羊たちの回想:メリーのツアー総括(7)

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前回、『Many Merry Days#4』では「まわりの人たちが開演前の楽屋に居たくなくなるような」緊張感を求めてみたいと語っていたガラだが、実は『#3』の際にも、楽屋に長居したくない空気が漂っていたことがあった。他ならぬ、筆者が様子を覗きに出かけた仙台公演の際のことである。とはいえ、正確に言えば、そこに漂っていたのは緊張感よりも厄介な風邪の“菌”だったのだが。

12月16日(日)仙台・CLUB JUNK BOX
12月18日(火)長野・CLUB JUNK BOX
12月22日(土)高崎・club FLEEZ

▲風邪のバンド内流行が最高潮にあった3日間の演奏内容。よーく見ると、中央の長野でのセットリストでは、アンコールのうち4曲(イエロー/ラスト/木洩れ日/やさしさ)が線で消されている。メリーの皆さん、このリヴェンジをいつかかならず!
――僕が仙台に出向いたとき、かなり体調の悪そうな人がいました。

ネロ:俺ですね。実は札幌のときから風邪っぽかったんですけど、緊張感で吹っ飛んでたんですよ。清春さんのゲスト出演のことも影響してたのか。それで全然へっちゃらだったんですけど、今にして思えば、その札幌から仙台への道中がいちばん辛かったですね。仙台に着いてソッコーでお医者さんに行って。で、「タミフルが欲しい」って言ったんですけど、「激しい運動をするなら渡せない」ということで、その次に強いのをもらって。吸入するタイプのやつだったんで、それを吸いまくってたんですけど、熱が全然下がらなくて。ライヴ中は、自分ではいつも通りやってるつもりだったんですけど、みんなからは「曲が遅い」って言われましたね。

テツ:本人は気付いてないんだろうな、と思ってました。でも、こればっかりはしょうがないですからね。

結生:この日のライヴを撮ったビデオとか見たら、ネロ自身も多分びっくりするよ。今までにない感じだったもん。

ガラ:何曲かリハーサルをやったところで、正直、「これはもう駄目だな」と思いました。何曲やっても同じことだな、と。むしろ少しでも休んでから臨んだほうがいいと思ったんで、リハも早めに切り上げて。ネロの前に立って歌うようになってもう長いんで、ドラムの音を聴いてるだけでも、調子がいいなとか悪いなとか、わかるんですよ。でも、この日はもはやそういう次元を超えてたんで。

――ただ、観る側からすると決して悪いライヴではなかったし、お客さんも楽しんでたと思うんですよ。もちろん「風邪だったのに」という同情的な見方をしてるつもりはないんだけども。

ネロ:そうだとしたら、気持ち的には救われますね。

結生:“ぶわーっ!”という勢いはなかったんですよ、この日のメリーには。でもその代わり、おそらくカッチリしてたと思う。ある意味、守りに入らざるを得なかった結果というか。だからそういう意味ではメリーっぽくなかったかもしれないけど、ショウとしては悪くなかったはずだと思う。

健一:ただ、今回のツアーの途中から、アンコールはドラム・ソロから始まるようになってたじゃないですか。この日だけそれをやらなくて。これはやっぱり相当調子悪いんだろうな、と。

ネロ:そういえば、やらなかったね(苦笑)。

――ライヴ後、ネロくんはホテルにすぐ直帰。その後、風邪は……

ガラ:俺のほうにやって来ました(笑)。楽屋ではネロに「これが俺に伝染ったりしたら、洒落になんねえな」とか言ってて、ライヴ後もネロに「すぐホテルに帰れよ」って言ってた。でも……

結生:とき、すでに遅し(笑)。

ガラ:食事を終えてホテルの部屋に戻ったら、これまで感じたことのない悪寒がして。すぐに風邪薬をもらって飲んで寝たんですけど、翌朝起きたとき、もう駄目だと思いました。で、ネロは逆に少し回復し始めてて。

結生:結局、長野で3人、医者に行ったね。俺も青森からずっと鼻水を引っ張ってたんで。俺の風邪って長続きするんですよ。なんか体力のなさが出ちゃいましたね。

ガラ:ここがツアーの山場でしたね、ある意味。長野もお客さんが良かったんですよ、熱くて。だからいっそう申し訳ないっていう気持ちが強くて。

ネロ:あのとき痛感したことがひとつあって。俺の場合はみんなにカヴァーしてもらえる部分があったわけですよ。それをすごく感じた。ただ、ヴォーカリストはそうはいかないですもんね。

ガラ:そこなんだよ! だからネロ、移動の車中はマスクをしようよ(笑)。

結生:あと、長野がキツかったのは風邪のせいだけじゃなくて、異常にステージ上が暑かったのもあったと思う。まさにダブルパンチで。

ガラ:そこでたまらず「今日は曲を削らせてくれ」って言いました。滅多にそんなことは言わないんですけど。悔しかったですね……。ファンの熱さに応えきれなかった……。そこでスタッフからも「ライヴはやり直しがきかねえからな」って言われたんですけど、その言葉がすげえ染みましたね。いい意味で、重くのしかかってきた。

テツ:もちろんこの2本にも、いいところはあったんですよ。でも、もうちょっと広いところを見ながら活動するようじゃなくちゃいけないな、と思いましたね

ガラ:ホントに思い出すたびに悔しいんですよ。俺が思うように動けないぶん、みんなが動いてくれてた。でも歌は、どうしようもなかったんで。

テツ:横で見てて、わかるぐらいだった。途中で歌うのを止めちゃったり。

健一:だからこそ、元気な自分たちが引っ張っていかなくちゃいけないなというのもあったし。

結生:それで結果、健くんのギターがイカレてしまうことになった。普段の2倍くらい汗をかいてたから(笑)。

健一:俺、人より汗をかくんですよ(笑)。で、この次の日からギターの音が出なくなった。

結生:健くんのは特殊な汗なんです。1曲弾くと弦が錆びるんです(笑)。

――ははは! 続く高崎はどうでした? ここでのライヴは毎回熱いそうですけど。

ガラ:フルーツをすげえ食いまくりました。自分的にはもう治りかけてるつもりだったんですよ。ただ、リハのときも声はそれなりに出るんだけど、何故かみんなの音がバラバラに聴こえてしまって。いつもと同じ音のはずなのに。

結生:風邪が鼻から来て、その影響が耳にも出るんだろうね。なんか1枚、膜が張ってるような感じ。俺もそんな感覚だった。

ガラ:初めての経験でしたね。ライヴは良かったと思うんですけど、ああいう目にはもう二度と遭いたくないな、と。

増田勇一
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