【ライブレポート】SOMETIME’S、2年ぶりワンマン。会いたい人に会いに行くような昂りと嬉しさ

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2月23日、SOMETIME’Sがワンマンとしてはおよそ2年ぶりとなるライブ<SOMETIME’S Oneman Live Tip of Penny>をSpotify O-nestで開催。震えるような寒さの中、会いたい人に会いに行くような昂りと嬉しさが温かい時間に帰結したような素晴らしいライブになった。

◆ライブ写真

今回は2月7日にデジタルリリースした『a part EP』からの新曲の披露も楽しみなライブ。同作は昨年リリースの「blue」や「Regret」も含み、サウンド的にも歌詞の内容的にもSOMETIME’Sの持ち味を1曲ごとに今一度突き詰め、ブラッシュアップした6曲を収録。ブラックミュージックのエッセンスをポップに昇華した彼らのベーシックなスタイルをはじめ、生き方にフォーカスした普遍的なバラードなど、まさに彼らの“a part”が明快に伺える作品だ。かと言って今回のライブは肩肘張った決意表明めいたものではなく、サポートメンバーとのミュージシャンシップや、より人柄が滲み出るフランクなMCで、これまで以上にステージとフロアの距離が近づいた印象を残したのだ。


さまざまなバックボーンを持つ幅広い世代のファンが待望の眼差しを送る中、オープニングSEが流れ、サポートメンバーの冨田洋之進(Dr / Omoinotake)、佐々木恵太郎(B)、清野雄翔(Key)、永田こーせー(Sax /Fl)が位置につき、少し遅れてTAKKI(G)とSOTA(Vo)が姿を現すと、拍手と歓声はさらにボリュームアップ。抑えめなオレンジの照明の中、SOTAのアカペラ始まりの「I Still」で1曲目からフロアの集中力が一気に高まる。加わっていくピアノ、ドラムパッド、クリーントーンのギターカッティングなど全てが選び抜かれたサウンドである。アンサンブルの妙に引き込まれたオーディエンスに向け、満面の笑顔でスポットライトを浴びるSOTAが「やろうぜ!」と煽り、爽快に「Honeys」のビートが走り出し、永田のサックスが1本と思えないほどの勢いを与え、ソロに歓声が沸き起こる。





「寒かったでしょ? よく来たね、みんな。楽しんで行こうぜ!」と声をかけるSOTAだが、彼がこの場で一番楽しそうでもあり、それに釣られてこちらも笑顔になる。2曲ですでに場が温まった中、新曲「Wonder of Love」の軽快なイントロが流れ込んでくる。口笛のSEに加えて、ライブでは永田のフルートがブライトな色を加え、TAKKIの洒脱なカッティングや清野のスペーシーな音色が“恋の不思議”をカラフルに立体化して行く。70年代のAORや部分的にはビートルズを彷彿させるコード進行やアレンジをモダンにアップデートしたこの曲は明らかに新しいフックになっていた。ライブ初披露とは思えないほど自然な盛り上がりを見せたのは曲が持つ人懐こさのせいかもしれない。

一転、エイティーズっぽいシンセのイントロが都会の夜に景色を変える「Drug cure」では冨田と佐々木のリズム隊が叩き出すタイトなビートに自然とクラップとダンスが起こる。曲を聴き込んでいるファンの多さを裏付けるように、SOTAのラップパートや、TAKKIのハードに切り込んでくるギターソロへのリアクションが熱い。しかも楽しみ方は人それぞれだ。続く「Simple」もマイナーチューンで曲の繋がりの良さを感じるが、音源よりグッとオーガニックで隙間の多いアレンジで、SOTAのボーカルがよく届く。ギター、ベース、サックスのリフがユニゾンで迫ってくるパートへのビビッドな盛り上がりも、このメンバーならではの楽しさが溢れる。


MCタイムではライブタイトル「Tip of Penny」の意味するところである、ほんのちょっとの何か楽しい気持ちを持ち帰ってもらおうという趣旨でフリートークを展開。SOTAは彼の幼稚園生の子どもがこの年末年始でJ-POPに開眼したことをオチのあるネタトークとして開陳。いい父親像も窺わせながら、深夜ラジオ好きだったり、オードリーの春日の影響を感じさせる語り口に笑わせてもらった。

