【ライブレポート】いきものがかり、国民的グループになっても原点はいつだって彼らの中にあり色あせることはない

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今年(2012年)の4月から約7ヵ月にわたって行なわれてきたいきものがかりの全国ツアー<いきものがかりのみなさん、こんにつあー!! 2012~NEWTRAL~>も終盤戦。10月31日(水)、横浜アリーナから始まったアリーナ・シリーズは初日から立ち見が出るほどの満員御礼。当初、2デイズだった横浜アリーナは追加公演が決まり、結果、4日間にも及んだ。

◆いきものがかり 画像

客席を見渡すといかに、彼らが幅広い層に支持されているかが一目でわかる。まさに小学生からお年寄りまで。親子連れで見に来ている人たちも多いし、老若男女、3世代が一堂に会しているような光景が目の前に広がっている。

2月にリリースされたアルバム『NEWTRAL』は、オリコンウィークリーチャートの1位を記録。2010年に発売された初のベスト盤『いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~』は、「ありがとう」の大ヒットも追い風になってCD不況の時代の中、ミリオンセラーを達成したが、それ以前から、いきものがかりは近年少ない“アルバムが売れるアーティスト”なのだ。

着うたフル(R)やiTunesなどで単曲買いができる昨今、10曲以上の複数の楽曲が収録されている作品をまるごと聴きたい、というリスナーが多いのは、彼らが流行りに消費されないキラめく音楽を生み出しているからに他ならない。

この日のオープニングナンバーは、NHKロンドンオリンピックのテーマ曲でもある最新シングル「風が吹いている」。吉岡聖恵(Vo)の伸びやかな声が響きわたると、野外でもないのに会場に清々しい風が吹いてくるような錯覚に襲われた。そのボーカルと演奏に吸いこまれるように、まっすぐに1万2000人が耳を傾けている。国民的グループになっても飾らない人柄も愛される理由の一つだと思うが、みんなシンプルにいきものがかりの曲が好きで、生でその音楽に触れたいから、例えステージとの距離が遠い会場であっても足を運ぶのだと感じた。

吉岡、水野、山下をサポートするミュージシャンは、パーカッション、ストリングス、ブラスセクションも含む13人のゴージャスな編成。アップテンポのナンバーではレーザーが飛び交い、エンターティンメントな演出で楽しませてくれるし、「スカートはくようになったよね」とMCで触れられていた吉岡の衣装もカラフル。

それでも、3人のいきものがかりの本質は何ひとつブレていない。

山下がハーモニカを吹き、吉岡が赤いタンバリンを叩き、みんなで歌う「夏・コイ」はレゲエのほんわかしたリズムの雰囲気も手伝って、まるで学園祭を見ているような親近感。

MCは地元・神奈川ということもあって、地元トークで盛り上がり、水野と山下の出身地、海老名市のゆるキャラ「えびーにゃ」の話も。落選したもののネットで人気に火がついた「えびなさん」のことにも触れつつ、「千葉から来た人は? さいたまの人は?」と、遠くから来た人たちへの配慮も忘れない。

そして中盤では客席に降りて、通路を歩き大興奮するファンに手を振りながら、アリーナ席に設置されたセンターステージへと移動。路上で歌っていた頃と同じ、3人だけのスタイルで2曲を披露するサプライズも飛び出した。染み入ってくるまっすぐでピュアな吉岡の歌声とアコースティックギターの温かい音色。原点はいつだって彼らの中にあり、決して色あせることはない。

聴く人たちの心の中にいくつもの過ぎ去った夜を想い出させるようなノスタルジックで温かいバラード「おやすみ」から、寝静まった街並みを象やキリンたちが闊歩するファンタジックなCG映像へと移行する展開も、彼ららしく、スパンコールのショートパンツに着替えた吉岡が“爽やか女子”とは違うオトナな顔を見せるシャッフルのレトロなナンバー「恋詩」も新鮮! 鳥たちが飛び立つ映像とシンクロさせた名曲「ブルーバード」もアリーナならではのスケール感で響かせた。

水野が「これからはたて続けにアップテンポの曲を演りたいと思います! 盛り上がってっか!? イエー、楽しんでっか!? イエー!」と若干の初々しさで煽り、後半は「笑ってたいんだ」、「じょいふる」など、タオルを振ったり、全員で盛り上がる曲を連発。

「(路上時代に)横浜駅でも本厚木駅でもライブをやったんですけど、こんなにたくさんの人たちが集まってくれたことに感謝してます」と吉岡が涙まじりの声で話し、本編ラストは、「ありがとう」。

アンコールで「最初は続けることが目標だったんですけど、続けることがいかに難しいか感じている今です。そんな中で作ったのが『NEWTRAL』。こうやって、壁にぶつかりながらやっていくことしか僕らにはできないので……。僕らにとって唯一、憧れだった横浜アリーナで何度も何度もライブができるよう頑張ります」と、今の偽らざる心情を水野が話した場面も印象的だった。

路上からスタジアムクラスの会場へ――。その奇跡のようなストーリーの中、いきものがかりは、これからも会社帰りや学校帰りの人の心にすっと入りこむ普遍の輝きを持つメロディを生み出し続け、数えきれない人たちを癒し続けていくだろう。そう確信したライブだった。

取材・文●山本弘子

◆いきものがかり オフィシャルサイト
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