モダンなデザインの中身は超リアルなグランドピアノ、カシオ「Privia PX-S7000」大解剖

ポスト

■4スピーカーで今までにない自然な響きを実現する独自の音響システム
■目の前にあるグランドピアノを弾いているような感覚になります


――では音響についてお伺いします。背面に4つのスピーカーを配置した4チャンネルになっていますが、これはどういう効果を狙ったものですか?

池田:まずはクリアでパワフルなサウンドを実現することです。従来製品は筐体が樹脂製だったんですが、「PX-S7000」は樹脂と木材のハイブリッド構造です。それによって筐体の剛性を高めて、そこにスピーカーを4つ配置することで不要な共振を抑え、クリアな響きを出せるようにしました。これら4つのスピーカーを4チャンネルで独立駆動し、出力する音の成分をそれぞれ調整することで、目の前にあるグランドピアノを弾いているかのような、今までにない自然な響きを実現できます。「スペイシャルサウンドシステム」という独自の音響技術です。


▲スピーカーの振動板に強化材マイカを混ぜ込み、きめ細かくハリのある高音域の出力を、また、ボイスコイルの可動域を広げたスピーカー内部構造により、より豊かでゆとりのある低音域の出力を実現。

――どういう仕組みなんですか?

池田:空間合成で音場を作っているんです。簡単に言うと、スピーカーごとに違う音を出して空間でミックスすることで、今までにない自然な広がりが得られるようになっています。基本は演奏者の位置でもっともよい響きになるようにしていますが、部屋の真ん中に置いた場合に、向かい側にいる人にも適した音が届く「Center」という設定や、壁際に置いたときに減ってしまう広がりを補正する「Wall」という設定もあります。「Table」に設定すればスタンドを外してテーブルに置いても自然な音で楽しめます。これが「ピアノポジション機能」です。社内での様々な環境のほかに、一軒家など色々な場所での音響をテストしました。


▲演奏者には、鍵盤奥のスリットからも音を聞けるようになっている。

――演奏者への聴こえ方だけでなく、周囲の人への聴こえ方まで考えられている。これは新しいですね。

池田:そうですね。演奏者や周りの人、使用シーンまで含めた提案をしているのは初めてだと思います。演奏者の位置でなくても自然な響きで聴こえるように狙っています。

■音源はグランドピアノを追求したアコースティックシミュレーターを搭載
■レコードで聴いて印象に残っている“あの音”を再現できる


――音源のほうも、グランドピアノのリアルな音を追求しているそうですね。

池田:グランドピアノの音色としては、まずPrivia GRANDが3種類あります。これは世界を代表するようなグランドピアノの音です。「CELVIANO Grand Hybrid」と同じく、響板の響きや弦の鳴り方など、グランドピアノならではの音の特徴を追求したアコースティックシミュレーターを搭載しています。


――本格的なクラシック向け以外の音色もあるんですよね。

池田:Privia GRANDでピアノとしての基本を押さえたうえで、BEST-HIT PIANOSというカテゴリーの音色も収録しました。たとえばちょっと年齢層が高めの方たちが以前好きだった曲とか、みんなが弾きたいと思う曲、いわゆるポップスやロックの名曲の音色です。
※サンプル音色はこちらから
https://music.casio.com/jp/electronic-musical-instruments/privia/tones/px-s7000/

――名曲で使っていたピアノという楽器を再現するのではなく、レコードで聴いた“あの音”を再現できると。

池田:そうです。皆さんの印象に残っている“あの音”、ですね。

――エレピの音色もあるそうですね。

池田:今回はエレピの音色も重視しました。アコースティックピアノ音色のみに注力する機種も多々ありますが、「PX-S7000」ではエレピにも注力しています。これもわかる人には“あの曲の音だ”とすぐわかると思います。ぜひこれらの音色を使って、憧れのアーティストになりきって演奏いただきたいと思います。

――音色の作り方でこだわったところは?

池田:ダンパーノイズとかキーオンアクションノイズといった、ノイズも再現しています。ダンパーノイズは、鍵盤を押さずにペダルを踏んだときにシャーンと響く音です。キーオンアクションノイズは、鍵盤を非常に弱く弾いた時にハンマーが弦に届かずに聴こえる機構的な動作音ですね。こういったグランドピアノの機構による音も再現しています。

――グランドピアノの音を再現するとなると、ここまで必要なんですね。

池田:これがないとけっこう違います。楽器の鳴りって、基本の音以外の部分も大きな要素なので、これも音色の一部だと考えています。このほかに「マルチ・ディメンショナル・モーフィングAiR音源」と呼んでいるんですが、弱打から強打まで、音色がなめらかに変化するところも特徴です。段階的にしか音色が変化しない電子ピアノも多かったんですが、これは変化がなめらかに感じられるのでリアルですし、自然な感覚で弾けると思います。

――鍵盤のタッチについてはどんな工夫がされているんですか?

