【BARKS編集部レビュー】FitEar MH334に注がれた、誇り高きMADE IN JAPAN

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ここ一ヶ月の間で立て続けにいくつかのカスタムIEMのレポートを執筆したが、「どれが一番のお気に入りなの?一番いいのはどれ?」と訊かれる。どれも素晴らしいというのが本音だし、特筆すべき特性や感じた素直な感想は各記事で語ったつもりなのだけど、ニュートラルな視点での論評ではなく極めて私的な感想を教えろという。

◆FitEar MH334画像

個人的な好き嫌いの感想が第三者にどう役に立つのか不透明だけど、隠すことでもないのでざっと言ってしまえば、まったりしたいときはUE 18Pro、しっかり聞き込むときはWestone ES5、ノリを求めればカナルワークスCL-01、ガツガツ音楽を前のめりに楽しみたいときはROOTH SE530×8…と、気分と目的によって使い分けているというのが真実。つまらないオチで申し訳ないが、キャラがかぶっていないから用途で使い分けができる状況だ。ただ、実のところ、なんだかんだで使用頻度が一番高いのは、今回紹介する須山補聴器が製作するFitEar MH334だったりする。

もちろんFitEar MH334もパーフェクトなわけでもなく良くないところもある。まずケーブルの皮膜が硬く表面が物に当たると小さくコツン…というかピヨン・ピチョンみたいな不思議なタッチノイズを出してしまう。付属のクリップを使ったりスライダーで喉元にフィットさせればタッチノイズは完全回避できるので全く問題ではないのだが、弾力の強いちょっと癖のあるケーブルのため、他ブランドとはテイストや使い勝手がずいぶん異なっている。おそらく高品質な銀線なのではないかと思うのだけど、サウンドと使用感のバランスをギリギリで設計した様子が伺えるケーブルだ。

もうひとつ残念だなと思うのは、フェイスプレートに遊びの要素がない点だ。使用において不備はないけれど、ケーブルコネクタ部が前方後円墳のように盛り上がっているので、プレートトップ面にグラフィックやスワロフスキーなどをあしらうオプション類が一切用意されていない。ブランドポリシーと係わるところかもしれないが、個性と愛着を演出できないのはちょっと寂しいなと思うところ。

一方で、そのようなマイナス面を持ってしてもなお余りある魅力に溢れているのがこのMH334で、魅力のポイントは「圧倒的な使い心地の良さ」と間違いなく「世界トップレベルのそのサウンド」、この2点に尽きる。

MH334のサウンドがどのような傾向のものか、市販モデルを例に比較できれば一番分かりやすいかと思い、とっかえひっかえ確かめてみたが、手元にあるモデルで聴感上最も近い音の特性を持っていると思われたのは、ソニーのMDR-EX1000だった。MH334がバランスド・アーマチュアのマルチドライバーである以上、SHURE SE535やUltimate Ears TripleFi 10、あるいはWestone4といったハイエンドBA機あたりに同系統の匂いがありそうなものだが、肉感的な中域の響きとハイの伸び、存分に鳴る低域の生々しさは、むしろ高域の響きの美しいバランスの取れたダイナミック型イヤホン…つまりMDR-EX1000が、最も似たバランスに感じる。

ただしMDR-EX1000は、実にきめ細かいディテールを描き出す高い実力を持っている一方で、モニター的に詳細を描き切る主張の強さに聞き疲れを起こしてしまう傾向がある。その点MH334は、EX1000を上回る解像度の高さと分離の良さを持っていながらも、サウンドの暖かさとともに音の隙間をしっかりと感じさせるタイトさをも持ち合わせ、音を聴いていて疲れるということが一切ない。むしろ分析的ではなくオーディオとして全帯域を生々しく瑞々しく出してくれる感覚だ。左右側頭部から頭部を音楽でいっぱいに満たしてくれる感覚は、いわばオーバヘッドのヘッドホンで音に包まれているイメージの方が近いかもしれない。

音の断片に注ぎ込まれたアーティストのこだわりに注力するもよし、まったりと音楽を楽しむもよし、細かいディテールの表現から全身で音のシャワーを感じるように楽しむ聴き方まで、MH334が提供してくれる音楽環境の振れ幅は非常にでかい。カナル型ヘッドホンの理想的なバランスを持ったリファレンス・モデルと言える完成度で、多くの人から支持されるであろうニュートラルな特性を持っていると思う。

そして、そこが最大の魅力であり、同時に弱点でもあるのではないかとも思っている。あらゆる点で素晴らしく間違いなくTOPクラスに位置するのだけど、よくできているがゆえにアクの強さもなく、「こいつならでは」という強い個性も主張しない。カリカリ・チューンのES5、甘くて速い18Pro、日本刀のようなCL-01、硬派なSE530×8…とそのキャラの濃さは、一端でけちょんけちょんに叩かれながらも一方でフォロワーから熱い支持を受ける武器となる。とりわけカスタムIEM自体が趣向性の高いアイテムだけに、強い個性は「こいつじゃなきゃダメなんだ」という熱烈なフォロアーを生み、強い支持層を形成するものだろう。

そういう点で、MH334はあまりに実直がゆえに、「こいつじゃなきゃダメなんだ」という強い牽引力が生まれにくい。あらゆる科目をそつなくこなす優等生よりも、サッカー一筋のヤツの方が女子にモテる…みたいな感じだろうか。優等生にしか分からない苦悩を背負っているモデルじゃなかろうか。

