いい音爆音アワー vol.133「まったりしない♪バラード特集」

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いい音爆音アワー vol.133「まったりしない♪バラード特集」
2022年11月16日(水)@ニュー風知空知
「まったり」という言葉はいいふうにも使いますが、ここでは「かったるい」みたいな意味で使っています。かったるいバラードは好きじゃないですが、世の中かったるいバラードが多いと思うんです。ビートものならノリさえよければ許せます。許せるどころか、たとえばストーンズの「Brown Sugar」なんか、ほとんどメロディなんてないけど名作だと思います。だけどバラードはやはり歌が中心なんで、メロディと歌唱がちゃんとよくないと聴いていられません。だから、ありがちなメロディだともうそれだけでアウト。そして、ビートがおだやかでも、音楽にグルーヴは絶対必要なんですが、バラードの場合、グルーヴをつくるのもまず歌です。相応の歌唱力が要求されますが、それだけの歌い手はそう多くはいない、ということで、かったるくない、まったりしない、私が好きなバラードは、あまり多くはないということになるんですね。
だけど、実は、選曲をしているうちに、あれも聴いてもらいたい、これもいいと、けっこう増えて、結局、告知画像に使ったPercy Sledge「When a Man Loves a Woman(男が女を愛する時)」もあきらめるほど、いいバラードが集まりました。


ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Whitney Houston「Saving All My Love for You(すべてをあなたに)」

    まずはこの人。お母さんがCissy HoustonでいとこにDionne WarwickとDee Dee Warwick。Aretha Franklinが「honorary aunt(名誉おばさん:親の親友)」という環境で育ったサラブレッド。歌の巧さはもちろん、歌に花があります。彼女のバラードでは「I Will Always Love You」がいちばん有名かもしれませんが、この曲も全米1位を獲得しました。デビューアルバム『Whitney Houston(そよ風の贈りもの)』からの5枚目のシングルカットです。これはカバーで、オリジナルは“Marilyn McCoo and Billy Davis Jr.”が1978年のアルバム『Marilyn & Billy』に収録しています。作詞が、Carole Kingとのコンビが名高いGerry Goffin、作曲とプロデュースがMichael Masser。サックス・ソロはTom Scott。シングル発売は1985年8月、アルバムはその半年前の2月です。

  • ②Sam Cooke「A Change Is Gonna Come」

    この曲は売上はそうでもないのですが、米国の公民権運動のアンセムとして広く知られ、ローリングストーン誌の「500 Greatest Songs of All Time」2021年版では3位に選ばれています。サム・クックは当時、ポップなラブソングを歌う言わばアイドル的な存在でしたが、1963年8月13日にBob Dylanが「Blowin' in the Wind」を発表すると、黒人じゃない彼が優れたプロテストソングをつくったのに、自分はできていないことを恥ずかしいと思いました。ただ自分に白人のファンが多いことで、なかなか踏み切る勇気がありません。でも、さらにその直後(8月28日)、Martin Luther King牧師の「I have a dream」演説で有名なワシントン大行進にも心動かされ、ついに夢に曲が出てきました。それがこの「A Change Is Gonna Come」です。年明け64年の1月に録音して、2月発売の11thアルバム『Ain't That Good News』に収録します。その後、「Shake」という曲のB面として12月22日にシングル発売されましたが、その11日前に、謎の銃殺事件によって、クックは亡くなっていました。

  • ③Simon & Garfunkel「Bridge over Troubled Water(明日に架ける橋)」

    私が高校に入った1970年の1月に発売された曲ですが、その頃あるいはちょっと後にテレビドラマ、たしかTBS水曜劇場の何かで、BGMとして流れたんです。一度聴いただけで心にジーンと来て、探してシングル盤を買いました。今みたいにネットがないからどうやって探したのかよくわからないんですが。で、そのころ小さなポータブル電蓄しかなかったので、3番から入ってくる低音のパーカッション、グランカスターだと思いますが、その音がよく聴こえなかったんですね。その後オーディオのクオリティがよくなるたびに少しずつよく聴こえてきて。オーディオに興味を持ったのもこの曲がきっかけです。詞曲はもちろんPaul Simonですが、リード・ボーカルはArt Garfunkelです。サイモンも歌うまいですが、とてもきれいで繊細なのに、バックがどんなに壮大になってもそれに負けない強さも持つ、ガーファンクルの歌唱には、改めて感服します。

