「百鬼夜行奇譚」第六夜:【旋律】~Je te veux~[壱]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第六夜
【旋律】~Je te veux~
[壱]
・[弐]
・[参]

   ◆   ◆   ◆

ちりん、と扉にかけられた鈴がなる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」

ここは新宿の片隅。華やかな靖国通りを抜けて花園神社を通り過ぎ、しばらく歩く。
新宿の喧騒からまるで隠れるように、ひっそりとそのバーはあった。
『喫茶 黒猫』という煤けた看板がかけられた白いドアは、すっかり変色してしまっている。6、7人も入れば満卓となってしまう小さなバーは、毎晩大量の薔薇を飾って絶やさぬことと、美しい女主人が評判の店であった。

知仁が友人の紹介で『喫茶 黒猫』の存在を知ってから、もう半年が経とうとしている。アルバイトの後にここへと立ち寄ることが、彼の日課となっていた。

「こんばんは、マダム」
「御機嫌よう。知仁さん、もうアルバイトは終わったの?」
「うん、今日は早めにあがらせて貰ったんだ。レポートが全然終わってなくてさ」
「まぁ学生さんは大変ね。いつものでいい?」

うん、と元気よく答えて、知仁はこの女主人を見つめる。
泣きぼくろがチャームポイントの、美しい女性。年は知仁の十ほど上であろうか。
もう半年にもなるというのに、知仁はこの女主人の年齢はおろか、名前すらも未だに知らないでいた。

「なあに? そんなに見つめて。私の顔、何かついてる?」
「いや、ごめんごめん。…あ~レポートどうしようかなぁ。ねぇマダム、代わりに書いてくれない?」
「まぁ知仁さんたら。ダメよ、自分で頑張らなくちゃ。でもそうね、その替わりと言ってはなんだけど、面白いお話をしてあげるわ」
「面白い話?」
「えぇ。遠い遠い、異国のお話よ…」

◆[弐]につづく。([弐]:11月15日公開)

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

   ◆   ◆   ◆

Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~
・第五夜【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~

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2. Sink
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◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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