【コラム】1968年のストーンズをリアルに伝える映画『ワン・プラス・ワン』

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2021年の忘れられない出来事のひとつとして、チャーリー・ワッツの逝去が挙げられる。彼が亡くなったのは去る8月24日のこと。ロンドンの病院で、家族に囲まれながらの静かな最期だったという。それから3ヵ月と少々が経過しているが、この12月3日より、彼への追悼の意を込めて映画『ワン・プラス・ワン(ONE PLUS ONE)』が緊急上映される。


この『ワン・プラス・ワン』は、ヌーヴェルヴァーグを代表する巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督による1968年の作品で、ザ・ローリング・ストーンズの数ある名曲の中でももっとも象徴的な楽曲のひとつといえる「悪魔を憐れむ歌(Sympathy For The Devil)」が完成していく過程を追った記録映像と、当時の社会運動に関わるドキュメンタリーめいたフィクション映像が合体した異色の作品。まさにその表題が示唆するように、ふたつの映像記録の足し算により生じるケミストリーを味わうことのできるものとなっている。


興味深いのは、ザ・ローリング・ストーンズのレコーディング・セッションの様子はあくまでドキュメンタリーでありながら、それと交互に登場するのはあくまで「ドキュメンタリーめいた」映像で、脚色の伴うものだということ。つまり「悪魔を憐れむ歌」が生まれた時代の背景を解き明かすかのような説明的な作風ではなく、そこにはゴダールの主張が反映されていて、それゆえにある種の難解さというか意味不明さが伴うところもある。ただ、それでも観ておきたくなるのは、やはり当時のザ・ローリング・ストーンズの姿をとてもリアルに感じられる作品だからだ。



当時の彼らは、その「悪魔を憐れむ歌」が収録されているアルバム『ベガーズ・バンケット』(1968年12月発売)のレコーディング中で、この映画のための撮影は1968年6月に行なわれている。それから1年後にギタリストのブライアン・ジョーンズは脱退し、さらにその1ヵ月後にあたる1969年7月3日に27歳の若さでこの世を去っている。すでにこのレコーディング当時にはバンド内での彼の存在感が薄くなりつつあったというのも定説になっているが、そうした頃の5人の間に渦巻いていた空気感のようなものを、この貴重映像は赤裸々なほどに伝えてくれる。

映画としては、名作というよりも奇作の部類に入るものではないかとも思えるが、2021年も終わりに近づいてきた今、大きなスクリーンを通じて改めて1968年の現実と向き合ってみてはどうだろうか? 今だからこそ見えてくるものがあるかもしれない。

文◎増田勇一


映画『ワン・プラス・ワン』

12月3日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:ロングライド
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
1968年/イギリス/英語/101分/カラー/1.33:1/モノラル/原題:ONE PLUS ONE/日本語字幕:寺尾次郎(日本劇場初公開:1978年)
出演:ザ・ローリング・ストーンズ(ミック・ジャガー、キース・リチャード、ブライアン・ジョーンズ、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン)、アンヌ・ヴィアゼムスキー
(C)CUPID Productions Ltd.1970


◆映画『ワン・プラス・ワン』オフィシャルサイト
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