とはいえ、実はMH334にも他のモデルには太刀打ちできない群を抜いたチャームポイントはある。FitEarの持つ孤高のフィット感の素晴らしさだ。当然遮音性もピカイチ。

今や世界においてもトップクラスの成型技術を誇る須山補聴器が作り出すFitEarのシェルは、本当に素晴らしい。吸い付くようなという表現がまさにぴったりで、ピタッと耳にはまり一切の遊びがない。きつくもなくゆるくもなく、痛みも不快感もゼロ。音は漏れなく耳に届く。実際耳にはめてみれば他社のカスタムIEMとは一枚も二枚も上手の成型技術であることが実感できる。これは、日本人アーティストを中心とした数多くの制作経験の積み重ねであろうし、何よりそれまでに磨き上げられた補聴器製作のスキルの下地があまりに大きいのだろう。

▲フェイスプレート下部には、爪を掛ける切り込み(赤丸部)が入っており、耳から外す際にとても便利。ちょっとした気遣いだが、このような作り込みは他ブランドでは見られないもの。
こと日本人の外耳道はカーブが強く細い場合も多いという。日本人の耳に対しカスタムシェルを製作し続けてきた日本人のための日本人によるこのノウハウは、須山補聴器の独壇場である。シェルのクリアさや成型の美しさ、細かいフィニッシュの丁寧さなど、器用できめ細かい気遣いに溢れた完成度は間違いなく世界トップクラスのもの。そしてその巧みの技と職人のこだわりが、レベル違いの完璧な装着感を生み出している。

そういえば、FitEarは自社で耳型(インプレッション)を採取できる環境を有した世界でも数少ないブランドのひとつだ。こと日本においては、須山補聴器はインプレッション採取の第一人者でもあり、それこそ、UE、JH audio、Westone、UM…といった海外メーカーのカスタムIEMを作る場合でも、インプレッションは須山補聴器で採取するというのがこれまでの常識でもある。インプレッション採取における安心と信頼は、今後も変わらぬところだろう。

シェルの造型技術は、遮音を確保しカスタムIEMのサウンドを正しく耳へ届けるための重要な要素であり、見逃せないポイントだ。使い心地が良く音もいいとなれば、自然と手が伸びるのが常で、私の日常使いがMH334になるのは、単にそういう理由からである。しげしげとMH334をみると、3wayのドライバーは鼓膜に近いノズル底部ギリギリにまで迫り、それぞれの音導孔から3つの出力穴へ向かっている。非常にクリアなシェルの中で整然と並ぶ様子と、設計図どおりのブレのない作り込みの丁寧さは、日本ブランドならではの完成度。そしてそれがサウンドに現れているから素晴らしい。

FitEarが須山補聴器という補聴器専門店から誕生している事実も興味深い。メガネが視力の矯正装置であるように補聴器は聴力の矯正機器だが、一方で望遠鏡や双眼鏡のように、人間の能力をはるかに超える視力を獲得するための道具が存在する。同様に昨今の補聴器は、左右の音を解析しBluetoothでやり取りしながら、何の音かを判断することなどは朝飯前という。危険なものにはより大きなアラートを出し、単なる生活騒音は低減させるといったことも常識で、ある意味通常の人間の音察知能力を凌駕した能力が提供されているというのだ。要するにこうもりの持っている能力を可聴領域で再現するとか、あるいは他の感覚器官で受け取るようなことも可能になってくるわけで、人間の能力をはるかに凌ぐ超聴覚を手に入れるというSF映画のような世界も現実となりつつある。通常の聴覚を拡張させた状態で音楽を楽しんだらどれだけのぶっ飛び体験が味わえるのか…そんな夢のような、でも現実になりうる興奮の音楽体験ツールは、きっとFitEarのようなブランドが開拓・牽引していくのだろう。立ち位置も目線も、普通のカスタムIEMブランドとはひと味違うのがFitEarというブランドなのだ。

FitEar MH334は147,000円(税込・インプレッション採取費別)という高額アイテムだが、十分に高い満足度だった。トーンは心地よいフラットで全帯域をクリア&濃密に響かせる。昨今のトレンドにも合致し、十分な低域も持ち合わせている。現時点での一番のお勧めはこの最新モデルMH334となるが、FitEarには他にも様々なモデルがラインナップされており、この完成度から推し量ると、私は個人的に222や223という2wayモデルが非常に気になっている。2Way2Unitというシンプルな設計を、この見事なシェルで鳴らせたら、たまらなくシャープでストイックなサウンドが堪能できるのではないかという気がする。機会をみて、このモデルも是非試してみたい。

純国産ゆえに高額だが、FitEarはMADE IN JAPANの誇り高きブランドだ。そしてその至高の完成度を是非一度体感して欲しいと思う。カスタムIEMの可能性は、FitEarが示す道しるべの先に広がっているような気がする。

text by BARKS編集長 烏丸

●FitEar MH334
147,000円(税込・インプレッション採取費別)
・バランスド アマチュアドライバー:3Way、3Unit、4Driver(Low-1、Low・Mid×2、High×1)
・入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ

◆FitEar MH334サイト
◆FitEarオフィシャルサイト
◆フジヤエービック・サイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
◆実はすぐそこまで来ていた、カスタムIEMの世界

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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