KAN、渾身の全9曲収録の15thアルバム『カンチガイもハナハダしい私の人生』大特集

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KAN 15thアルバム『カンチガイもハナハダしい私の人生』2010.3.10リリース

8ビートポップスはもちろん ビッグバンドジャズ、ウェストコースト風ロック、テクノ、シャンソンフランセーズ、そしてASKAとの共作曲を含む渾身の全9曲

INTERVIEW

――2002年から2004年にかけて、KANさんはパリに住まれてました。歌詞の中に「愛すべき街」「心の首都パリ」というフレーズも出てきますけど、あらためて聞いていいですか? そんなにもパリに惹かれる理由を。

KAN: あの時なぜ外国に行ったかというと、逃亡だったんですよ。90年代は毎年ニューアルバムを出さなきゃいけないみたいな、そういうサイクルで進んでたじゃないですか。日本のポップス界は。それが当たり前で、みんな必死でやっていたけど、「俺はそんなの嫌だよ」と。ただ作品を消費してるだけみたいな感じで、この流れの中では俺はできないし、できる能力があったとしてもやる意味はないと思うくらい、気持ち悪かったんですよ。それで「逃げたい逃げたい」と思っていたら、とてもラッキーなことに会社がそれを許してくれたので、とりあえず俺は逃げますと。その行き先がなぜパリだったかというと、それはもう単純にあこがれです。住む前にも旅行で5回ぐらい行きましたけど、女の子がファッション雑誌を見て「やっぱりフランスよね」っていうのとまったく同じレベルの話です。アメリカじゃないことは確実にあって、ほかのヨーロッパの都市も考えなくはなかったんですけど、「やっぱりパリだな」と。

――すごく大きな体験だったようですね。

KAN: 音楽だけじゃなくて、人生においてすごく重要な体験だったと思います。まったく文化の違うところに住んで、考え方が広くなったというか、複数のパターンで考えられるようになったというか。どっちが良いとか悪いではなくて、日本には日本の良さがいっぱいありますし、ほかの国では説明がつかない美意識があるのと同時に、「均等な束縛」なんですよね。ここにも書いてますけど。

――はい。歌詞の中に「優しく均等な束縛を求め東京に帰る」というくだりがありますね。

KAN: 日本では何でも均等じゃなきゃいけないというものがあって、それがとても楽なんですよ。とりあえずそこにいて、問題を起こさなければ大丈夫というゾーンがすごく広い。それはいい面でもあり、つまんない面でもあり、どっちもありますね。それに、日本は完全にアメリカ式ですし、しっかりと根付いている宗教もないので、共通の価値判断の基準がお金になっちゃってるんですよ。何でもかんでも過剰な競争をして、「壊れない」とか「速い」とか「正確な」とか、そういうことが当たり前になってるじゃないですか。何かを配達するのでも、正確にその日に届きますけど、そんなのフランスじゃ考えられないですから(笑)。最初は困りましたけど、だんだんそのほうが楽になってくるんですよ。肌に合ったんですね。

――8曲目「よければ一緒に」は、シングルとして一足先に出た曲ですね。

KAN: これは去年の秋の弾き語りツアーで、未発表曲としてやったんです。頭の中にはバンドのアレンジがあったんですけど、まず弾き語りでやってみました。

――「ララララ」の繰り返しを、コンサート会場いっぱいのみんなで歌う情景が目に浮かびます。幸せな曲ですね。

KAN: ありがとうございます。やる前に「歌わないと気まずいですよ」という話をしてからやるんですけどね(笑)。

――そしてアルバムのラストを締めくくるのが、ASKAさんとの共作「予定どおりに偶然に」。まるで組曲のようにどんどんシーンが変わっていくドラマティックな曲です。

KAN: 僕はASKAさんの大ファンなんです。僕はずっと洋楽しか聴いていなくて――僕らの世代にはそういう人は多いですけど、洋楽はカッコいい、邦楽はダサイという基本がありまして。でもある時ASKAさんの「はじまりはいつも雨」を聴いて、「何だこれは!」というぐらいの衝撃を受けて、それからASKAさんを聴くようになったんです。その後、偶然お会いする機会もあったりして、お互いにコンサートを見に行くようなつながりはあったんですね。実は過去に、「ASKAさんみたいな曲を作ろう」と思って作った曲もあるんですよ。今回もなんとなくあったんですけど、去年の夏にASKAさんのコンサートの最終日の台北公演を見に行った時に、「ASKAさんみたいな曲とか言ってないで、駄目もとで頼んでみよう」と思って、「一緒に1曲やってくれませんか?」ってお願いしたら、即答でOKしていただいて、それで一から作業を始めました。メロディは交互に二人で作って、全体の構成とアレンジを僕がやって、いろいろ話をしながら微調整して、2か月ぐらいかけて曲を作りました。そのあと、歌詞を書くにあたっても、かなりの時間をかけて話をしましたね。

――過去と未来、地球と人間、愛と夢といった、壮大なイメージが飛び交う歌詞の世界に圧倒されました。すごい曲ですね。

KAN: それはもう、ASKAさんにお願いする時から、「すごいの作ったね」と言われるようなものを作らないと駄目だと思っていたので。ASKAさんに「KANくんとやって本当に面白かった」と思ってほしいですし、ASKAさんのファンのみなさんにも「KAN、よくやった!」と思ってほしいですしね。そして、そういうものができたと思います。ASKAさんの歌のパワーが本当にすごいですから、自分一人では絶対にできないものができましたし、本当に良かったです。ASKAさんと一緒にやれて。

――すばらしいアルバムのフィナーレだと思います。

KAN: ありがとうございます。で、このアルバムを車で聴いてると、最後の曲を聴いたあとに「REGIKOSTAR~レジ子スターの刺激~」に戻るのがまたいいんですよ(笑)。狙い通りです。

――最後に、タイトルの『カンチガイもハナハダしい私の人生』は、どんな意味をこめてつけたんですか。

KAN: 「こうだ」という説明がないといえばなくて、まぁなんとなく思いついたんですけどね。ただ歌詞を書いている途中から、「アルバム全体を統括するにはこのタイトルでしょう」というのがあったので、今もなんとなく「そんなアルバムでしょ?」って自分では思ってます。このタイトルをスタッフの前で発表した時に、反応がまっぷたつに分かれたのも良かったんですよ。「面白い、いいね」という人と、「もうそういうの、やめようよ」という人と(笑)。全員がノーだというものに、それでも戦うほどの勇気はないし、全員がイエスというものは、奥行きがなくてつまらない(笑)。半々ぐらいがちょうどいいんです。

取材・文●宮本英夫

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