コンピュータは、やり方さえ入力すればファンキーになれる

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コンピュータは、やり方さえ入力すればファンキーになれる


 

 

'87年、イギリスのDJ2人組ColdcutJon Moore現在43歳、Matt Black現在38歳)は、疑うことを知らぬ民衆に向かって新しい音のアイデアを砲撃した。彼らの1stシングル「Say Kids, What Time Is It?」は、イギリス初の全面的サンプリングによるレコードで、いまやコレクターズアイテムである。その後Yaz「Doctorin' The House」やLisa Stansfield「People Hold On」などヒット曲のプロダクションワークを手がけていた彼らは、Eric B & Rakim「Paid In Full」のリミックスでポップミュージック界の注目を浴びる。かつてリミックスアーティストといえば、珍奇なレコードとドラムマシンと自慢のワザで取るに足りないことをする連中という受け止め方が一般的だった。しかし、分厚いビートと狂乱のスクラッチ、そして(Ofra Hazaの好意により)中東風ヴォーカルをつぎはぎした「Paid In Full」のリミックスは、そんな認識を一変した。最も有名なDJといえば、まだママのお気に入りのWolfman Jackだった時代に、Coldcutは未来志向のエレクトロニックカルチャー、エレクトロニックミュージックという新しい世界を切り開いたのである。

「メジャーレーベルと契約問題に溺れていた」日々が去り、Coldcutは'93年に先鋭的なエレクトロニックミュージックのレーベル、Ninja Tuneを設立した。現在Ninjaは現在、実験的な趣向を持つレーベルとなり、NeotropicやAmon Tobin、Kid Koala、Funki Porciniやthe Herbaliser、そしてMattとJonがPatrick Carpenterと組んでブレークビート志向の曲を作るときのサイドプロジェクト、DJ Foodなど、今日活躍している最良のミュージシャンの多くが、このレーベルからレコードを出したりデビューしたりしている。Coldcutはまた、オーディオヴィジュアル用ソフトウェア「VJamm」を使って、映像の世界も開拓している。シングル「Timber」には、EBNとClifford Gilberto、そしてProtean Vision Questが映像をリミックスしたQuickTimeムービーが付いている。

LAUNCHでは、ダブリン映画祭での公演の前と後にMattとJonから話を聞いた。


――アメリカとヨーロッパを比較して、エレクトロニカのシーンは違っていますか? また、好きなバンドを教えてください。

JON:
「エレクトロニカ」という言葉の意味は広すぎるのと同時に狭すぎるので、僕の好きなバンドにはうまく当てはまらない。ヨーロッパではFridgeやSono Vac――これはイギリスのバンド――や、Tar Water――これはドイツ――が面白いことをやっている。「エレクトロニカ」という言葉は、ただの営業用の看板さ。アメリカでは、エレクトロニックミュージックが違う受け止められ方をしている。Tortoiseのようなポストロックのバンドがやってることが多い。アメリカのほうがロックっぽいな。

MATT:
アメリカとヨーロッパのあいだに断絶があるわけじゃない。新しいアイデアは両大陸のあいだを行ったり来たりしているし、そういった事態をとおして今後エレクトロニックミュージックの根源が解放されていくだろう。アメリカで好きなのは、DJ Shadow、Steve Reich、Rakim、Spacetime Continuum、そしてThe Beastie Boys。ヨーロッパでは、Irresistible Force、Air、BBC Radiophonic Workshop、そしてBedouin Assent。


――DJ Foodはブレークビート志向で、メロディックな要素が少ないように見受けられます。一方Coldcutの作品にはメロディックな要素が多いと思うんですが、両者の違いはなんでしょう? また、どちらのほうが難しいですか?

JON:
DJ Foodの作品はドラムとリズムの祝宴だ。それはDJたちの食糧だ。DJ Foodの曲に明確なキーはないし、なんらかの範囲に収まらなくていい。それは、より自由に音楽を作る方法なんだ。一方のColdcutには歌が入る。こっちのほうが難しいね。

MATT:
2つある。まず、DJ Foodはもはや、DJ向けのレコードシリーズ-ジャズブレークではない。次に、Coldcutがやろうとしてるのは、アーティストとサンプリングの両方が入った歌を作ることだが、DJ Foodがやろうとしてるのはリズムだ。歌を書くほうが難しいよ。サンプルをつないでいくのは実に簡単だ。


――音楽の未来、また映像の未来はどこにあると思いますか? その両者のなかで、Coldcutの占める位置はどんなものですか?

