【インタビュー】ディジー・ミズ・リジー、来日公演の裏側と2024年への想い

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ディジー・ミズ・リジーが2020年春に発表した4作目のオリジナル・アルバム『ALTER ECHO(オルター・エコー)』は、間違いなく同年を代表する傑作のひとつだった。そして、その誕生から3年半を経た去る9月に実現した約7年ぶりの来日公演もまた、確実に2023年のベスト・ライヴ候補になるはずの、きわめて純度の高い音楽的興奮を堪能できるものだった。

筆者は、ツアーの序盤にあたる川崎CLUB CITTA' での二夜公演を観終えた翌日にあたる9月18日の午前、都内某所にて彼らと話をする機会を得た。ティム・クリステンセン(G, Vo)、マーティン・ニールセン(B)、そしてソレン・フリス(Dr)。この3人と向き合っていると、何故だか取材というよりも「ちょっと一服しながら世間話でもしましょう」といった、仕事モードとは無縁のくつろいだ気分になる。ただ、そんな雰囲気の中での会話だからこそ引き出せたこともいくつかあるはずだし、何よりも3人の間を漂う穏やかな空気を感じ取っていただければ幸いだ。


ティム・クリステンセン(G, Vo)

──まずはお礼を言わせてください。CLUB CITTA' KAWASAKIでの二夜公演を存分に楽しませてもらいました。初日を観てその完璧さに満足していたんですが、翌日はそれをさらに超えていたように思います。

ソレン:嬉しいね。俺たちも同感だよ。

ティム:まさしく。サウンド的にも2日目には向上していたと思う。俺たちのクルーが会場の環境に、より対応できていたからでもあるはずだし、初日は到着から間もなかったというのもあるだろうね。しかしどうあれ俺たちは、こうして日本に来られてエキサイトしていたし、オーディエンスの気分も同じ理由で高まっているのが伝わってきたよ。

マーティン:みんなが7年待ってくれていたのと同様に、俺たちも7年待ち続けてきたわけで。だから日本が恋しかったよ。

ティム:しかもCLUB CITTA'はお気に入りの特別な場所だ。俺たちにとって小さ過ぎず大き過ぎない。ステージも充分に広いからアリーナでプレイしているような感覚もあるし、同時に親密な空気もある。とても好ましい演奏環境だと思う。

──来日アーティストからよく指摘されることのひとつに「日本の観客は演奏中にとても静かだ」というのがあります。今回の場合、ことに『ALTER ECHO』からの楽曲を演奏中はそうでしたよね? まさにみんな聴き入っているという感じで。


ソレン:彼らが音楽に集中してくれているのがわかるし、それは歓迎すべきことだ。デンマークでやっている時は飲みながら観てる人たち、演奏中でもお喋りが止まらない人たちの姿を見つけることもあるし、時にはステージに向かって何か言ってきたりもするしね。

ティム:ある意味、敬意に欠けていると感じさせられることも、ないとは言えない。

ソレン:うん。音楽のことなんか気にしてないんじゃないかと感じさせられることも、たまにある。だけど日本でプレイしている時は、誰もが音楽に没入してくれているのがわかる。それによって俺たちは、みんなから求められるものをもっとプレイしたくなるし、さらに良い演奏で聴かせたいという気持ちになる。それは良いライヴをやっていくうえで必要なことでもあると思う。

ティム:だから客席が静かなことについて、ネガティヴな感情はまったくない。音楽に集中してくれているばかりじゃなく、曲間で俺がマイクを通して何かを言おうとする時にも、それを聞き洩らすまいとしているのが伝わってくるしね。

マーティン:初めてデンマーク以外の土地でプレイした当時…たとえばそれは初めて日本に来た時のことも含まれているけど、立ち尽くして曲を聴いている人たちが結構多くて、みんなが俺たちの音楽を気に入ってくれているのかどうか、もっと聴きたいのかどうか疑わしく思ったこともあった(笑)。だけどこうして機会を重ねながら、あれは悪い兆候じゃなかったんだってことを学んできたよ。


マーティン・ニールセン(B)

