美さんのシティポップの真骨頂、「To Shining Shining Days」に移行する流れがいいですよね。キラキラしていて、コーラスもポップさを引き立てています。

尾崎:ありがとうございます。ちょっとソウルっぽい感じにしてみました。

──曲順も練られたんですね。

尾崎:ものすごく考えました。でも、後から考えると芯になっているものが揺らがなかったので、導かれるような感じでしたね。

──なるほど。アルバムには林立夫さん、小原礼さん、鈴木茂さん、屋敷豪太さん、是永巧一さん、佐橋佳幸さん、尾崎博志さんとジャパニーズポップ、ロックのヒストリーを語る上で欠かせないミュージシャンが参加されていますよね。「フード ウォーリアー」で松任谷正隆さんがアコーディオンで参加されていたりとか。

尾崎:そうですね。博志くんがいちばん若いのかな。是ちゃんと豪ちゃんと佐橋くんが同世代ぐらいで、私より上の方が多いですね。レジェンドばかり。

▲尾崎亜美/『Bon appetit』

──尾崎さんとはみなさん長いお付き合いだと思いますが、ゴージャスな顔ぶれです。

尾崎:松任谷さんはデビュー以来(ファーストアルバムとセカンドアルバムをプロデュース)ずーっと一緒にお仕事することはなかったんですよ。45周年に初めてゲストミュージシャンとして参加していただいて、私にとってはとても大きな記念になりました。レコーディング中は「これでいい?」って言ってくださったので「そこの箇所はもうちょっとこうしてください」って言っている自分が怖かったです(笑)。

──オファーなさったのも尾崎さんなんですか?

尾崎:そうなんです。ブレッド&バターと SKYEが共演したコンサートでお会いしたんです。SKYEは小原礼、林立夫、鈴木茂が高校生の時に組んでいたバンドなんですけど、そのバンドに松任谷さんが参加したいっておっしゃって、今、4人のSKYEでアルバムをレコーディングしているんです。みんな70才前後でデビューなので「ギネスブックに載せよう」って言っているみたいですけど(笑)、そのコンサートでお話したときに「アコーディオンとかマンドリンを弾いてくださいます?」って言ったら「言ってくれたら何でもやるよ」って言ってくださったので思いきってオファーしました。結局、アコーディオンでお願いしたんですけど、ホントに嬉しいことです。

──尾崎亜美さんのボーカルとみなさんの演奏が素晴らしいんですよね。やんちゃな部分も残しつつ、品があって深みがある音だと感じました。

尾崎:私もそう思います。品がありますよね。全員が事前に曲を聴きたいって言ってくださって、自分なりの作戦を考えてきてくれた上でスタジオに集結してくれたんです。もちろん、現場で私が「こうしてください」ってリクエストしたら柔軟に対応してくださるんですが、あんな凄いミュージシャンたちが私の曲を「いい曲だね」って言ってくださって、音楽に真摯に向き合っていただいて「すごく楽しい!」って言ってくださったのが何よりのご褒美だったと思います。

──尾崎さんだからこそ集まるメンバーでもありますしね。

尾崎:松任谷さんは久しぶりでしたけど、他のメンバーは近年の作品やライブに参加していただいているので本当にありがたいです。

──最後に9月に予定されているアニヴァーサリーライブはどんなステージにしたいと思い描いていらっしゃいますか? 先ほどお話に出たSKYE もゲストで出演されますよね。

尾崎:SKYEのメンバーは松任谷さん以外、ライブのサポートメンバーとして参加してくれているので、いつもの顔ぶれなんですね。キーボードに関しては、その都度、変わるんですが、今回は私自身、大好きな斎藤有太くんが参加してくれます。いきさつは、今作に参加していただいているので松任谷さんにオファーしてみたら、OKしてくださってゲストで出演していただくことになったからですね。だったら、SKYEのコーナーを作ろうって。尾崎亜美の初期の曲も演奏してもらおうと思っているので、私にも聴いていただくみなさんにとっても贅沢で素敵でかなり欲張りなコンサートになると思います。『Bon appetit』に込めた今の気持ちを歌いたいのはもちろん、懐かしい曲も歌いたいと思っています。それとコンサートに行きたくてもなかなか足を運べずに辛い想いをしているFCの方々に向けて「どんな曲、聴きたい?」ってアンケートをとったんです。そういうリクエストにも応えますし、心を込めて込めて、込めすぎなぐらいの内容になると思います。あとはどうか無事に開催できますようにと願うばかりです。ホントに我慢してきましたからね。

──尾崎さんのフルコースみたいなコンサートになるんですね。

尾崎:その通りです!(笑)。『Bon appetit』ですからね。

取材・文◎山本弘子


デビュー45周年記念アルバム『Bon appetit』

2021年9月15日(水)発売
CRCP-20577 ¥4,500(税込)

<CD>
01. メッセージ ~It’s always in me~
02. I’m singing a song
03. Jewel
04. フード ウォーリアー
05. Barrier
06. 月を見つめて哭いた
07. 境界線を引いたのは僕だ
08. 潮騒
09. To Shining Shining Days
10. スケッチブック
11. 明和の風 吹きぬける時 (東京都中野区立明和中学校 校歌) 【Bonus Track】

<DVD>
01. VOICE
02. 純情
03. 手をつないでいて
04. オリビアを聴きながら
05. スープ
06. Smile

尾崎亜美コンサート2020
Live at EX THEATER ROPPONGI (2020.9.12)

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