JON:
音楽と映像は、マルチメディアの道具をとおして、いま収束しつつある。今後、エレクトロニカやDJを起用するバンドが増えるにつれて、映像についての理解は深まるだろう。コンピュータの力によって、人がどこにいるのか、どこで仕事をしてるのかということは、どうでもよくなっていくんだ。未来は、ラップトップスタジオにある。ラップトップによって、さまざまなものが収束していく。Coldcutの位置は、それを受け入れて実際に使っていくところにある。

MATT:
音楽と映像のコラージュは、手作りのエレクトロニカが自然に発展したものだ。音楽を作ることがいいことだとしたら、音楽と映像を合わせて作ることはもっといい。それは、サイケデリックな映画だ。その可能性はどんどん広がっているし、いま僕たちがやってる流れにみんなが入ってくるだろう。そのとき、VJammが役に立つと思う。マルチメディアそのものは、なんら新しくない。オペラはマルティメディアだよ。

新しいのは、デジタルメディアを使ってインタラクティヴな形態で音楽と映像を融合すること。新しいのは、ダンスによって、あるいはファンキーな作曲アルゴリズムによって、曲をどう変えるか選択できることなんだ。それは、生物学と遺伝学の関係に似ている。レコードは情報の海だ。そこにはさまざまな要素が泳いでいて、遺伝子のように組み換えを行なっている。その海を航行するのに役立つソフトウェアは、とても重要になる。生物学者のRichard Dawkinsが生命形態と遺伝アルゴリズムについて言ってることを参照してほしいね。



――あなた方のオーディオヴィジュアルソフト「VJamm」について、すこし聞かせてください。

JON:
'90年から'93年のポストアシッドハウスの時期に、僕たちはメジャーDJの領域からオルタナティヴな領域に移行して、Telepathic FishやMegatrip、the Big Chillといったアンダーグラウンドのクラブで活動を始めた。そういったクラブは最盛期に、ハードなビートよりむしろ映像に重心を置いたアンビエントな空間に変わっていったんだ。それが、当時のアンダーグラウンドのトリップだった。そういったクラブでは、いつもスーパー8フィルムのループやスライドが上映されていて、各クラブの映像は大きな続き物の一部になっていた。そのとき僕たちが、音楽と映像を結合するものとしてVJingを導入したのさ。

MATT:
VJammは、音のサンプルをプレイするのと同じように、オーディオヴィジュアルのサンプルをプレイできるソフトウェアだ。僕たちはColdcutのライヴ用に、ケンブリッジにあるCamArt社と共同開発した。Ninjatune.comでこれを製品として販売し始めたところで、現在デモも公開しているんだ。このソフトウェアはMIDIで操作可能で、だれでも使えるし、キーボードからオーディオヴィジュアルのサンプルをプレイできる。サンプルを反転したりピッチを上げたり、ぶった切ったり引っ掻いたりしてほしいね。このソフトウェアにはDJの美意識を取り入れているし、オーディオヴィジュアルの素材に対応している。Coldcutは箱が4個とラップトップさえあれば、ファンキーなTV番組をその場で作ることができるんだ。


――テクノロジーの発達によって、5年後の音楽はどうなっていると思いますか?

JON:
小型化、MPEG、MP3、レコードをかけるだけのDJは死滅する。レコードとラップトップをプレイするDJが増えて、もっと面白くなるだろう。ラップトップジャムだ。

MATT:
テクノロジーの発達によって、音楽の勢力が増すだろう。現在でさえ、音楽の力は過去のどんな時代より大きくなっている。曲を作ったり販売するための新しい方法ができる。将来、Ninja Tuneでインターネットを通じてダウンロードされる曲の売り上げが、現在のCDやヴィニール盤の売り上げに匹敵するようになったとしても、僕は驚かない。販売の便宜を考えると、圧縮技術を使って海賊版に対抗していかなきゃならないけど。僕たちの音楽について言うと、まだ多くのアメリカ的要素を取り込む余地がある。猛烈なダンスミュージックのウィルスに触れていきたいんだ。ダンスミュージックにはまだ未来があるけど、ロックはもう退屈だ。ダンスミュージックには、まだやることがある。ポップミュージックやTV、そしてTVゲームは、ひとつに収束する。


――ポップミュージックは、あなたがたの生活のどういった部分に入り込んでいますか?