  • ④Elton John「Your Song(僕の歌は君の歌)」

    これも1970年発売。自身8枚目のシングルなんですが、それまで全く売れてなくて、そのせいかこの曲もまず"Three Dog Night"に提供して、彼らが70年の3月にリリースしたアルバムに収録されました。その後4月に、エルトン自身のバージョンが収録された2ndアルバム『Elton John』がリリースされ、10月に、アルバムからの第2弾シングル「Take Me to the Pilot」のB面として、米国で発売されました。バラードなんですぐには売れにくいと思ったからかもしれませんが、ラジオではむしろB面「Your Song」のほうに人気が集まって、やがてAB面を入れ替え、全米シングルチャート8位まで上がり、エルトン・ジョンの名を世に知らしめました。日本でも当初はオリコン100位にも入らなかったのですが、その後いろいろなドラマとかCMに使われ、その度にチャートインするようになりました。名バラードにふさわしい、息の長い売れ方ですね。

  • ⑤Boz Scaggs「Slow Dancer」

    ボズのデビューは1965年でその時21歳。それから10年以上売れなかったんだけど、1976年、32歳の時に出したアルバム『Silk Degrees』で全米2位のヒット、AORというジャンルの確立まで成し遂げました。その1作前がアルバム『Slow Dancer』(1974)なんですが、全米81位だったので、かなり突然のブレイクでした。アルバムジャケットも海辺で海パン一丁、なぜか「シスコの顔役」なんていう妙な邦題がついていたんですが、『Silk Degrees』が売れてから、こちらのジャケットも変更されました。プロデューサーの違いとかいろんな勝因があると思いますが、このタイトル曲のよさがジワジワと広がってボディブローになった、ということもあるんじゃないでしょうか。

  • ⑥アン・ルイス「グッド・バイ・マイ・ラブ」

    いわゆる歌謡バラードですね。歌謡曲にはバラード系の曲がいっぱいあって、比較的好きな曲は多いんですが、歌唱もいいと思うものはやはり少ないです。アン・ルイスは1956年生まれ。父親が米海軍の軍人で母親が日本人。横浜外人墓地を散歩している時に、作詞家のなかにし礼にスカウトされるという、昭和っぽいデビューのしかたで、それがなんと14歳の時。で、1971年2月にデビューしましたが、しばらくは売れず、1974年4月発売の6枚目のシングル「グッド・バイ・マイ・ラブ」が最初のヒットとなりました。この時もまだ17歳でした。作詞はもちろんなかにし礼で作曲は平尾昌晃。のちの歌謡ロック路線も彼女らしいのかもしれませんが、この頃のキュートな感じもとてもいいと思います。

  • ⑦竹内まりや「本気でオンリーユー (Let's Get Married)」

    アン・ルイスには「リンダ」(1980)という名バラードもあって、それを作詞作曲したのが竹内まりやです。竹内自身もセルフカバーをしていて、どちらかのバージョンを聴こうかとも思ったのですが、アンの方は歌唱がさっきの「グッド・バイ・マイ・ラブ」のほうがいいと思ったし、竹内の方は、サウンドがちょっと物足りないのでやめて、竹内はこの曲にしました。曲は実にオーソドックスで、歌詞も英語なので、まるでスタンダード・ポップスのようなんですが、ありそうででも他にはない。こういう王道のコード進行で、新たにちゃんと気持ちよいメロディをつくれるのは、桑田佳祐なんかもそうなんですが、やはり天才だと思います。そして、歌唱もまた、これみよがしな巧さじゃなく、軽やかでやわらかでかつ堂々としている。これまたなかなかない存在感で、こういう歌こそ本当にうまくないと歌えない、と私は思っています。

  • ⑧太田裕美「青い傘」

    ユーミンはバラードも好きな曲いろいろあるのですが、ユーミンがつくったバラードで、どれがいちばん好きかなーと考えていたら、これが思い浮かびました。「とてもいい曲ができたので太田裕美には渡したくなかった」らしいです。失恋のつらい歌ですが、太田さんのどこかほのかに明るい感じの歌唱がとてもいいと思います。収録曲12曲がすべて違う作家の作品という、5thアルバム『12ページの詩集』に収録されています。

