【BARKS編集部レビュー】NW-STUDIO、廉価版という鬼門に9wはどう立ち向かったのか?

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先日の発作レポでNW-STUDIO PROの音の良さをお伝えしたところだが、やはりそうなると、7月28日に発売されたばかりの新製品NW-STUDIOが気になって仕方がない。我慢すると身体によくない…という大義名分のもとに、NW-STUDIOも入手、その音を確かめた。

◆参考:【BARKS編集部レビュー】カナル型に調教されたポンコツ耳に、癒しを注ぐNW-STUDIO PRO(2011-08-02)

ただ、実のところ新製品にはいつも期待と不安が付きまとう。エポックな商品には期待値で脳みそがパンパンだから勢いで手にできるのだけど、マイナーチェンジや兄弟分の登場の場合には、やはりガッカリしたくない気持ちがどこかにあって、その不安が前面に出るとなかなか手を出せないのが正直なところ。

NW-STUDIOの登場も、背景は能天気ではなかった。どちらかというと慎重にならざるを得ない状況ばかり。アルミ筐体からプラスチック樹脂に変更するというコストカットによってどれだけ音が犠牲になってしまったかという不安があり、さらに市場価格5980円という安さが追い討ちをかける。NW-STUDIO PROが市場価格15800円なのに、半額どころか3分の1近くまで落とされたこの価格で、どれだけ音質を留めることができているのか、という腰の引けた印象だ。

…と、聴かずして勝手に想像してはいかんことを、今回またも改めて体感。やはり経験こそ宝、周辺データだけでイメージしてしまうのは了見の狭さが露呈するだけね。現実は、どれだけ音が劣化しているのかなんて心配は全くの杞憂だったから。

まず、このNW-STUDIOは「NW-STUDIO PROの廉価版」という認識が間違っていたようだ。明らかに両者はキャラクターが違い、サウンドの品質という意味では上下関係になく、横に並ぶものとしてデザインされていると捉えるべき。というかNW-STUDIO PROから透けて見えるオーディオ作りの志をみるに、9w(ナインウェーブ)というブランドが音質劣化に甘んじるとも到底思えないわけで、材質変更というコストカットを施すことで変化する特性を前提に「どんな方向にサウンドをデザインすれば、その条件で最良のサウンドが生み出せるか」という発想で設計したことだろう。それがこのW-STUDIOではないか。

要は制約をつけず理想を実現させたら15800円のNW-STUDIO PROが生まれたが、5980円を上限という材質しばりで作ると、NW-STUDIOが出来上がるというだけのことだ。

NW-STUDIO PROは切れのよい芳醇な低音が他の追随を許さない極上の心地よさで、上質でフラットなサウンド傾向であるのに対し、新作NW-STUDIOは中高域に特性が振られている。中低域の充実さはNW-STUDIO PROに大きく水をあけているが、澄んだ高域の伸びと若々しく弾けるように鳴らす瑞々しさは、NW-STUDIO PROの持っている品のある落ち着きとは好対照だ。

ことNW-STUDIOの高域のクリアさは特筆すべきもので、滑らかさと量感が両立しつつも、不快なピークや刺激もない絶妙なバランスを持っている。筐体の共鳴なども全く感じず、犠牲にしたものが見当たらないこの完成度は、端的に凄いことだと思う。

両者は、全く違う傾向のサウンドのため使い分けができ、どちらも満足度高く使うことができる。優劣をつけるものではないので、両方手にするのもよし、好みで選ぶもよし。価格差が大きいので、コストパフォーマンスという意味ではNW-STUDIOがバツグンに有利かもしれない。

一般的にバランスド・アーマチュア・ユニット(BA型)を用いたモデルは、高解像度で高域の表現力に長けていると評価されることが多いが、実のところ超高域に関しての表現は非常に不得意だと私は感じる。このNW-STUDIOの音を聴くと、やはりベストチューニングされたダイナミック型が表現する高域の奥行きと帯域の広さは、極めて自然で文字通りダイナミックなもので、BA型では表現しきれない魅力にあふれている。「販売価格を中価格帯まで落としながら、突き抜けた高品質を追求する」という命題に対しては、中域~高域の美しさで勝負に出るというのが、背筋の伸びた正攻法な設計なのかもしれない。

