【BARKS編集部レビュー】常識の壁をぶち壊すアトミック フロイド・サウンド

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高級感、デザインのカッコよさ、そして何よりサウンドの良さで、あっという間に高評価をほしいままにしたアトミック フロイド。ことマイク/コントロール付モデルのiphoneでの使いやすさは格別で、ぞっこん&愛用している人も多いときく。

◆Atomic Floyd紹介映像

デザインの秀逸さや、1300度で10時間加熱処理し剛性を高めたというアコースティック・スチールの質感などは、写真や動画からも伝わることだろう。機能性と高級感が高次元で成立している様子もご理解いただけるかと思う。

それにしても驚きの事実は、1万~2万円台という高価格帯にもかかわらず、使用者の多くがコストパフォーマンスがいいと評価している点である。この金額で「お買い得」と言わしめるアトミック フロイドの実力とは、いかなるものか。代表4モデルを入手、吸い尽くすように試聴を繰り返した。

抜けの良さ、粒立ちの綺麗さ、繊細さと迫力の両立…伝えたいのは、そのスピード感のあるサウンドの素晴らしさだが、同時にアトミック フロイドが実はとんでもなく先を走っているブランドであることにふと気付かされた。なんか凄い事実を突きつけられたような気がしたので、お伝えしてみたい。

今回手にしたのは4機種。ベーシックなカナル型(1)「HiDef Drum+Microphone」、それにノズル稼動機能を加えフィット感向上を実現した(2)「Twist Jax AcousticSteel」、耳掛け式とした(3)「AirJax titanium2」、そして最新モデルとなる初のバランスド・アーマチュア(以下BA)型(4)「MiniDarts+Microphone」である。

前者3モデルはダイナミックドライバーを搭載し、そのサウンドは共通して実にメリハリの効いたもので、生ぬるさとは無縁。驚くほどハイファイでハキハキはつらつとしたサウンドを響かせ、そのキレも抜群だ。野太いダイナミック型の低音の迫力を保ちながら、まるでBAかのようなデリケートな音像を携えている。

一方で(4)「MiniDarts+Microphone」は、BAドライバを用いることでコンパクトな弾丸型を実現、より遮音性の高いカナル型として登場した最新モデルだ。特筆すべきはそのサウンドで、BAとは思えない肉厚でうなるような中低域を聞かせてくれる。このサイズからイメージされるシングルBAの音とは全く別次元の肉感的なものだ。

ここで伝えたかったのは、BAのような繊細さをもつダイナミック型の(1)(2)(3)のサウンドと、ダイナミックかのような熱い音を響かせるBA型(4)のサウンド、その両者のサウンド特性が非常に肉薄しているという事実だ。

ダイナミック型とBA型は音を発する構造が根本的に異なる。長所と短所が各々で違うため、目的や設計思想/コンセプトによって、どちらかが選択されることになる。ハイブリッドという例外も存在するが、ほとんどのブランドは、それぞれの長所を活かしながらいかに欠点を克服し理想のサウンドを得るかにしのぎを削っている。ダイナミック型であろうとBA型であろうと、素晴らしい音を奏でるという目標は変わらず、違いはスタート地点と歩む経路だけだ。つまり、特長を活かし欠点を克服すべく開発が進むと、両者のサウンドはどんどん近づき、やがて違いはなくなっていくのだろう。そう、ブラウン管でも液晶でもプラズマでも、十二分に綺麗な映像を映し出してくれるように。

だが理想への道は険しく道のりは長いようで、現状は、短所の克服よりも長所の魅力に焦点が当たることが多く、BAはBAらしさを魅力としダイナミック型はダイナミックらしさが最大の売りとなる。それぞれに歩む道のりに広がる景色は全く違うもので、そこは良し悪しではなく好みの世界でもあるから面白かったりもする。大自然の広がる雄大な景色に目を奪われるか、100万ドルのロマンティックな夜景に心をときめかせるか…そんな違いであろうか。

そんな現実にありながらアトミック フロイドを耳にすると、これだけいろんなカナル型ヘッドホンを聞きあさっておきながら、ダイナミック型の(1)とBA型の(4)をブラインドテストされたら、僕はどっちがダイナミック型でどっちがBA型か、言い当てられる自信が無い。耳がポンコツという要因もさることながら、ここには短所の克服レベルの高さと同時に、各々の得意とする最大の特性を敢えて抑制させるという「発想の転換」が仕込まれている気がするのだ。

「いいところを伸ばさない」と言うと愚策に聞こえるが、最大の特徴を野放しにするとそのキャラだけが一人歩きする懸念がある。実際そのような製品も世には多くあるだろう。迫力の無いBA型、抜けの悪いダイナミック…もう、それ以上ここでは触れるまい。

サウンド再生機に大事なのは、何よりバランスだと思う。得意がゆえに目立ちすぎる点は程よく抑制し、全体を丁寧にバランスさせるという設計を施せば、ダイナミック型であろうがBA型であろうが、ぶれることなく理想のサウンドに到達できるのかもしれない。ダイナミック/BAというその構造に振り回されることなく、どちらであろうともブランドが求めるサウンドを一様に叩き出すというのは、実はとんでもなく高い思想の元でのみ達成しうることではないか? 最終バランスのために長所を抑制するというコロンブスの卵のような柔軟性とその実行力がアトミック フロイドに透けて見えたのは、私の考えすぎであろうか。

駆け足だが、各モデルの使用感をお伝えしよう。(1)は4機種の中で最も安価だが個人的に最もお気に入りとなったベーシックモデル。遮音性はさほど高くないが、なにしろ健康的でエッジの立った音がいい。これが一押しだ。(2)は(1)のサウンドをそのままにノズルが稼動することで装着感を向上させたモデル。精悍なルックスと明瞭なサウンドが所有感を満たしてくれる。(3)は耳掛け式のため、カナル型の(1)(2)とは響き方が全く違うが、軽い装着感とハイファイなサウンドはクラス随一。(4)は最も遮音性の高いモデル。赤いコードがスタイリッシュ。「BAの音」という既成概念をいとも簡単に捻りつぶしたエポックなモデル。ヘッドホンに詳しい方であればこそ、是非一度確かめていただきたい一品。

アトミック フロイドは、10年以上にわたりフィリップスでヘッドホンの開発とデザインに携わってきた人物が立ち上げたブランドなのだとか。フィリップス在籍中には実現できなかったハイエンドな製品を目指し、約3年間を製品開発に費やし満を持して世に打ち出した製品群がこれらのヘッドホンだという。なるほど、酸いも甘いも経験済みというわけだ。

通常では再生しきれない30Hzという超低音も平気で再生する潜在能力を持ち、通常の低音を余裕をもって再現するアトミック フロイドというブランドの実力は、まだまだ計り知れないところ。ケーブルのタッチノイズの軽減や更なる遮音性の向上など、取り組んで欲しいテーマはいくつかあるものの、さりげなくとんでもないモノを生み出すことを予感させる広い伸びしろとエネルギッシュなパワーに満ちたブランドだ。今後の新製品においても、漏れなくチェックすべき最重要ブランドの一端であることは間違いない。

text by BARKS編集長 烏丸

Atomic Floyd
(1)HiDef Drum+Microphone 17,800円(税込)
(2)Twist Jax AcousticSteel 23,800円(税込)
(3)AirJax titanium2 23,800 円(税込)
(4)MiniDarts+Microphone 25,800円(税込)

◆Atomic Floydオフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル


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