  • ⑨Yen Town Band「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」

    1996年9月に公開された岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」の主題歌です。映画の中の架空のバンド“YEN TOWN BAND”のデビュー曲がこの曲という設定で、そのバンドのボーカリストがCharaです。作曲・編曲・プロデュースが小林武史で、作詞は岩井俊二とCharaと小林武史の共作。小林が、” Mr.Children”のレコーディング作業の合間にピアノを弾いている時、この曲のサビが思い浮かんだそうですが、あまりにもシンプルかつ分かりやすくていいメロディだったので、同じ曲があるかもと思い、周囲のスタッフに訊いて回ったけど誰も知らなかったという、ポール・マッカトニーが「Yesterday」を夢に見た時のようなエピソードがあります。

  • ⑩サザンオールスターズ「真夏の果実」

    これも映画の主題歌で、しかも小林武史プロデュース。桑田佳祐自らが監督した1990年の映画「稲村ジェーン」です。その5年前、1985年発売の8thアルバム『KAMAKURA』まで、サザンは毎年1枚のペースでアルバムをリリースしていましたが、その後、活動休止に入り、結成10周年の1988年6月25日に「みんなのうた」というシングルを発売して、活動を再開しましたが、このシングルが、プロデューサー小林武史との最初のコラボでした。この曲もいいし、ヒットもしたのですが、続いて1990年7月に、リリースしたのが「真夏の果実」。この曲は数あるサザンの名バラードの中でも最高の作品だと思います。桑田の唄い方はいわゆる英語的発音で、ほとんどの人の場合私は生理的に受け付けないんですが、彼だけはなぜかだいじょうぶなのです。もっとも桑田のマネをして歌っているのは大嫌いですが。

  • ⑪亀渕友香「ウィスキー・ナイト」

    亀渕友香は、金子マリと組んでのバックコーラスの活動や、ボイストレーナーとして数々の歌手を育てたことで知られる人ですが、自身の作品は少ない。所謂ソウルフルな歌唱を想像するかもしれませんが、すごく素直なナチュラルな歌声で、でもどっしりと落ち着いている、日本人には珍しいタイプです。その声でこの「ウィスキー・ナイト」を歌われると、じーんと心に染みます。作曲の相沢行夫は、後に” NOBODY”という、吉川晃司の「モニカ」とかアン・ルイスの「六本木心中」などのヒットを飛ばす作曲ユニットの片割れとなる人です。その奥さんが作詞家の竜真知子さんで、この曲の詞を書いています。アレンジとプロデュースはナニワのR&Bシーンを引っ張ったギタリストの石田長生。隠れた名作です。

  • ⑫The Beatles「Here, There and Everywhere」

    George Martinがビートルズの中でもいちばんfavouriteなポールの曲だと言い、ジョンも、『Revolver』の中でいちばん好きだとか、ビートルズの曲の中でone of my favouriteと言い、ポール自身も個人的に気に入っている曲だと言っている「Here, There and Everywhere」。コーラスワークは” Beach Boys”を意識したそうで、リードボーカルはMarianne Faithfullのように歌おうと思って歌ったとポールは言っています。アルバム『Revolver』は1966年発売ですが、今年10月28日にスペシャルエディションがリリースされました。これは、プロデューサーのGiles Martin(Georgeの息子)とエンジニアのSam Okellが、4トラック・テープで録音され、ギター、ベース、ドラムが同じトラックに収められていたものを、「de-mixing」という技術で別々の音源として取り出して、新たにミックスしたというもの。今回はこのバージョンで聴きました。

  • ⑬enya「Only Time」

    2000年11月に発売され、翌年9月にあの「同時多発テロ事件 (September 11 attacks)」が起こると、ラジオやテレビでの報道のBGMとして頻繁に使われました。それでアメリカではシングル「Only Time」が全米10位、enyaにとっての今の所唯一のトップテン、アルバム『A Day Without Rain』は全米2位、世界で1500万枚を売り上げる大ヒットとなりました。enyaはシングル売上の一部を、事件で殉死した消防士の家族たちに寄付したそうです。1987年のデビュー以来、ちょっと聴いただけですぐ分かる同じスタイルを貫いているんだけど、なぜか飽きないですね。同じようなことをやったら即、真似してると言われるので、誰もしないし。私が制作を担当した遊佐未森の作品で、一度、本人の多重コーラスをenya風にしてほしいと、ロンドンのエンジニアに頼んだことがあるのですが、やはりあの声でないとああいう感じにはならないことが分かりました。