ティム:そう、だから日本のオーディエンスの反応や振る舞いについてはしっかり理解できているつもりだ。ただ、ステージに出て行く直前には少しばかり奇妙な気分になる。というのも俺たちはイヤーモニターを装着していて、もちろん実際の演奏は聴こえる状態にあるし、BGMで流れている音楽もうっすらと聴こえてるんだけど、場内が満員だとわかっているのに、まるで人っ子ひとりいないかのような静けさなんだ。

ソレン:たまに“ゴホッ”とか咳込んでたりするお客さんがいるとわかるけど(笑)。

ティム:確かに(笑)。ただ、それほどの静寂の中、ステージに一歩踏み出して行って最初の一音を鳴らすと、“ぶわーっ!”ということになるわけさ。

ソレン:でも、あれは素晴らしいよね。

──勝手知ったるCLUB CITTA'で、日本のファンを前に演奏する。それはあなた方にとって好ましい演奏環境だということになりそうですね。

ティム:ああ、間違いない。

──ただ、今回の二夜公演についてはセットリストを組むうえで悩ましい部分もあったのでは? なにしろ数日後には『ALTER ECHO』の完全再現という特別な機会(9月21日、渋谷・クラブクアトロでの追加公演)を控えていたわけで、それとの差別化も必要だったでしょうし。

ティム:まあね。この夏、地元のデンマーク界隈ではたくさんフェスに出ていて、その際はまるで違うセットリストで演奏していたんだ。ただ、確実に言えるのは、CLUB CITTA'でのセットリストというのは、そういった一連のライヴの時と比べても…

マーティン:長いよね。

ティム:うん、長い。実際、CLUB CITTA'でのセットリストは、ステージに出て行く2時間ほど前に決めたものなんだ。確かにそこで1曲目に何をやるかについては、『ALTER ECHO』を全曲やる追加公演を控えていただけに、それと同じにせずにおくべきだろうとは考えた。ただ、セットリストというのは紙に書いた時にはいい感じだと思えていても、実際にその通りに演奏してみると「悪くはないけど明日からはちょっと変えてみようか?」ということになりがちなものなんだ。曲目は同じままでも、ちょっと曲順を入れ替えてみたくなったりとかね。だけど今回はそうする必要を感じなかった。

ソレン:うん、変える必要性は感じられなかったね。

──『ALTER ECHO』完全再現ライヴとの差別化を図るうえでも、オープニングでは意表を突いてくる可能性がありそうだとは思っていましたけど、まさかいきなり組曲的な「Amelia」を全編通して演奏するとは思いませんでした。あれは結構チャレンジングなことでもあるんじゃないかと思うんです。


ティム:デンマークでは何度かやったことがある。フェスとかではなく自分たちのショウの時にね。少しばかりリスキーなのは自分たちでもわかっているけど、すごくいい感じにやれるし、反応もとても良かった。だから日本でもこの形でやってみようじゃないか、という話になったんだ。集中力のあるオーディエンスだってこともわかっているし、日本でなら絶対に上手くいくはずだと思えたしね。実際、この2年ほど、あの曲については何度も議論を重ねてきた。なにしろトータル22分以上あるわけで、それを全部通して演奏するべきなのかどうか、やる場合にはセットリストの最後、冒頭、中間部のどこに配置すべきなのか…。ある意味、自分たちにとっては問題児的な曲になっていた(笑)。だけど俺自身としては、ショウの幕開けに置くことでパーフェクトに嵌まるという結論に至ったんだ。

マーティン:うん、いいスタートになると思う。

ティム:ただしそれは、大変なことではある。曲自体がデカいというか(笑)、音楽がたくさん詰まっているからね。

──ええ、お察しします。演奏に専念しなくちゃいけないのに、ある意味リラックスして臨むべき曲でもあるはずです。それを両立させるのって大変なことですよね?

ティム:まさしく!わかってくれてありがとう(苦笑)。

──実際、その問題にどう対処してるんです? 開演前にちょっとビールでも飲むとか?