池田:これは「スマートハイブリッドハンマーアクション鍵盤」といいます。従来のPriviaでは鍵盤を樹脂だけで作っていたんですが、この白鍵は樹脂と、グランドピアノにも使われるスプルース材を使用したハイブリッド構造です。これによってグランドピアノの自然なタッチを再現しながら高い演奏性を楽しめ、高級感のある質感も兼ね備えたスタイリッシュな仕上がりになっています。弾き心地のために、グランドピアノと同じように内部にハンマーが入っており、バランスを取るためのカウンターウェイトを鍵盤内に埋め込んでいます。



▲カウンターウェイトとハンマーを搭載しグランドピアノのような手ごたえがある。つまり弾き方や鍵域によって弾き心地が変わる。

――この中にハンマーが入っているんですか。

池田:そうなんです。ハンマーの自重による鍵盤アクションなので、グランドピアノのように弱く弾いた時には軽く動き出し、強く弾いたときは大きな手ごたえを感じる、といったように弾き方による手応えの変化があります。こういったハードウェアに「88鍵デジタルスケーリング技術」というデジタル技術を組み合わせて、1鍵ごとのハンマーの重さの違いも再現しています。つまり鍵域によっても弾き心地が変わるわけです。

――鍵盤のタッチで、開発者としてもっともリアルに仕上がったと感じるのはどんなところですか?

池田:実は、連打ができるところが一番リアルだと思っています。グランドピアノって、鍵盤が戻りきっていなくてもまたすぐ同じ音を弾くことができるんですが、アップライトは鍵盤が上まで戻らないと押しても音が出ないんです。「キーオフレスポンス」という機能で、戻しきらなくても音が出せる仕組みを再現しています。だから細かい連打ができるんです。


▲鍵盤を押さずにペダルを踏んだときにシャーンと響くダンパーノイズや、ダンパーペダルを踏み込む深さに応じた共鳴効果の連続的な変化にも対応。

――ペダルの感触もグランドピアノと同様ですね。

池田:これもグランドピアノのペダルを基に設計しています。ペダルも微妙な操作をするものなので、長さや抵抗感などで演奏のしやすさも違ってきますから。もっともよく使うダンパーペダルは、ただのオンオフスイッチになっているものも多いですが、これはグランドピアノと同じように踏んだ量を連続的に検出しています。だから微妙に踏み込んだときの、少しだけ音が伸びて音色も変化するというハーフペダルも再現できるんです。ソフトペダルについては、本物のグランドピアノのように鍵盤が動くことはありませんが、弦とハンマーの位置がずれることで変化する音の特徴を再現しています。

――“グランドピアノらしさ”を実現するために、もっとも重視したのはどんなところですか?

池田:電子ピアノというサイズやコストの制約がある中で、物理構造だけでなくソフトウェアによってグランドピアノの演奏性を実現できた、というのがこの製品の大きなポイントだろうと思っています。実際のグランドピアノって、構造も複雑だし演奏者も複雑な表現をすることがある。それにどれだけ追従できるかというのが大事だと思います。演奏者が表現したいものを指先でピアノに伝えたときに、楽器の機能や性能のせいでそれがスポイルされないようにと。

――電子楽器であっても、微妙な弾き方とか演奏者の個性がきちんと表現されることが大事なんですね。

池田:そうです。誰が弾いても良い音、ではなくて、弾いた人が思った音がちゃんと出る、ダメな弾き方ならダメな音が出る。そこまで追求したいと考えました。

――ではその他の機能についてもお聞きします。見たところボタン類が少ないですが、音色切り替えや設定などの操作について教えてください。

池田:インテリアと調和させるために、ボタンなどを極力排除して先進的なルックスにしたかったんです。それでいて操作性を損なわないようにしたのが、この光るタッチリングです。円形に光っているところに触れてクルクルっと回転させたり、上下左右にタッチしたりして操作することができます。物理的なホイールではないので動かした手ごたえはないんですが、回したときにクリック音がするようになっています。