SOTAのMCで大いに沸いたあとは「『a part EP』ってEPを出したんですよ。めちゃくちゃいい出来だと思っていて。その中から「エンドロール」聴いてください」と曲振り。無邪気で輝いていた若い恋のかけがえのない時間の思い出を大人になって俯瞰しているような穏やかさと切なさがじんわり沁みる。レイドバック気味の冨田のビートが心地よく、エモーショナルになりすぎることなく曲の温度をライブでも届けていた。新曲の披露は続き、「エンドロール」の主人公が実はまだ抱いている気持ちのように「Regret」へつながる。隙間の多いアンサンブルの上で日本語と英語をスムーズに行き交い、静かなところから熱く駆け上がるSOTAの表現力が際立っていた。さらに作られた時期は違えど、信じていてくれる人が“君ならまだやれるよ”と言ってくれるような心強さを感じる「Morning」は今回、ホーン抜きのピアノが印象的なアレンジ。「エンドロール」から続く歌詞の流れにもマッチしており、つくづく良い曲だと再認識できた。


じっくり曲の世界を堪能した後は再びフリートークへ。クールなイメージがあるTAKKIだが、最近非常に涙脆いという具体例をいくつも挙げ、これまで知り得なかった彼の繊細な部分やユーモラスな部分も珍しく曝け出してくれた。結果的に今の二人の想いがかつてなく高い解像度でわかったところで後半の選曲が効いてきた部分もあったのではないだろうか。再び新曲を披露したブロックの1曲目は、SOTAの歌とピアノ伴奏で始まる「blue」。曲が進んでいくごとに心の叫びや懇願が熱を帯びていくボーカルの迫力と、その熱に寄り添ってフレーズを加えていくTAKKI。少しブライアン・メイを思わせる音色選びも素晴らしかった。さらにこの日、SOMETIME‘Sに新たなアンセムが誕生したと確信したのが新曲「不撓」の披露だった。エレクトロニックで透明感を湛えたオーバーチュアのギターが先導し、プリミティヴなビートがまさに不撓不屈を思わせる。太陽のように明るいSOTAが人生のブルースを歌うからこそ響くこの曲で明らかにフロアの集中力がまた別の次元に入ったように感じられ、続く「Slow Dance」が持つナチュラルな曲の良さも際立った。


SOMETIME’Sが持つチアフルな曲からクールで時にユーモラスな都会的なナンバー、大人のラブソングや人生におけるブルースをいくつかのブロックで表現してきた本編の充実感に満たされるフロア。それでもSOTAが残りが2曲であることを告げるとあからさまに残念そうな声が上がる。そのリアクションも嬉しそうな彼はメンバー紹介を行い、会場限定盤だった「Slow Dance EP」収録の「Stand by me」へ。この曲ではソロ回しが恒例化しているが、この日はさらにライブタイトルの“Penny”を盛り込んだコール&レスポンスで盛り上げる。SOTAが発する“ッぺ!”など、単音の応酬はまるでトランペットのアドリヴのよう。ファンのノリの良さでさらにヒートアップしていく。「You and I、愛してるよー!」とラストナンバーのタイトルコールをして、突入したこの曲ではクラップのボリュームも自然と上がり、バンドの演奏もグルーヴを増し、エンディングに向かって加速していった。SOTAとTAKKIの関係性を描いた曲であると同時にSOMETIME’Sとファンの関係に重なる、なくてはならない1曲に定着した印象も強く残したのだった。


本編13曲の中で演奏が始まるごとに「まだまだ聴きたい曲がある」ことに気づくことが多かったこの日。久々のワンマンだからでもあるが、彼らの曲がしっかり自分に定着していることも自覚した。「もうちょっとやって帰ります」というアンコールでのSOTAの「もうちょっと」に期待した人も多かっただろう。アンコール1曲目はゴスペルを昇華した「Hope」で、曲調も含め、クラップが醸す力強さはライブならでは。その後、この日はフロアの最後尾でマニピュレーターとしてサウンドをコントロールし、見守っていたアレンジャーの藤田道哉をはじめ、ライブPA、照明オペレーターも紹介し、温かい拍手が贈られる。ここにいるすべての人で作り上げたライブを実感しながら、ますます声の調子を上げてきたSOTAと楽器の抜き差しを味わう「Take a chance on yourself」、最後の最後に屈託や悩みを風に乗せて吹き飛ばすようなに痛快な「シンデレラストリー」で締め括り。誰もがまだこのグルーヴの中で踊りたい熱を宿していることが、鳴り止まない拍手に現れていた。

文◎石角友香
写真◎sotaro goto

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