ソレン&マーティン:はははは(笑)。


ソレン・フリス(Dr)

ティム:あのオープニングにシリアスに向き合うことは、ある意味、写真を撮るのにも似ている感覚なんだ。それこそ1曲目が(1stアルバムに収録の)「Glory」とかだったら長年やってきた曲だから慣れたものだし、特に意識することもなく容易にスタートできる。ただ、自分としては最初の瞬間から緊張を強いられるぐらいのほうが気に入っているのも確かなんだ。それによってショウ全体のヴァイヴが、焦点の絞られたものになってくる。もちろん時には神経質にもなるけども…。

ソレン:ドラムが最初に入る箇所でタイミングを逸するわけにいかない。その瞬間までは緊張感があるのは確かだね。

──なるほど。そういえば今回はキーボード奏者を加えた4人編成での演奏でしたね。彼の名前の読み方は…アナス(綴りはAnders)でいいんでしたっけ?

マーティン:そう、アナス。“d”は発音しないんだ。

──彼とは長い付き合いなんですか?

ティム:いや、ツアーをするにあたって4人目のプレイヤーとしてキーボード奏者が必要だということになった時、俺たちには適任者の心当たりがまるでなかった。そこでうちのギター・テックから、彼を試してみることを勧められたんだ。アナスなら技量的にも素晴らしいし、コンピュータなどのテクニカルな要素にも精通しているから、ということでね。

ソレン:たとえば俺がパッドを使えば賄える部分もあるけど、『ALTER ECHO』にはたくさんのキーボードが入ってるし、ドラムを叩きながらそれをやるとなるとえらく大変なことになるからね。

──ええ。そうなってくるとソレンには腕が4本ぐらい必要になってくるはずです。

ソレン:その通り(笑)。それならば4人目の誰かを入れたほうが良いという話になったんだ。

ティム:もしくは俺とマーティンが他のこともやることになる。当初はその可能性についても話したけど、それよりも4人編成で行くべきだろうという判断になった。アナスはすぐれたミュージシャンであるばかりじゃなくハーモニー・ヴォーカルを重ねるのも上手いし、それは従来このバンドのライヴにおいてはなかった部分でもある。それもあって、アナスに加わってもらうのはいいアイディアだと思えたんだ。彼は人間的に面白いやつだから、ツアーで長い時間を共に過ごすうえでも楽しいし、彼にはしょっちゅう笑わされてる。

ソレン:しかも若いしね。

──マーティンがハーモニー・ヴォーカルを担当するという話になったことはなかったんですか?

マーティン:ないない。俺はシンガーじゃないから(笑)。

ティム:やればいいのに。

ソレン:いや、どうか彼には歌わせないでくれ(一同笑)。

マーティン:その件はともかく(笑)、4人での演奏はなかなか心地いいよ。

ティム:今作をライヴで演奏するうえでは絶対そのほうがいいし、将来的に考えてもこの形態が上手くいくんじゃないかと思ってる。もちろんディジー・ミズ・リジーは3人組のバンドのままだけど、俺たちプラス誰か、というスタイルでやっていくのは有効なんじゃないかな。実際どうなるかはまだわからないけどね。あと今回、アナスに加わってもらって良かったなと思えたもうひとつの理由は、彼は今回が初来日で、完全に興奮してぶっ飛んじゃってるってこと(一同笑)。そういう様子を見ているのはこっちとしても楽しいしね。

──確かに。ところで細かい質問ですが、「67 Seas In Your Eyes」の演奏中、アイアン・メイデンのフレーズをちょこっと盛り込んでいましたよね?

ティム:イエス(笑)。咄嗟に思いついたことで、プランしていたわけじゃないんだ。あるセクションのメロディラインを弾いていて「あれ? これはちょっとアイアン・メイデンの「Wasted Years」っぽいところがあるな」と思って弾き始めたところ、2人もあの曲を知っていたから同調してくれて、ああいう流れになった。単純にメロディからの発想で、特に意図があったわけじゃないんだ。ちょっとやってみただけで、アイアン・メイデンの曲をフルで演奏したかったでもない。正直、歌詞も全部はわからないし(笑)。



──第二夜には「Wasted Years」に代わり「Trooper」を挿入していましたよね?

全員:ははははは!