  • ⑭Kristina Train「Spilt Milk」

    彼女はニューヨーク生まれのジョージア育ち。4歳からバイオリンを学びました。2001年、19歳の時に、「Blue Note Records」の社長Bruce Lundvallと、その時重役だったプロデューサーのArif Mardinに気に入られ、契約しました。同じ年に、Blue NoteはNorah Jonesとも契約しています。で、ノラの方は2002年にデビューしているのに、クリスティーナはなぜか、大学に進学してしまいました。しかも大学では勉強よりもバンド活動に明け暮れていたらしく、意味が分かりませんが、Blue Noteは卒業するのを待ってくれたんです。で、それから曲作りに入って、1st アルバム『Spilt Milk』をリリースしたのは契約から8年後、2009年10月のことでした。しかも制作途中でコンピュータの不具合でそれまで録音していたものが消えてしまうというアクシデントがあったのに、めげずにやり直して。起きてしまったことはしょうがない=「覆水盆に返らず」を英語で言うと「Don’t cry over spilt milk(こぼれたミルクを嘆いても仕方がない)」。そこからこの「Spilt Milk」という曲をつくって、アルバムタイトルもそれになりました。ノラのようにヒットはしませんでしたが、いい曲だし歌もすごいです。売れなかったのはプロモーションが悪かったとしか思えません。

  • ⑮Lady Gaga「Million Reasons」

    2008年のデビューから、とんがった楽曲と奇抜な衣装&メイクでセンセーションを巻き起こしたガガですが、当初からかわいい曲もいくつかあって、そのボーカルはとてもキュートで、素直に歌っても非常に魅力的なボーカリストであることを匂わせていたのですが、この5th アルバム『Joanne』ではかなりナチュラル路線になって、その分歌をしっかり聴かせています。中でも「Million Reasons」はそれまでの彼女にはなかった本格的なバラード曲。この後、映画「アリー/スター誕生」に出演して、ちゃんと歌が上手い人なんだということが認識されますが、この時はちょっと意外だった。メロディもいいですが、やはり彼女の歌唱がいい。特に声質がいい。この声質でなければ、かなり違って聴こえるんじゃないかと思います。

  • ⑯Gladys Knight & the Pips「Make Me the Woman That You Go Home to」

    “Empress of Soul”=「ソウルの女王」と呼ばれるグラディス、兄といとこ2人のピップスとともに60〜80年代にかけて大活躍しましたが、いちばん売れたのはBuddahレコード時代で、73年から。でもその前のMotown時代もいい作品がいっぱいあります。この曲は1971年に発売された8th アルバム『Standing Ovation』からのリード・シングル。ピップスのコーラスは、その後の大ヒット曲などでは、おとなしくて、平凡に感じるんですが、この頃はまだ若いからか、声が大きくて元気なのが印象的です。もちろんグラディスの歌唱は絶好調。

  • ⑰Esther Phillips「Too Many Roads」

    R&BおよびJazzのシンガーとして素晴らしい声と歌唱力を持っていたEsther Phillips。14歳の時にJohnny Otisに認められまして、1950年、15歳で“Little Esther”としてデビューすると、その年のうちにR&B 1位のヒットを3曲出すという華々しい活躍をしたのですが、Otisの元を離れると、うまくいかなくなり、さらにドラッグに手を出して身体を壊します。60年代になると復活して、70年代にかけてコンスタントに活躍しますが、結局ドラッグを断ち切ることはできず、84年に48歳で亡くなってしまいました。1974年に発売された9thアルバム『Black-Eyed Blues』に収録されたとてもいいバラード「Too Many Roads」は、詞曲がAretha Franklinの妹でCarolyn Franklin。アレンジはJames Brownのバンドでサックスを吹いていたPee Wee Ellis、ストリングスはフュージョンで有名なBob James。ギターソロもなかなかいいですが、Charlie Brownという人が弾いています。

次回の爆音アワーは・・・

                        
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