【BARKS編集部レビュー】ROOTHでリモールド、SHURE SE530をドライバー8つに

ツイート

様々なカスタムIEMブランドが世界中で人気を博していることは、これまでも幾度となくお伝えしてきたところだが、なかでも中国の新興勢力ブランドROOTH(ルース)は特筆すべき人気と注目度を誇っている。第一に安価であること、オリジナルモデルと並行してリモールドサービスも可能なこと、そして何よりのアドバンテージは、日本代理店が存在し専門ショップから正規オーダーを受け付けている数少ない海外ブランドのひとつであるところだ。

◆ROOTH SE530×8画像

リモールドとは、手持ちのカナル型ヘッドホンをカスタムIEM化するサービスのこと。中身をそっくり流用し外側だけ自分の耳にフィットするカスタムシェルに作り変えることで、お気に入りのサウンドそのままに最上のフィット感と遮音性を手に入れるというものだ。対応できるモデルは限られるが、安価にカスタムIEMを手に入れる最もお手軽な手段となる。

ROOTHは、さらにそこにドライバーを追加しパワーアップを図る「リモールドアップグレード」というサービスも行なっている。普通の孫悟空がスーパーサイヤ人で帰ってくるというか、海老で鯛を釣ってくるというか、手元のモデルが大きく成長して帰ってくるというのは、オーダーから到着までのワクワク度もMAX級になるもの。

今回私は、耳型(インプレッション)と一緒にSHURE SE530を送付した。頼んだのは「Rooth-Upgrade8Custom」というサービスで、SE530に5つのドライバーを新たに追加し片耳8ドライバー搭載というてんこ盛り状態でカスタムIEM化するものだ。長年愛用してきたSE530なので名残惜しい思いもあったが、実はSE535の登場ですっかり使用機会を失ってしまっていた。SE535のサウンドを聴いてからは、もう少しタイトな低域と抜けの良い高域が加われば完璧なのに…という思いもあり、このRooth-Upgrade8Customに期待を寄せた。

低域×2、高域×1がSE530オリジナルのドライバー構成だが、中域過多を感じていたので、ちゃんと中域用のドライバーが用意されれば低域ドライバーは本来の帯域をもっと出すことができるはずと妄想、さらに超高域が追加されれば高域不足もあっさり解決できる、と盲目的に予想。「Rooth-Upgrade8Custom」の8ドライバーの内訳は低音×2、中音×2、高音×2、超高音×2という超絶ハイスペックとなっている。

発注してから待つこと1ヵ月半、SHURE SE530はROOTH SE530×8として帰ってきた。SE530はどう豹変したか、ROOTHの打ち出す「リモールドアップグレード」とはいかなるものかをお伝えしていこう。

結果は想定内が50%、想像していなかった点が50%であった。想定内だったのは、不足していた低域と高域がちょうどいい具合に補完され、満足なトーン・バランスになってくれたこと。こうだったらいいな…というバランスが見事に達成され、実に満足。「Rooth-Upgrade8Custom」はROOTHが提示する最高スペックのカスタムだから、心配するまでもなくハイレベルなサウンドバランスを提供してくれるのは言わずもがな。盲目的に信頼した理由もそこにあるわけで、信じてよかったー。

一方で予想していなかった50%は、元のSE530らしさがさっぱりと消え去ってしまったこと。冷静に考えれば、計8ドライバーをコントロールするネットワーク設計がSHUREからROOTHに変わるわけだから、その時点で別物になるのは当たり前だった。んー、期待に浮かれて変なテンションだったから、SE530の延長上のトーンを根拠なくイメージしていた。反省。

ちなみに、シェルから透けて見えるバランスド・アーマチュア・ドライバーを見ると、低音×2&中音×2の計4ドライバーがいっしょに括られひとつの音導孔へ、高音×2&超高音×2の4ドライバーもひとつに括られもうひとつの音導孔につながっている。8ドライバーのうちの3つはSE530の中から抜き出したもののはずだが、低域ドライバー2機はOKとして高域用1機は、追加ドライバーとの相性によってはリプレイスされるようだ。実際全8ドライバーのうちどれが移植されたオリジナルでどれが追加されたドライバーなのか、外から見ただけでは全く分からない。オリジナルドライバーがそのまま用いられていればSE530のトーン・ニュアンスは受け継がれても良さそうなものと素人目には思うのだけど、はやりクロスオーバー・ネットワークの設計こそが、マルチドライバー・カスタムIEMの特性を決定付けるキモなのか(ですか?)。ROOTHにはフラッグシップモデルとして8ドライバー構成のオリジナルモデルLS8が存在するが、LS8とSE530×8、TF10×8のサウンドを聞き比べてみたいものだ。

▲同梱される周波数特性グラフ
▲BAドライバーを抜かれたSE530。ぱっこり割れてピスタチオのごとし。安らかに眠れ。
さてもう少し踏み込んでサウンドを分析するならば、ROOTH SE530×8は、はっきりとした硬質なトーンでハキハキメリハリのある音を奏でるタイプだった。SE530が持っていた中域のふくよかさはすっかり影を潜めたがそれでもミッドの充実は特筆もので、ボーカル帯域のプッシュ感も非常に強い。ROOTHのカスタムIEMには周波数特性のグラフが添付されてくるが、この曲線からイメージされるほどドンシャリでもない。おそらく中域のトーンが硬質で引き締まっているため、非常に抜けて聴こえるからだと思う。