――ボタンもタッチリングも、光が浮かび上がってくるような印象的なビジュアルですね。

池田:何も操作しない状態で6分経つか、電源ボタンを短く押すと、ピッチベンドホイールのみが点灯し、液晶画面や他のLEDは消灯状態になります。この状態から鍵盤を弾いたりボタンにタッチすれば表示が復活します。付属のワイヤレスMIDI&AUDIOアダプターを使う事でBluetooth®でスマートデバイスとピアノを接続させオーディオ再生もでき、楽曲を本体のスピーカーから鳴らせるんですが、ピッチベンドホイールのみが点灯した状態でBluetooth®オーディオで音楽を再生すると、曲に合わせてタッチボタンのLEDやタッチリングが点滅します。タッチリングはレコードの回転のような、タッチボタンは左右チャンネルのレベルメーターのようなイメージで光ります。

――音楽を聴いているだけのときにも盛り上がるんですね。

池田:そうです。演奏するときだけではなくて、生活空間の中で音楽を聴くときにも楽しんでもらえると思います。

――エフェクトもありますね。

池田:世界的に有名なホールの音響特性を再現するホールシミュレーターやリバーブ、コーラスなど、ピアノでよく使うようなエフェクトはひと通り装備しています。他におすすめの機能はアルペジエーターですね。鍵盤楽器の演奏を意識し、自然な表現が楽しめるようなパターンも入っています。ピアノの音色で演奏しながら、レイヤーのエレピ音色でアルペジオを再生する、といったこともできます。


▲背面:USB Type A端子、USB Type B端子、マイク音量つまみ、マイク入力端子:標準フォンジャック(TSフォン)、ラインアウト端子×2(R、L/MONO)、エクスプレッション/アサイナブル端子、付属ペダルユニット用コネクタ、電源端子

――Bluetooth®接続やマイク入力ではどんなことができますか?

池田:Bluetooth®でスマートデバイスなどに接続すれば、一般の音楽再生アプリや専用アプリ「CASIO MUSIC SPACE」から音楽を再生しながら一緒に演奏したり、音楽を聴いたりすることができます。「CASIO MUSIC SPACE」の「リモートコントローラー機能」を使えば、ピアノなどの音色を調整して好みの音色にモディファイすることもできます。マイク入力は弾き語りなどに使っていただきたいですね。マイク入力の音声にかけられるマイクエフェクトも搭載していますから、お気に入りの楽曲を好きな音色で弾きながら歌って、その曲の世界に浸る、といった楽しみ方ができるんです。


――そのほかにも色々な機能がありますが、開発者として、お二人がもっとも気に入っているところ、プッシュしたいところはどんなところですか?

池田:本体に加えて「CASIO MUSIC SPACE」を使うことでより楽しんでいただけるという点ですね。まずアプリについては、これまではアプリから本体機能のリモートコントロール操作をする機能を入れていましたが、今回はその逆も可能にしています。本体左側パネルにあるEXボタンを押すことで、アプリの機能を本体から操作できるようにしたんです。たとえばアプリ機能の“ライブ体験をする”の中の“ライブハウス”に入って演奏している際、演奏しながら本体のEXボタンを押すことで、アプリに内蔵された効果音を再生して盛り上げる、音楽を再生/停止する、“楽譜を見る”で表示している楽譜のページをめくる、といったアプリの操作ができるんです。このように本体のボタンに割り当てるアプリの機能を選べるようにしたことにより、ユーザーさんの好みの使い方に応えられる対応力の高さにもこだわりました。自分好みのPriviaをとことん突き詰めて作ることができるわけです。

中村:デザインの面では、ピアノとしての楽器の性能が高いにもかかわらず楽器らしからぬデザインであることですね。異質な取り合わせであるからこそ、新しいライフスタイルを提案できるデザインを実現できたと考えています。また、暮らしの中で使う場面を細かく想定しているところもポイントです。例えば、付属の鍵盤カバーにもこだわっていて、フエルト製のソフトカバーにしたことで、演奏しないときやBluetooth®スピーカーとして使うときなどには鍵盤を保護しながらも、よりインテリアに馴染む存在感になりますし、外したカバーはさっと丸めて本体の下にかけられるよう所作までデザインしています。



――本格的なクラシックピアノ奏者がターゲットではないと言いつつ、その中身がグランドピアノをとことん追求した本格的なものになっているのが面白いですね。

池田:もちろん本格的な演奏者の方でも満足していただけると思います。ただ、クラシック奏者が満足するような高い楽器性能を備えたデジタルピアノがクラシックだけのもの、という考え方を変えたいんです。だからこういうデザインを採用したし、名曲の音色やイルミネーションなど、楽しさを演出する部分もたくさん入れました。クラシックユーザーだけを見ていたらこうならなかったと思いますが、ポピュラー音楽を好まれるお客さまも想定したことで、こういう製品ができたんだと思っています。

取材・文:田澤仁




◆「PX-S7000」製品仕様へ
この記事をポスト

この記事の関連情報