JON:
ポップミュージックは、いまでも生活全般に溶け込んでいる。僕はポップミュージックを聴きながら朝食を取るし、それに合わせて歌ったりする。けれどポップミュージックは、しばらくすると味がなくなる。チューインガムみたいなものさ。僕は、BlurRadioheadが好きだよ。それをポップと言ってよければね。無知のエネルギーを持ったバンドが好きなんだ。そういうバンドは、たまらない。あまりにも公式どおりの作り方をしているものは気に入らないな。あのユーロハウスミュージックなんかは大嫌いだ。

MATT:
ふだんはいろいろな音楽、デジタルものを聴いている。ガールフレンドと僕は今、Generatorというソフトにハマっているんだ。これは、アナログシンセを何台かまとめたようなもので、しだいに変化するループを何度でも繰り返せるから、2人でただそのループを聴いている。ほかには、古いレゲエや、古いエレクトロファンク、テクノを聴くのが好きだ。


――分かりました。ではここから「お気に入り」1問1答です。まず、お気に入りの12インチレコードは?

JON:
Afrika Bambaataaの「Planet Rock」。

MATT:
Double D & Steinskiの「Lessons #1, Lessons #2, Lessons #3」。


――あなたがたの作品を他人がリミックスしたもののなかで、お気に入りは?

JON:
Mix Master Morrisの「Autumn Leaves」のリミックス。

MATT:
EBNの「Timber」のビデオリミックス。


――他のアーティストの作品をColdcutがリミックスしたもののなかで、お気に入りは?

JON & MATT:
Eric B. & Rakimの「Paid In Full」。


――お気に入りのプロデューサーは?

JON:
Daniel LanoisとBrian Eno

MATT:
Carl Craig。


――お気に入りのDJは?

JON:
Kid Koala、Mix Master Morris、John Peel。

MATT:
Kid Koala。


――お気に入りのレコードは?

JON:
Spacetime Continuumの「Pressure」、Fela Kutiの「Upside Down」、Tar Waterの「Silar」。

MATT:
Steve Reichの「Music For 18 Musicians」。


――お気に入りの機材をいくつか挙げてください。

JON & MATT:
Akai S3000サンプラー、Alesis ADATデジタル8トラック、Allen & Heath Saberプラス24チャンネルミキサー、Behringerコンポーザー、Boss SE-50エフェクトユニット、Cheetah MS6シンセモジュール、Denonテープデッキ、Drawmer LX20コンプレッサー、EMS VCS4アナログシンセ、Fostex D5 DATレコーダー、Ibenez AD 270アナログディレイ、E-mu Morpheusシンセモジュール、Korg MS10シンセ、Korgステージエコー、Moog Rogueシンセ、Oberheim Matrix 1000モジュール、Opcode Studio 4 MIDIインターフェース、Roland 202シンセ、Roland MKS-50シンセ、Roland JD-800シンセ、Roland JX-3Pシンセ、Roland JX-8Pシンセ、Roland TR-707ドラムマシン、Roland TR-808ドラムマシン、Roland TR-909ドラムマシン、Roland TB-303ベースライン、Roland PG-300プログラマー、Sprit Folio 4ミキサー、Sony DTC1000ES DAT、Yamaha SPX90エフェクトユニット、Soundforge、Cubase、Generator、そしてVJamm。


――お気に入りのウェブサイトは?

JON:
Protman.com。

MATT:
Register.com。


――お気に入りのクラブを挙げてください。

JON:
昔なら、Meltdown、Save The Robots。最近はRaw、Future、Yes, Mate。

MATT:
アンビエントミュージックのかかるとこならどこでも。

By Jon Alain Guzik/LAUNCH.com

 

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