ティム:次回は「Fear Of The Dark」でもやってみようかな(笑)。

ソレン:いつもあのパートが巡ってくると「ティムは何をやるつもりかな?」と思わされるんだ。まあ、楽しいジャムだよ。

ティム:おまえがいきなり何か叩き始めることもあるしな。

ソレン:まあね。

──いつかスレイヤーの曲も盛り込んでみてくださいよ。(注:この日、ソレンはスレイヤーのTシャツを着用していた)

ソレン:「ダダダン!」ってね(笑)。

マーティン:「Raining Blood」だね(笑)。

──さて、先程も話に出たように前回の来日から7年を経ているわけですが、『ALTER ECHO』の発売からもすでに3年半が経過しています。あの作品を今になって振り返ってみた時、反省点のようなものはありますか?

ティム:あのアルバムの出来栄えには今も満足しているし、いまだに時おり聴きたくなるんだ。もちろん自分たちの他のアルバムも気に入っているけど「他と同じように好き」というのとは違うな。スペシャルな1枚だと思う。後悔は何ひとつないね。

ソレン:とはいえ作詞面とかでは、完全な満足には永遠に到達できないようなところもあるんじゃないの?

ティム:それはある(笑)。あと、白状すると実はひとつだけ後悔してる点がある。「Boy Doom」のあるセクションがちょっと長かったかな、という気がするんだ。それを除けばすべて満足だよ。

マーティン:俺もいまだに満足してるし、こうして3年以上を経ても、やっぱりときどき聴きたくなるよ。

ティム:インストゥルメンタル・ヴァージョンも聴いたりする?

マーティン:ごくまれにはね。あれももちろん気に入ってる。

ソレン:うん。それも含めて、『ALTER ECHO』は俺たちの現時点でのベストなアルバムだと思う。

──僕もインストゥルメンタル・ヴァージョンも愛聴していますよ。単なるカラオケではないし、まさに楽器が歌っていますよね。


ティム:そうそう。メロディが物語を語っているというか。確かあれはチープ・トリックの曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンを聴いた時のことだったと思うんだけど、それ自体は単にヴォーカルを抜いただけのものだったにも拘らず、すごく聴き応えがあって、興味深いものが見えてきたんだ。ヴォーカルを除去することによって、それまでとは違ったところに耳が向かうようなところがあって、たとえばギター・パートがより浮き彫りになったりする。楽器を演奏しないリスナーでもそうした発見があるはずなんだ。

ソレン:自分の立場から言えば、長い時間をかけてアルバム制作に取り組んでいる時、ヴォーカルが入る以前のトラックを毎日のように聴いていたりするわけだけど、その段階で「このままでもイケてるじゃないか」と思ったりすることは多々あるよ(笑)。

マーティン:俺たちみんな、ここ3~4年はインストゥルメンタル・バンドもかなり聴いてきたしね。それこそ日本のMONOとかもグレイトだと思う。

ティム:まさしく。実際、ポスト・ロック、ポスト・メタルと呼ばれるようなバンドのインストゥルメンタル作品に、かなりのインスピレーションを得てきたよ。ブラック・メタルとか、それ以外にも…

マーティン:スラッジとかね。

ティム:そう、興味深いインストゥルメンタル・バンドがたくさんいる。MONOもそうだし、日本にはtoeというバンドもいるよね。知ってる? 彼らの音楽も大好きだ。

──toeは知っていますし、刺激的なインストゥルメンタル・バンドがたくさんいることにも同意します。ただ、歌うことも忘れずにいてくださいね!(一同爆笑)

ティム:大丈夫、大丈夫(笑)。

──開演前のBGMとしてMONOのアルバムを流していましたよね。X(twitter)にそのことを書いたところ、「聴いてみました。嵌まりました!」みたいな反応がたくさん届きましたよ。

ティム:それは素敵なことだね。実は初日のライヴをMONOのメンバーが観に来てくれたんだ。とても光栄なことだよ。

──そうして繋がりが生まれていくのも素晴らしいことですね。さて、繰り返しになりますが『ALTER ECHO』の発売から3年半が経過している今、すでに新しいマテリアルに取り掛かっていたりはするんでしょうか?

ティム:……(笑)。

ソレン:常に何かしらやっているよ、ティムは。

ティム:何かしらはね(笑)。突然「よし、行けるぞ」と感じることがあるんだ。そしてデモを作り、それを2人に送る。そこから始まっていくのが常なんだ。

ソレン:だけど、今はまだだね。今はこのツアーが最優先だし。

ティム:そう。ただ、この日本公演を終えるとしばらくライヴもないし。

ソレン:そのあとで新たなマテリアル作りのために時間を何年か費やすことになる。

マーティン:何年か、ということはないよ。

ソレン:ああ、確かに。1年ぐらいかな?

