【インタビュー】由薫、1stアルバム『Brighter』に1年半の軌跡「“より輝きます”という決意を表明したかった」

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■「これから前に進み続けます」ということを
■言えるようになるまでの曲達が収録されたアルバム


──前回インタビュー時にお話があったスウェーデンで制作した曲からも、3曲がアルバムに収録されました。

由薫:スウェーデンでは10曲以上作っていて、サウンド感的にもいろいろな曲があるんですけど、今回のアルバムには、今までリリースした曲と近いものを入れていった感じです。なので、ここに収録しなかった曲は、もっとサウンド的に開けているものや攻めているものもあるので。そこも楽しみに待っていてほしいですね。

──そうなんですね。「Blue Moment」「E Y E S」「Hangry」という曲からも、スウェーデンでいろんなチャレンジをしていたんだなとか、もがきながらも何かを掴もうとしていたんだなということが見えます。「Hangry」はガレージ感があって、歌詞もサウンドのノリから生まれている感じがしますし、痛烈さもストレートに出ている曲ですね。

由薫:「Hangry」の曲作りは、スウェーデンのすごくきれいな湖の近くのスタジオで、作家さんたちとセッションしながら作ったんですけど。エリック(Erik Lidbom)さんと「E Y E S」「Blue Moment」を作って。「Hangry」はニルス(Nils rulewski Stenberg)さんも入って3人で作ったものです。ニルスさんは年齢的に私と近かったので、感覚が近くて。「ギターをかき鳴らすような感じの曲を」ということを話ながら作ったり、すごくいいセッションができました。感覚的には「Rouge」と似たような世界観を持っている気がしたので、今回のアルバムに収録した形です。



──そのセッション時から歌詞はあったのでしょうか?

由薫:実は第一稿として書いた歌詞はまったく違う内容だったんです。“シンデレラ”っていう言葉が入ってたり。でも、もっと言葉自体のスピード感を出したかったので、そういう観点で書き直しました。タイトルの「Hangry」は、お腹が空いているという意味の“hungry”と、怒っているという意味の“angry”を混ぜた造語で。自分が音楽を始めたときって、「ネガティヴな気持ちとかは大事なものなんじゃないか」とよく言っていたんですね。「欲」(2023年5月発表EP『Alone Together』収録曲)も、そういう気持ちから作った曲だったんです。間違ってるとわかっているのに、周りのみんなが「違う」と言ったら、そこに飲み込まれてしまう経験は、幼い頃から海外と日本を行き来しているなかでよく味わっていたことなので。それを歌詞にしたら、きっと共感してもらえる人もいるんじゃないかなって。

──特に日本語パートの“あたりまえです それが答え”というところには、沸々とした思いがボーカルに乗ってます。

由薫:全部実体験ですからね。結果的に、私は国語が大好きになったんですけど、最初に日本の小学校で国語を習ったときは、何を答えても「間違いだ」って言われて。でも、そこに正解/不正解はないだろうなと思っていたり。あと、学習塾にすごく怖い先生がいて。英語の授業で“マインドは頭”で“ハートは心”っていうことを説明していたと思うんですけど、「じゃあ、心はどこか指さしてみて」と言われたんですね。そのとき、私は泣きそうになると喉のあたりが苦しくなることがあるから、「心はここですかね」って喉を指さしたら、ものすごく怒られてしまって(笑)。

──自分の感覚を答えたら…ということですね。

由薫:「2択しかなかったはずだ! そこで違うところを指さすなんておかしい」って言われたことを今でも鮮明に覚えていて。そういう記憶も曲に落とし込んじゃえと思って書いたた歌詞です。スウェーデンからこの曲を持ち帰ってきて、そういう実体験とか無念も盛り込んで書き上げたという。音楽だからこそ乗せられる思いってあるし、こういうサウンド感だからこその言葉を入れたいなと思ったら、こういう歌詞になりました。


