【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第35回「『George Harrison / Living In The Material World』徹底考察」

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ではいよいよ音についての考察です。
これも今までこの連載で取り上げてUS/UK盤を比較したものと同様の傾向が見られます。

USオリジナル盤。
僕が最初にアナログで聴いたのがこれでした。とにかくあたたかい音。CDと比べるのは余りにもナンセンスですが(それまでは2001年にデジタルリマスタリングされたCDを愛聴していました)、そのふくよかで包み込むような音はこの作品の内容にもマッチしていて、その優しさがより際立ちます。US盤はやはり中低音が強めというか重心が低めの印象ですが、このアルバムの場合に関しては、だからと言ってバスドラムとベースがグイグイ主張してくるのかというとそうではなく、ただただ全体的にふくよかで、懐が深いような音。すごく音に奥行きがあって、ツインのスライドやコーラスのハーモニーがとても気持ち良く響き、聴く者を優しく包み込むようです。

UKオリジナル盤。
この連載でUK盤を取り上げるといつものこの表現になってしまいますが、やはり背筋が伸びてシャキッとした印象です。いろんなものが一歩前に出て聴こえてきて、ヴォーカル、ギター、スライドギターは特に生々しく聴こえます。ピアノは固めの音で、アタックがよく出るのでよりリズミカルに聴こえます。US盤では太くザクザクしていたハイハットの音はは少し軽くなって馴染みがよく、アコースティックギターとの絡みが心地良いです。ベースは元々ロー成分が多くないせいか、US盤よりもUK盤の方がはっきり聴こえ、またバスドラムのアタックも出ているので、低音部分でのリズムの絡みもより楽しめます。そしてジョージのレスリースピーカーを通したエレキギターの音がとにかく気持ち良いのもUK盤。「Who Can See It」「That Is All」の音は本当に最高で本当にそこでスピーカーが回転しているかのよう。ずーっと聴いていたくなってしまう音です。ちなみにギターの音に関して突っ込んで言うと、まず最初にアナログ(US盤)で聴いたときにレスリーギターの気持ち良さと臨場感に驚きましたが、UK盤ではさらにそれを超えてきてぶったまげました。高音成分の伸びやかさによるところかもしれません。また、「That Is All」のギターソロはレスリーではないのですが、その音はUSでもUKでも本当に素晴らしく、アンプの箱鳴りが聴こえてくるほどで一聴に値します。

さて、USオリジナルとUKオリジナル。いつもはこのアルバムならUSが良いとかUKが良いとか言うのですが、このアルバムは好きすぎて何とも言えません……。

雰囲気で選ぶならUSオリジナル。
アンサンブルを楽しむならUKオリジナル。

ってところでしょうか。肝心のジョージの歌で選びたいところですがそれも難しい。前述の通りUKの方が近くに聴こえるのですが、USの方が少し太めでふくよかで優しいのです。

そんなわけでやっぱり選べません。

ただUSオリジナル盤はかなり安いので、オススメです。



▲写真15:中央部がプッシュアウト式になってて、UK 7inchに多く見られる仕様です
「Give Me Love」の7inch。

これはもうやっぱり7inchの音で、音圧が高くて全体的にグイグイ来てます。そしてギューっとはしてますが、そんなにレンジが詰まっている印象もなく、ヴォーカルは抜けてきます。UKLPのようにはアンサンブルの抜き差しは感じられませんが、バランス良く音が埋まっている印象でリッチです。この7inchの音は本当に良いです。
でもやっぱり、繰り返し聴くならLPかなと思ってしまいますが、ふと思い立ってこの7inchを聴くと、震えます。

カップリングは「Miss O'Dell」。2001年に『Living In The Material World』がデジタルリマスタリングCDで再発された際にボーナス・トラックとして収録されましたが、それまではこの7inchでしか聴けなかった曲です。



『Living In The Material World』。
この作品は何度も言っている通り本当に大好きなので、文章を書くのが本当に大変でした。想いが強すぎて何を書いたらいいか迷うだけでなく、レコードに針を落とすとついつい聴き入ってしまい、全く筆が進まなくなってしまうのです。無人島に持って行く10枚に入るアルバムだと思います。

またこれは音楽ファンとしてだけでなく、ミュージシャンとしても大きな影響を受けたアルバムです。ジョージのギタープレイ自体に影響を受けているのはもちろんなのですが、ギターのアンサンブル、そしてバンドアンサンブルやサウンドの組み立て、楽曲のアレンジに於いてもかなり影響を受けていて、色々とお手本にしています。ビートルズのアルバム達と並んで、僕の“教科書アルバム”の一つです。

そしてこのアルバムの深い部分での素晴らしさ ―雰囲気の美しさ、演奏の素晴らしさ、アンサンブルの素晴らしさ― に本当の意味で気付いたのは、初めてオリジナル盤で聴いたときでした。今考えると、もちろんCDで聴いても気付くべきだと思うのですが……聴き込みが甘かったのでしょうか……。

音楽好きでビートルズを聴き込んでいる人でも、メンバーのソロ作はほとんど聴いていないという人は意外と多いものです。ジョンの『Imagine』はさすがにポピュラーですが、それでも「Imagine」の曲のみで、アルバムとしては意外と聴かれていないような気がします。ジョージのソロとなるとまず『All Things Must Pass』があるので、この『Living In The Material World』は陰に隠れがちです。

でも、僕がビートルズのメンバーのソロ作の中で一番好きなのは、ジョージ・ハリスンの『Living In The Material World』です。この陰に隠れがちな素晴らしいアルバムを、これをきっかけに聴いてみていただけたら幸いです。美しい楽曲と、優しい歌声と、愛に溢れた演奏がそこにあります。そしてUSオリジナル盤は驚くほど安く(何と数百円です)、数もたくさん出回っているので、ぜひ一度聴いてみて下さい。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。


text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)

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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※ C.W.ニコル氏公認)

◆D.W.ニコルズ オフィシャルサイト
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