物凄く深いところ…おそらく50hz~80hzあたりの出方が非常に頼もしく、超低域が鼓膜をドスドスぶっ叩く。ぶっとくうねるキックを放つ楽曲では頭を揺さぶられるような感覚が気持ちよくて、この超低域の出方は特筆モノ。ビヨンセ『4』、KE$HA『ANIMAL』、ブラック・アイド・ピーズ『The E.N.D.』をボリューム上げ目で聴いたときは、低音酔いを起こしそうなほどの酩酊感に恍惚。UE 18 Proもかなり超低域が出るが、SE530×8はもっと引き締まっており過激に聴こえる。ロック、ヒップホップ、クラブ系サウンドにこの音はベストマッチだ。

とにかく輪郭がはっきりとしたタイトで派手めなトーンがSE530×8の音。分解能も低くはないが、モニター的にひとつひとつをリアルに聞き取るような高い解像度を楽しむものではなく、超低域から高域まで全帯域をワイルドに鳴らし、音楽を豪快に楽しむストレートで明るく、それでいて濃いめのサウンドだと思う。ポータブルアンプなどを使わなくともiPod直でも十分に楽しめるのもポイントのひとつ。インピーダンスは不明だが体感的に32~40Ωほどありそうで、オーディオ・プレイヤー直でもアンプ経由でも十分にドライブできる絶妙な設計になっている。

ROOTHはシェルの作りも綺麗で、比較的コンパクトな造型となっており不満点は見当たらない。ケーブルも非常にしなやかで、使用感は上々。ROOTHオリジナルにはLS2(40,500円)、LS3(51,000円)、LS4(65,500円)、LS6(87,000円)、LS8(102,000円)というラインナップがあり、LS2などはコストパフォーマンスバツグンのモデルだが、一方で単なるリモールドサービスはなんと18,500円という低価格である。

対応モデルを所有していれば、安価で最高級のサウンドが手に入るのが今回のRooth-Upgrade8Customの魅力だが、この経験を基に考えると、オリジナルのサウンドに不満がなければドライバー追加は行なわず、リモールドのみを行なうのが、最も安価で満足度の高いカスタムIEMを手にする方法と言えそうだ。

一般的に、リモールドによって密着度が上がることから低域はより強く感じられるようになる傾向があるが、極上の装着感と遮音性によって、低域のみならず全帯域の音情報が漏れなく耳へ届くことになる。これは音楽リスニング環境の向上であり、同じ音質のまま正確で情報量の多い音が楽しめ、今まで気付かなかった発見もあることだろう。リモールドとは、そのままのトーンでもさらにピュアなサウンドを楽しめるようになる「種も仕掛けもある魔法」のようなものだ。

次回はUE TripleFi10のリモールド(18,500円)に挑戦し、オリジナルのドライバーのままでどのようなカスタムIEMが誕生するか、ROOTHリモールドの魅力に焦点を絞ってみたいと思う。

text by BARKS編集長 烏丸

●Rooth-Upgrade8Custom(ルースリモールドアップグレード8ドライバ)
定価 78,000円(税込)
※対応モデル
・WESTONE UM3X / UM3XRC
・WESTONE WESTONE3
・ultimateears triple.fi10pro
・M-AUDIO IE-40
・SHURE SE530
・SHURE SE535
※所有IEMをばらし内部パーツを利用しながら追加ドライバを加える事によって8ドライバ(低音×2、中音×2、高音×、超高音×2)に仕上げ、ポテンシャルをさらに向上させるサービス。
※付属品はなし。以前まで使用していたケーブルは使えなくなるため、roothオリジナルケーブル(5500円)を別途購入する必要あり。JHオーディオ、UEカスタムのケーブル流用可。

●Rooth-Remold(ルースリモールドサービス)
定価 18,500円(税込)
※対応モデル
・WESTONE UM2 / UM2RC
・WESTONE UM3X / UM3XRC
・WESTONE WESTONE2
・WESTONE WESTONE3
・ultimateears super.fi5pro
・ultimateears super.fi5EB
・ultimateears triple.fi10pro
・M-AUDIO IE-20XB
・M-AUDIO IE-30
・M-AUDIO IE-40
・SHURE SE530
・SHURE SE535 他
※お持ちの、もしくは中古で購入したカスタムIEMやイヤホンをばらして自分の耳の型に合わせるカスタムIEM作製サービス。
※付属品はなし。以前まで使用していたケーブルは使えなくなるため、roothオリジナルケーブル(5500円)を別途購入する必要あり。JHオーディオ、UEカスタムのケーブル流用可。

◆ROOTH正規代理店オフィシャルサイト
◆eイヤホンROOTH
◆eイヤホンROOTH(リモールド)

◆BARKS ヘッドホンチャンネル
◆実はすぐそこまで来ていた、カスタムIEMの世界

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をツイート

この記事の関連情報