──同じくスウェーデンで制作した「E Y E S」は、また雰囲気が違ってメロウで切ないR&Bチューンです。

由薫:アルバムだからこそ遊びがある収録曲というか。最近は、なかなかアルバム単位で音楽を聴かなくなっていることが話題になりますけど、私はアルバムを聴くときに、アルバムだからこその曲って結構好きだったりして。なので、「E Y E S」も入れてあげたいと思っていたんです。

──ミディアムテンポのビートに乗って自由に歌っている感じがありますね。歌詞のタッチもよりカジュアルな感じで、今っぽいキャッチーさがある。

由薫:今回のアルバム制作では、歌詞に悩むことがすごく多かったんです。あまり考えすぎて、頭でっかちになってしまうのはよくないと思ったり。どうしてもその日までに書かなきゃいけないっていう歌詞の締め切りがあったので、頭で書くことは一旦忘れて、音が引き出してくれる言葉をそのまま書いてみたら、出来上がったのが「E Y E S」。実は、普段の私が書きそうな内容でも歌詞を書いていたので、この曲は歌詞が2パターンあったんです。私は後者の歌詞を採用していたんですけど、周りのスタッフさんが「たまには“♪マッチ 着火 爆発”とか歌詞で言ってもいいんじゃない?」と言ってくれて(笑)。

──いいと思います。

由薫:はい(笑)。確かに“アルバムだからできることだな”と思って、前者の歌詞を採用したんです。ボーカルにオートチューンがかかっているじゃないですか。そこもレコーディング中に「オートチューンをかけてみようか」って意見がその場で出て、やってみたら「いいかもね」ってなったり。そういう行き当たりばったりな感じも、これまで楽曲制作を一緒にやってきたみんなとの絆があるから、できたチャレンジだなと思います。

──オートチューンをかけるっていうのも、自分からはなかなか出ない発想ですか?

由薫:“聴いている人がびっくりするんじゃないか”ということを気にしちゃって、自分ではやらないんです。でも、12曲収録のアルバムのなかで、やりたいことをどんどんやっていいんだっていう機会をもらえたと思いました。どんなチャレンジをしても、たとえ違った音を使ったとしても、自分らしさってどこかに出てくるものだなって思って。「E Y E S」も最後のほうは自分らしくなった気がします。そういうことでも勉強になったというか。



──スウェーデンでの制作もそうですが、この1年半の経験は、自分自身や自分の音楽をすごく考えた時間となったようですね。

由薫:自分がやりたいことをやることが、クリエイティヴの第一段階にあると改めて思いました。特に「星月夜」以降ですかね、いろいろなことをすごく考えたのは。たくさん迷って、気持ちも上下したなかでできた曲たちなんですね。最後の「brighter」は、それをすべて受け止めるような気持ちで書いたんです。アルバム『Brighter』をリリースすることって、“これからちゃんと前に進み続けます”という自分に対しての決意表明でもあったりするので。そういうことを言えるようになるまでの曲たちが収録されたアルバムという感じです(笑)。

──特に「星月夜」は、デジタル再生数が4億回を超えるなど、たくさんの人が由薫さんを知るきっかけとなった曲でもありました。アルバム制作には注目度という意味でのプレッシャーもありましたか?

由薫:そうですね。音楽っていろいろなクリエイティヴのなかでも、特に自分自身との距離が近しいものだと思うんです。自分で書いた歌詞とメロディを自分自身でパフォーマンスするし、とりわけ声って何も介さないものなので。“音楽は楽しい”という気持ちはもちろん、自分が発するものへの責任。そういうことって、たくさんの人に聴いてもらえたからこそ、より意識するようになったんです。でもそれって「星月夜」に注目してもらえたこと以前に、メジャーデビューしてしばらく経ったタイミングだったからというのもあったと思います。改めて、自分がどうなっていきたいのかとか、パフォーマンスをずっと続けるにはどうするべきかとか、どういうことを受け取ってほしいのかに悩みながら、日常を過ごしていた感じがします。

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