NW-STUDIOもパッケージを開けたばかりでは、ほとんど低音が出ておらず、ありゃまーと思ったが、最初の2時間程度でバランスが大きく変化、ローミッドも出始めた。その後50時間経過程度で、全帯域のバランスは綺麗に整い、サウンドの魅力は著しく向上した。店頭での試聴では、環境音/ノイズによるマスキングと、所期のサウンドが引き出されていない可能性があることを念頭にして欲しいと思う。

▲左がNW-STUDIO PRO、右が新製品NW-STUDIO。実はサイズに変わりはなく、どちらもハウジング径は同じサイズの15mm。使用感も特に変化がないというのが真実である。
なお、NW-STUDIO PROで一時話題となったイヤーパッドが外れやすいという問題(現在は対応済)は、NW-STUDIOでは解決されている。イヤーパッドが裏の深いところにまですっぽりと覆っているため、そうは簡単に外れることはなくなったようだ。またネット上には、「NW-STUDIOはNW-STUDIO PROよりも小さくなっている」という記載をみるが、これは全くの誤りである。イヤーパッドの厚みなどもほとんど変わらず、形状の若干の違いが勘違いを生むようだが、ハウジング部分はどちらも直径15mmで、大きさは変わっていない。写真の撮り方次第では見た目が事実と相違するので、勘違いにご注意を。

よくできた上質な大人のバランス:NW-STUDIO PROと、はつらつとした健康的な若者のサウンド:NW-STUDIO、どちらも魅力あふれる完成度で満足度は高い。これを機に開放型の心地よさを是非体験いただきたいと思う。ただし、しつこいけれど、遮音性能と音漏れ対策については期待をしてはいけない。遮音しないからこその開放型の心地よさ、なんだから。

text by BARKS編集長 烏丸

●9w(ナインウェーブ)NW-STUDIO
市場価格5980円
・形式:オープンエアーダイナミック型
・ドライバーユニット:口径13.4mm
・再生周波数帯域:20Hz - 20kHz
・出力音圧レベル(感度):113dB ± 3dB
・インピーダンス:32Ω ± 15%
・コード:Y型980mm φ1.8
・入力プラグ:24金メッキステレオミニプラグ
・カラー:黒/シルバー
・本体質量:11g ± 0.5g
・同梱品:イヤーパッド x 2セット、マニュアル、保証書
●9w(ナインウェーブ)NW-STUDIO PRO
市場価格15800円
・形式:オープンエアーダイナミック型
・ドライバーユニット:口径13.5mm
・再生周波数帯域:20Hz - 20kHz
・出力音圧レベル(感度):110dB ± 3dB
・インピーダンス:32Ω ± 15%
・コード:Y型980mm φ1.8
・入力プラグ:24金メッキステレオミニプラグ
・カラー:黒/シルバー
・本体質量:12g ± 0.5g
・同梱品:イヤーパッド x 3セット、マニュアル、保証書、ステレオ標準プラグアダプター、延長コード(長さ約980mm)、キャリングケース
●9w(ナインウェーブ)NW-STUDIO PRO W
市場価格13800円
・形式:オープンエアーダイナミック型
・ドライバーユニット:口径13.5mm
・再生周波数帯域:20Hz - 20kHz
・出力音圧レベル(感度):110dB ± 3dB
・インピーダンス:32Ω ± 15%
・コード:Y型980mm φ1.8
・入力プラグ:24金メッキステレオミニプラグ
・カラー:白/シルバー
・本体質量:12g ± 0.5g
・同梱品:イヤーパッド x 2セット、マニュアル、保証書

◆NW-STUDIOシリーズ・オフィシャルサイト
◆9w(ナインウェーブ)オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
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◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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