ティム:まあ、しばらく様子を見ることになるだろうね。

──2024年はスタジオで過ごす時間が長くなりそうですね。

ティム:おそらくね。それなりの時間をスタジオワークに割くことになるだろうな。まだわからないけど。

──来年は同時にデビュー・アルバムの発売30周年にあたる年でもありますよね?

ティム:…間違いない(苦笑)。

──あなた方にとってはスペシャルな年ということになるのでは?

ティム:アニヴァーサリー・ショウのようなものをやるべきじゃないか、という話は出ているよ。だけど正直、それがいいアイディアだとはあまり思えなくてね。1stアルバムからの曲たちというのは俺たちがずっとプレイしてきたものだし、それを改めて全部やる必然性をあまり感じないんだ。俺としてはむしろ、新しいものに気持ちを向けていたいし。もちろん1stアルバムについて嫌な感情があるわけじゃないし、あの曲たちを拒絶しようってわけでもない。むしろ、今なお多くの人たちに愛してもらえているのは素晴らしいことだと思っているけど…。

ソレン:いまだにあのアルバムの曲をプレイするのは好きだよ、これだけ経っても。

ティム:だけどそれは、あのアルバムの曲に限ったことじゃない。長年ずっと演奏してきた曲たちについて、30周年だからといってことさら特別扱いすることに意味があるとは思えないんだ。

マーティン:確かにそれは言えてる。

ティム:ついでに付け加えておくと、1stアルバムの中には常にプレイしてきた曲たちもあれば、ほとんどやってこなかったものもある。自分としては、後者のような曲たちはさほど良くないと思っているところもある(笑)。すっかり演奏しなくなっている曲の中にも「Hidden War」みたいに、とても気に入っているものはあるけどね。

マーティン:「Wishing Well」とかね。あれは何回かプレイしてきたけど。

ティム:あとは「…And So Did I」とかもね。

──そういった「長年プレイしていないけど実は気に入っている曲」を聴けるのも、ファンにとってはアニヴァーサリー・ショウの魅力であるはずです。ただ、僕自身もべつに1stアルバムだけに特化した何かをやって欲しいと思っているわけではなくて、むしろそれぞれのアルバムをテーマに据えた4日間のライヴが観てみたいな、と思っているんです。

ティム:ああ、そのアイディアのほうがベターだと思う。

──1998年にチープ・トリックの『AT BUDOKAN』が発売25周年を迎えた時、彼らがどんなライヴをやったかは知っていますか?

ティム:確か、最初の3枚のアルバムそれぞれの再現をしたんだよね? その時、各公演はアルバムの完全再現だけに徹したものだったのかな? それともそこに他の曲もプレイしていたの?

──4日間連続の公演で、最終日は『AT BUDOKAN』から漏れている曲も含めて往年のライヴを丸ごと完全再現し、その前の3日間の本編では初期の各アルバムの全曲をプレイしていました。ただ、当然ながらそれだけだとすぐに終わってしまうので、そのあとでレアな曲などもたっぷり聴かせてくれましたよ。二部構成のような感じで。

ソレン:それは素晴らしいアイディアだ。

ティム:いいかもしれないね。確かその時はスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンがゲスト出演したんじゃなかったっけ?

──ええ。しかもリック・ニールセンのセーターを着て、彼のギターを抱えての登場でした(笑)。というわけで、次回は「4日連続のショウ」を期待したくなるところですが(笑)、いずれにせよ1stアルバムの登場から29年もの年月を経ていることに驚かされます。当時のあなた方は20歳前後だったわけですけど、来年にはいよいよ大台に…

ティム:しーっ!(笑)

ソレン:俺はひと足早く、今月(=9月)のうちに50歳になるよ(笑)。40歳になった時にはまだまだ若いつもりでいたけど、さすがに50歳となると明らかに人生の半分以上を経てきているわけで、いろいろ考えさせられもする(笑)。ただ、今も気持ち的には若いままでいるし、プレイすることも楽しめているよ。

