タワレコがショパンを力いっぱい応援「ショパンイヤーの楽しみ方」後編

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日本最大のクラシック音楽祭<ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010>も連日超満員、大盛況のうちに閉幕し、改めてその魅力を見せつけたショパン。そんなショパンをまだまだ楽しむあなたに、前編ではラ・フォル・ジュルネの楽しみ方を語ったクラシックソムリエのオヤマダアツシ氏が、後編ではショパンの人物像に迫ってくれた。

[ショパンイヤーの楽しみ方後編]

──オヤマダさんにとって、ショパンはどのようなイメージの作曲家ですか?

オヤマダアツシ:一言で言ってしまうと、「作曲家の中では、自己顕示欲がすごく少ない人」! 作曲家って基本的に我が強い人が多いですし、変人と呼ばれるタイプの人もいます。事件を起こしたり、恋愛関係の騒動に巻き込まれたり、ひとつの街で80回も引っ越したり(笑)。ショパンもいろいろなエピソードが残っているけど、おかしな話や悪評は少ないですし、もしかすると「草食系男子」というか、やっぱりデリケートな人だったんでしょう。身体も弱く、20代の頃から血を吐いたりしてずっと肺病に悩まされていましたから、どうしてもひ弱なイメージを拭えませんね。コンサートをあまりしなかったという事実が物語っていますけれど、友人たちの前では恥ずかしがらずに弾くんですが、大勢の人を前に演奏するのは苦手だったようです。引っ込み思案というか、恥ずかしがりという部類に入る人だった。だから内向的な芸術家であり、静かなポップ・スターというイメージが強いですね。

ショパンについて、ある伯爵夫人が「(ショパンは)砂糖をまぶした牡蠣のような人だ」と評しているんですよ。サロンでもカフェでも人気者で人当たりはいいけど、本心は牡蠣のように固く閉ざして、親しい友人にしか見せない。草食系かもしれないけれど、ちょっとやっかいな人物ですよね(笑)。でも感情爆発系のベートーベンや、常に自分の内面と会話をしていたようなシューベルトよりは友達になりやすいかな?

──なるほど、じゃあ現代に生きていても違和感が無いような…?

オヤマダアツシ:ソフトな顔立ちで人柄も普通だと思いますし、人気者かもしれませんよ。ショパンは身長が170cmくらいで体重が40kg代の中盤だという記録が残っていますけれど、華奢な感じですよね。普通に渋谷の街を歩いていてもぜんぜん違和感がないと思います。病気がちだったのでおいしいものを食べても太らなかったんじゃないでしょうか。それから亡くなったときに左手が型にとられていて、今でもブロンズや石膏でコピーされたものがたくさんあるんです。「ピアニストはお守りにみんなもっている」なんていう噂があるくらいなんですけれど、とても指が細くて繊細なんですよ。ああ、こういう華奢な感じの手だからあの繊細な音楽が生まれるわけか、と妙に納得できるほどなんです。

──ショパンが恋人に向けて作った曲はあるんでしょうか?

オヤマダアツシ:生涯の中では3人の女性との恋愛が有名ですけれど、それぞれの時期に作曲されているものは、なにかしら恋愛感情の影響があると思っていいんじゃないかと思います。たとえば19歳~20歳頃はコンスタンツヤさんという学友に片思いしていて、その頃の有名な「ノクターン嬰ハ短調」(平原綾香が歌っている曲)や同じメロディを使っているピアノ協奏曲第2番、そして名曲のピアノ協奏曲第1番あたりは、彼女への思いなくしては生まれなかったでしょう。唯一の婚約者となりながらも破局してしまったマリア・ヴォジンスカの場合も、「別れのワルツ」などをプレゼントしています。いちばん有名なお相手は作家のジョルジュ・サンドですが、彼女と暮らしたおよそ9年間に生まれた音楽は、すべてサンドとの思い出だととらえてもいいでしょう。基本的にロマンティストですよね、ショパンは。残っている彼女たちへの手紙も情熱的だし、やっぱり人間的で情緒があった人なんだと思います。

ジョルジュ・サンドと初めて出会ったときには、彼女があまりにも男っぽかったので(男装の麗人としても有名だったんです)、ショパンは驚いて「あれでも女かよ!」って、友人に言ったそうなんです。それなのに1年半後には一緒に住んでしまうほどだったわけですから、「初対面の印象が悪いほど、好きになりやすい」という恋愛の法則そのままですよね。6歳年上のサンドに、お母さんやお姉さん像を求めていたのかもしれません。

──初心者に向けて聴いてほしいアルバムはありますか?

オヤマダアツシ:ちょっとストレートすぎて安易かもしれないけれど、まず「ベストアルバム」から入っていくのが、一番いいと思います。名曲揃いですから、それをまずザーッと聴いて、いいなと思った曲をピックアップしたらそればかり聴いてみたり、携帯音楽プレイヤーに入れて気になったとき気軽に聴く。ショパンはそれができる作曲家だと思います。ショパンの曲は交響曲などと違ってポップスと同じくらい短いものが多いですから、そういう気軽な聴き方ができるんですよ。例えばザ・ビートルズのあの曲好きだな、って思ったら携帯音楽プレイヤーに入れて聴くのと一緒。ぜひ、クラシック以外のお気に入りナンバーと同列で、何だったらいろいろな曲と混ぜてシャッフル聴きをして欲しいくらいです。ピアノ曲ばかり連続して聴くと飽きるかもしれないけれど、ロックやR&Bの合間にショパンがポンと出てくると、アコースティックな雰囲気が新鮮なんじゃないかな。

──シチュエーションによって聴き方ってありますか?

オヤマダアツシ:いや、逆に、そんな風には聴かないで欲しいです(笑)。具体的なシチュエーションがあると、それだけで音楽に対する先入観が生まれてしまうし、同じ曲であっても聴き手によって受け止める感情はそれぞれだと思うんですよ。いろんな環境で、いろんな人がいるわけだから、聴き方なんて千差万別でオーケー。むしろクラシックだからって気負わずに、この曲いいなって思う曲をまず見つけて、あとはどのように聴こうとあなた次第。そういう意味でも、ショパンはいろんなタイプの曲があるし、普段の暮らしの中で聴いたことのある楽曲も多いと思いますから、誰もがすんなりと入りやすい作曲家だと思います。エンジョイあるのみ!

オヤマダアツシ
音楽ライター。コンサートの曲目解説や音楽家のインタビュー記事を中心に執筆し、コンピレーションCDの選曲・構成も行なう。<ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン>(東京)ではクラシックソムリエとして、記事執筆やレポーターなどを務めている。

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