「百鬼夜行奇譚」第三夜：【回顧】～Awilda～[伍/最終話]

Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第三夜：【回顧】～Awilda～
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寂寞。闇の中にアヴィルダの荒い呼吸だけが響く。

これはなに？
これはなに？

血まみれの悪夢の中、耳鳴りのように、波音がこだまする。
そして、悪夢を打ち破るかのごとく、乱暴にドアが開いた。

「…こいつはすげぇ」

力なく振り返ると、真っ黒なマントをたなびかせて眼帯の男が立っていた。
その後ろでは、薔薇に縁取られた髑髏の旗がはためいている。

「こんなでけぇ船に人っ子一人いないと思ったら…そういうワケかい」

ドアからこぼれる月光がアヴィルダを照らす。白いネグリジェも、真っ白なシーツも、すべてが血に染まり、艶めいていた。真っ白な肌に、洗礼のように降り掛かったおびただしい血飛沫。
何もかもを失い、血まみれで立ち尽くすアヴィルダは、美しかった。

「おい」
血まみれの剣をだらりと携えたアヴィルダに男が言う。
「一緒にこないか？」


あれからどれほどの月日が経っただろう。
バルト海のとある街。港町では相変わらず、海賊団【薔薇の悪夢】の噂で持ち切りであった。

高く掲げられた薔薇と髑髏の海賊旗、そして海賊団の新しい団長であり、七つの海で一番美しく恐ろしいと評判の女海賊の噂。

バルト海を臨む丘の上、忘れ去られるようにひっそりと、美しい古城が立っていた。
初夏の風が海の薫りを古城の窓まで運び、窓際に咲いた薔薇が小さく揺れる。
時に置き去りにされた丘の上。城は、いつまでも、海風に吹かれていた。

―　完　―

文：Kaya　／　イラスト：中野ヤマト

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KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ￥1260（tax in）
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-

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◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」