ティム:実際、ドラマーとして過去最高の状態にあると思うよ。

ソレン:ありがとう(笑)。今ではライヴでもリラックスした気分で演奏できるようになっているしね。音楽をプレイし続けることが若さを保つ秘訣なんだ。3人の子供の父親だっていう現実には年齢を実感させられるけどさ(笑)。

ティム:学生時代の同い年の友達、しかも音楽をやってないやつと会うと、えらくみんな老け込んでたりするんだよ(笑)。

ソレン:ステージでプレイすること、ツアーすることを通じて、生きていることを実感できるんだ。それがこの仕事のいちばん素晴らしい部分だと思う。

ティム:ミュージシャンに限らず、音楽の世界で生きている人たちは若々しいよ。

ソレン:もちろんみんな年は重ねていくけどね。かつて自分たちのヒーローだった人たちはみんな70代になっていたりするし。

──ええ、昨今は70代の人たちがデビュー50周年を迎えていたりするわけです。そういえばデビュー当時のディジー・ミズ・リジーには、時代的な理由や単純に3人編成であることから「ニルヴァーナに対するデンマークからの回答」といった形容が伴うこともありました。

ティム:あったね、そういうの(苦笑)。

──その後はもっと音楽的な意味でザ・ビートルズなどと比較されるようにもなり、近年ではプログレッシヴ・ロックと呼ばれることも多くなっています。そうした形容のあり方の変化についてはどんなふうに感じていますか?

ティム:いつの時代も、どこかプログレ的な部分というのは少なからずあったように思うし、今の音楽スタイルも若い頃からの延長上にあるものだとは思う。ただ、自分たちの音楽がグランジだったことは一度もなかったはずだ。確かに時代的にシアトル界隈からのインスピレーションが豊富な頃ではあったけど、そのジャンルに属していたつもりはないし、いわゆるポスト・グランジというやつとも違うと思う。今の自分たちの音楽は、メロディックなハード・ロック、ブラック・メタルとそれ以外の何かの中間みたいな感じかもしれない。自分でもよくわからないけど(笑)。

マーティン:いずれにしてもグランジじゃないことは確かだ。しかもグランジと呼ばれるバンドは実は結構それぞれに違っていた。ニルヴァーナとピクシーズ、サウンドガーデンがお互い似ていたとは思わないしね。

──ええ。あなた方はアメリカの市場とは無関係なところで、何か新しいものを発明したのかもしれません。

ティム:そうかもね。それをなんて呼んだらいいんだろう?

マーティン:これぞニュー・グランジだ(笑)。

ティム:ニュー・ウェイヴ・オブ・グランジとか?(笑)

マーティン:もしくはニュー・グランジ・メタル!(笑)

──呼び名はどうあれ、あなた方の音楽がこの先どんなふうに進化していくのかも楽しみです。そして次回の来日公演まで7年も待たずに済むことを願っています。

ティム:ありがとう。俺たちもそう願っている。出来るだけ早く戻って来たい。

ソレン:新しい音楽、新しいアルバムと一緒にね。

ティム:そのためにも、もう二度とパンデミックが起きないことを願ってる。

ソレン:ニュー・グランジも嫌だけど、ニュー・パンデミックも勘弁して欲しいね(笑)。

マーティン:次のアルバムのタイトルは『NO NEW PANDEMICS』とかでいいんじゃない?(笑)

ティム:ははは(笑)。いずれにせよ今回もこうして戻って来られて大きな喜びを感じているし、前回から時間が経ち過ぎているのもわかっている。次回はこんなに待たせたりはしない…と約束めいたことを言っておくよ(笑)。そしてみんなからのサポートにはいつも感謝してる。

ソレン:日本のオーディエンスの前で演奏するのはいつだって自分たちにとってかけがえのない喜びだし、またじきに戻ってくるよ。

マーティン:そして、いつも辛抱強く待っていてくれてありがとう。どう考えても7年というのは待たせ過ぎだよね(笑)。



取材・文・オフステージ撮影◎増田勇一
ライヴ撮影◎深野輝美

◆ディジー・ミズ・リジー・レーベルサイト
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